vs ゼクローザス(パイロット:リオネ・ガルシア)

「さて、撤収するか……ん?」

 タチャンカを撃破した龍野は、残骸の中にある見慣れない物体を確認した。

『ヴァイス』

『何かしら?』

鹵獲ろかくしても、いいのか?』

『契約書には何も書かれていないわ。気になるのなら、どうぞ。ただし自己責任でお願いね』

 許可を受けた龍野は、一度機体を降りる。

 タチャンカの残骸にある、謎の装置の前に近づいた。

「これは……読めねえ。って、説明書があるぞ。なになに、『チェルノブ』だって?」

 15分ほど説明書を熟読する龍野。

「よし、一度持ち帰るか」

 特殊能力『重量調節グラビティ』を発動し、重量を0グラムにすると、小脇に抱えてコクピットまで飛翔した。

「さて、後は……ん?」

 撤退しようとしたが、遠くに見慣れた機体を見つけた。

「あれ、ゼクローザスじゃねえか!?」

 龍野が近づこうとする。

『龍野君、レーダーでの色をよく見なさい!』

 すると、いきなり通信が飛んできた。

『あ? レーダー?』

 疑問が生まれたが、最大倍率で確認する。


 レーダーは、ゼクローザスを“正体不明機アンノウン”と認識していた。


『黄色!? ヴァイスお前、コイツゼクローザスは味方じゃねえのかよ!?』

『嫌な予感がしたから、念のために設定を変更したのよ。確かあの機体、霊力使いしか搭乗出来なかったはずだから……龍野君、コンタクトをとってみて』

『あー……あいよ(やるけどさ、ゼクローザスって、アイツの機体だろう?)』

 龍野は意識を集中すると、シュヴァルツリッターに剣礼のポーズ(剣を顔の前に持ってくること)を取らせてから、ゼクローザスに向けてコンタクトを取った。

『あーテステス、そちらのゼクローザスの搭乗者、応答せよ。こちらは黒い人型機体に搭乗している。繰り返す、そちらのゼクローザスの搭乗者……』

 搭乗者が不明だが、霊力や魔力が無ければ搭乗不可能。

 だからこそ、念話でのコンタクトを試みた龍野である。

『あの、もしかして……』

 果たして、の声が返ってきた。

(ん? アイツは……ハーゲン少尉は、、だったよな?)

 疑問を抱きつつ、念話を続ける。

『そちらの姓名と行動理由を教えていただきたい』

『もしかして、ベイエリアの……!? 私です、ハーゲンと一緒にいたリオネです! リオネ・ガルシアです、黒騎士様!』

『そうか、リオネさんか! 改めて名乗るぜ、俺は須王龍野! ところで、どうして……』

『それについては、十秒だけ待ってください』

『え?』

 龍野が戸惑っていると、ゼクローザスが実剣を向けてきた。


『私と決闘してください、黒騎士様!』


『そういうことか……!(くっ、どうする……? 機体を破壊して脱出させるか? けれど勝利条件が不明だ……そうだ!)』

 龍野は逡巡した様子を装い、ヴァイスに念話で連絡する。

『ヴァイス!』

『何かしら、龍野君?』

『確認なんだが……この決闘の勝利条件って、何だったっけ?』

『“代理”の完全死亡、または“ベル”の破壊よ』

『あいよ!(だったら降参させるぜ……!)』

 覚悟を決めた龍野は、リオネの要求に応じる。

『その決闘、受け入れた!』

 同時に、アナウンスが全域に響き渡った。

「ただいま、J陣営の“須王龍野並びにシュヴァルツリッター”と、❤陣営の“リオネ・ガルシア並びにゼクローザス”との決闘が成立いたしました。繰り返します。ただいま、J陣営の“須王龍野並びにシュヴァルツリッター”と、❤陣営の“リオネ・ガルシア並びにゼクローザス”との決闘が成立いたしました。これよりカウントダウンを開始いたします。5, 4, 3...」

『言っとくが、容赦しねえぜ? そっちは敵だ。敵なら、遠慮無く剣を振るわせてもらう』

『それはこちらも同じですよ、黒騎士様』

 お互いの覚悟を告げる二人。

「2, 1, 0! 決闘開始!」

 決闘が、始まった。



『龍野君、全力で後退して!』

 ヴァイスからの指示が飛ぶ。言われた通り、距離を取る龍野。

 すると、龍野がいた地点を何かが通り抜けた。

『開始早々の砲撃……見たわね、龍野君?』

『ああ、見たぜ。なら、容赦する必要はねえな!』

 盾を構え、ロケット弾を6発斉射する。

『私が鋼鉄人形で戦えないとでも?』

 だが、全て機銃で叩き落された。

(まあ、やっぱりな。だったら……戦法の変更だ!)

 武装を確認する。

「魔術機関砲」の項目を発見した。

(実弾がダメなら、こっちはどうだ……!)

 イメージを送り、機関砲の連射を開始する。

『ッ!』

 だが、光を纏った盾に弾かれる。

(ダメだな、貫通出来そうにねえ! つーか何だ、ありゃあ……霊力か!)

『やってくれますね……でしたら、返礼させていただきます!』

 盾を地面に突き刺し、左手に76.2mm速射砲を携行するゼクローザス。

 右手に携行していた120mm滑腔砲と合わせ、2門斉射を行ってくる。

『龍野君、障壁だけに頼り過ぎないで!』

『あいよ!』

 盾を構えつつ、距離を詰める。

 遠距離から砲撃を飛ばし合う泥仕合で負けるつもりは無かったが、生憎な事に「リオネを生きたまま救出し、その上で“ベル”は破壊する」という、難易度の高い条件を課されているのだ。

 いや、半分は“課している”というべきか。かつて共闘した仲間を殺そうと思うほど、龍野は神経が太くなかった。

『せいっ!』

 盾の重量を20tに上昇させ、盾による体当たりシールドバッシュを敢行する。

『ぐうっ! けれど……』

『龍野君、魔力を盾に込めて! 速く!』

 至近距離では意味を為さない両手の砲を捨て、実剣を抜くゼクローザス。


 抜刀と同時に、斬りつけてきた。


『ッ、霊力を込めた剣でも切れない……!?』

 リオネが動揺し、動きが一瞬止まる。

 だが、龍野には近すぎる距離だった。

(仕切り直す!)

 後方へ跳躍し、大剣に魔力を纏わせる。同時に盾を捨て、両手で大剣を構えた。

『剣同士の戦いで、勝てると思うなよ』

『さあ。一応言っておきますけど、これでも軍学校では十本の指に入る操縦士ドールマスターでしたけれど?』

 お互いに大剣を構え、距離を詰める。

 そして剣戟が始まった。

『なかなかだな……!』

『そっちこそ……! というか何ですか、この重さは……!』

 実際、一撃打ち合う度にゼクローザスが押される。

 全備重量はほぼ互角(龍野は盾を一時投棄したため)だったが、体格差や出力ではシュヴァルツリッターが大幅に上回っていた。

『なら、遠慮している暇はありませんね……!』

 リオネが大剣に霊力を込める。

 打ち合おうとした龍野だが、大剣の振る速度を見て遅いと察した。

『龍野君、蹴飛ばして!』

 ヴァイスの指示が飛んでくる。

 今なら十分に間に合った。

『おう!』

 そしてゼクローザスを全力で蹴飛ばし、うつ伏せにする。

『きゃああああああッ!』

 地面に倒れた所を馬乗りになり、『重量調節グラビティ』で重量を150tにして抑え込んだ。

『直接“ベル”を破壊する!』

 龍野は黒騎士と化し、コックピットを捜索する。

(ッ、あった! 強制脱出レバー!)

 胸部のレバーを力任せに引き、コックピットを解放する。

『終わりだぜ、リオネ!』

 衝撃で気絶しているリオネの腕を掴み、そして――


 ベルを握力で以って握り潰した。


「決闘終了。勝者、“須王龍野並びにシュヴァルツリッター”。繰り返します。勝者、“須王龍野並びにシュヴァルツリッター”。これにより、J陣営に1のアグニカポイントが付与されました」

『終わったな……さて、一度機体をどけるか(ロケット弾の残弾36……少し使い過ぎたな)』

 龍野はシュヴァルツリッターに搭乗し、重量を元に戻してからマウントを解除する。

「ん……あれ? ベルが……」

 龍野が戻る前に、リオネが意識を取り戻す。

「そっか、これで……。ああ、負けちゃった……」

「何言ってんだ。まだ負けちゃいねえぞ、リオネさん」

 いつの間にかコクピットから降りた龍野が、リオネの背中を支えていた。

「ゼクローザスに余計な負荷を掛けちまったが、多分歩行程度は出来るはずだ。しばらくは乗っていてもいいはずだぜ」

「わかりました……ありがとうございます、黒騎士様」

「それと、だ。かしこまる必要は無いぜ。こういう話をするのも何だけど、俺、多分あんたより年下だ」

「と言うと?」

「俺はやっと、16を迎えたばかりなんだよ」

 そう。

 厳密にはリオネは若干異なる年齢の出し方となるが、地球人に相当する年齢は27歳程度であった。

「乗ったらついてきなよ。案内するぜ」

「血……」

「ん、どうした?」

「血、吸わせて……」

「まさか!」

 龍野が口を開かせ、歯を見る。


 犬歯が異様に鋭くなっていた。


『ヴァイス。緊急事態だ、浮気まがいの事してもいい許可をくれ』

『何をするのかしら?』

『女性の吸血鬼に、血を吸わせる』

『良いわ。ただ、腕から吸わせてあげて』

『あいよ』

 龍野は鎧を解除すると、リオネに左腕を差し出す。

「ほら、吸いなよ。400mlくらいなら、へっちゃらだからさ」

「……」

 リオネは一瞬逡巡する。

(まあ、出来ればハーゲンの血を吸わせてやりたいんだけどな。いるかどうか保障もねえのに、そんなことは出来ねえ。見捨てるのも同然だ。悪いが、強引に吸わせる……ッ!)

 だが、龍野が強引に歯を腕に食い込ませた。

「いてえ……ッ! 初体験だぜ、こういう傷は……!」

 戸惑ったリオネだが、ゆっくりと血を吸い始めた。

「よし、そのまま吸い続けろ。俺が強引に離すまでは、だけどよ」

 そのまま五分間にかけて、リオネは龍野の血を、ゆっくりと吸い続けた。



「さて、魔力で傷も塞がったし、リオネもゼクローザスに乗った、味方判定への識別変更も完了……なっ!? また正体不明機アンノウンだと!?」

 北の方角から、黄色い矢じりが迫ってきていた。

(最大望遠で確認する……!)

 程なくして、龍野達に迫っている機体を確認した。

 白を基調に、朱色のマーキングを施した細身の機体であった。

『ここか。おい、そこのゼクローザスに漆黒の騎士。心当たりは一応あるが……問おう、誰が乗っている?』



(ハーゲンか……!)



 声の主は、以前「異界電力ベイエリア」にて共闘した男、ハーゲン・クロイツ少尉だった。



作者からの追伸


 有原です。

 今回は事前に、暗黒星雲様からキャラクター使用の許可をいただいております。


 出てきましたね、あの機体。

 本来であれば、いくら「帝国最強の戦力」であるハーゲンでも到底搭乗出来ない機体が。

 ではその正体は?

 それは次回に回します。


 最後に一言。


 浮気させてごめんなさぁあああああい!

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