戦争開始(1日目)
vs Arc.コワレフスキー
「いいんだな、ヴァイス?」
「ええ。自由に進んでちょうだい」
「あいよ!」
龍野は装備を整えたシュヴァルツリッターに搭乗し、戦場を闊歩した。
*
その頃。
“テンプレ墓所”近くの森に、一体のロボットがいた。
「何だあれは!?」
声の主は、搭乗していた人物であった。
白衣と分厚いメガネを着用し、髪型をオールバックに整えている男。
研究者だと、容易に推測出来る外観であった。
「吾輩の『タチャンカ』以外にも、動く巨大な、しかも人型の兵器があったと!? 面白い! 是非とも研究材料にしてやる!」
拡声機能をオンにし、呼びかけを始める。
「そこの黒い巨大な機体! 是非とも吾輩の研究材料になるが良い!」
*
「何だ、どこから聞こえている? あの辺りだが……見つけた!」
レーダーから方角を特定し、自動で見慣れぬ機体がズームアップされた。
「おい、そこのロボット! 俺の事を指しているのか!?」
拡声機能をオンにし、声の主に呼び掛ける。
「その通りだ! 貴様のその機体、吾輩の研究材料にしてくれる!」
「つまりどういうこった!?」
「吾輩と決闘しろ!」
隠しもせず、望みを告げるオールバックの研究者。
龍野は一瞬の逡巡の後、こう告げた。
「受けて立つ!」
そう言い放った直後。
「ただいま、J陣営の“須王龍野並びにシュヴァルツリッター”と、♣️陣営の“ボリス・コワレフスキー”との決闘が成立いたしました。繰り返します。ただいま、J陣営の“須王龍野並びにシュヴァルツリッター”と、♣️陣営の“ボリス・コワレフスキー”との決闘が成立いたしました。これよりカウントダウンを開始いたします。5, 4, 3...」
「!」
決闘開始直前の、カウントダウンが始まった。
*
同じ頃。
「あら、光がわたくし達の体から出ているわね」
「お姉様、これは一体……!?」
「まさか、先程の決闘開始に際し、オペレーターである
ヴァイス、シュシュ、武蔵の三人は、光と共に姿を消した。
「ここは……?」
目が覚めた三人。
そこは、モニター類が多数設置された部屋であった。
「どこかしら? ここは」
「指揮室のような見た目ですわね」
「転移させられた、そう考えるべきだな」
モニター前の椅子に座り、龍野と見慣れぬ機体の様子を伺うヴァイスとシュシュ。
「何だこれは? 『お届けするのを忘れておりました。4つございます。うち1つは、近くの転送装置で“代理”に届けてくださいませ』? どういう意味だ?」
その声を聞いたヴァイスが、武蔵に駆け寄る。
「これは……通信機器、ですわね」
手に取り、周囲を眺めて即座に結論を下すヴァイス。
「シュシュ、進藤少尉、1つ身に着けなさいな」
「はい、お姉様」
「そうさせてもらう」
「では、これは転送装置に……ありました。これはボタンを押すのでしょうか?」
「迷うな!」
武蔵は通信機器を装置の上に置くと、即座にボタンを押す。
同時に、機器が消滅した。
「これで届いたと、信じる他無いわね」
「ええ」
「それよりも……カウントダウンが始まっている。もう決闘開始だろうな」
ヴァイスと武蔵は、急いで座席についた。
*
「2, 1... 0! 決闘開始!」
「行くぜ!(コワレフスキー……ふざけた名前だ!)」
「研究材料よ、大人しく我が『タチャンカ』に屈するがいい! フハハハハハ!」
シュヴァルツリッターが盾を構え、ロケット弾を斉射する。
「まずはこれで!」
残弾が「0045」と表示された。
だが。
「ヒャハハハハハ、我がタチャンカには当たらぬ! ゆけい、吾輩の『メンデレーエフ』よ!」
タチャンカから音叉状の砲身が4本、シュヴァルツリッターに向かって伸長する。
「食らえいっ!」
独特の発射音と同時に、徹甲弾が4連射される。
音速を軽く上回る弾丸は、龍野といえども反応出来なかった。しかし。
「効くかよ!(障壁へのダメージはほぼゼロ……大丈夫だ!)」
「むむうっ、ならば……!」
再びレールガンが発射される――!
「弾の無駄だぜ……!」
『龍野君、飛翔して!』
「うっ!?」
耳元でいきなり響いた、ヴァイスの声。
間に合わず、障壁で弾丸を受け止めた。
『何なんだよヴァイス!? って、えーっ!? 俺の耳に何かついてやがる!?』
『龍野君、いいから早く高度を取って! 毒ガスにやられるわよ!』
『あいよ……!』
耳を押さえながらも、機体に魔力を流し込む。周囲を確認すると、妙なもやが出ていたのを視認した。
(空気と同じかそれ以上の重さだな……! ヴァイスの言う通り、とっとと飛ぶぜ……!)
ブースターから魔法陣が展開され、シュヴァルツリッターは大空へと飛んだ。
「何なのだそれは!? ますます興味が湧いてきたぞ、逃がすものか!」
コワレフスキーが叫びながら、三度レールガンの発射準備を整える。
「これで落ちよ! 吾輩のぉおおおおお、研究材料にぃいいいいい、なるのだぁあああああッ!」
発射された弾数は、またも4発。
あっさりとシュヴァルツリッターに直撃するが、たいした威力は無いかと思われた。しかし。
「
直接的な衝撃は、目的としていなかったのだ。
電磁パルスが、周囲に拡散する――
「電子機器なんてねえよ、バカ野郎が」
「何ぃいいいッ!?」
そう。
魔力や宝石によって構成し、または駆動するシュヴァルツリッターに、元より電子機器など存在しない。
機体にある電子機器は龍野が装着している通信機器のみだが、当然EMP対策をしているため、やはり意味が無い。
つまり、完全に無駄弾だったのだ。
「クソォオオオオッ! 最早残骸でも構わん! 『チャイコフスキー』!」
自らの成果を否定されたコワレフスキーは、怒りに任せてロケットを乱射する。
「ミサイルじゃあるまいし、当たるかってんだ……よッ!」
命中寸前のロケットを盾で叩き落しながら、剣先から
「ぐっ! 『チャイコフスキー』が!」
ロケットポッドを吹き飛ばされるが、本体は無事だった。
「ならば! デグチャレフゥウウウウウ、マッスゥイイイイインガン!」
胴体中央のマシンガンが高空を向き、火を噴き始める。
「何だそりゃ? 効くワケねえだろ、このバカ……!」
更に
「当たってたまるか……! おのれおのれおのれ、よくも吾輩のタチャンカをぉおおおおおッ、馬鹿にしてくれおってぇえええええ!」
もはや自暴自棄となり、後退しながら『メンデレーエフ』を乱射し続けるコワレフスキー。
「相手が悪かったな! 機械なんていくらでもいたものを、よりにもよって俺と『シュヴァルツリッター』を選ぶなんてよ!」
更にロケット弾を3発撃つ。
直撃こそしなかったが、爆風がタチャンカのタイヤを奪い去った。
「何っ!? 動かないだと!? ならば脱出を……ッ、フレームが歪んで……!」
「これでっ、終わりだぁああああッ!」
毒ガスの範囲から脱していたため、ゼロ距離まで近づく。
そして胴体に大剣を突き立てると――
「さよならだ、哀れなマッドサイエンティスト」
剣先から、ビームを発射した。
「うひひっ……負けた……負けたのか、吾輩のタチャンカが……! そんな、そんなこと……あってはならんと、いうのにぃいいいいいッ!」
自らの体を吹き飛ばされる直前、コワレフスキーはコクピット内で断末魔を上げた。
しかし拡声機能が壊れていたので、その叫びは誰にも聞き届けられなかった……。
*
「決闘終了。勝者、“須王龍野並びにシュヴァルツリッター”。繰り返します。勝者、“須王龍野並びにシュヴァルツリッター”。これにより、J陣営に1のアグニカポイントが付与されました」
決闘終了のアナウンスが響いたのを聞き届けた龍野は、安堵のため息をついた。
「ふう……終わったぜ(ロケット弾の弾数は42発か。まあ、まだ十分だな)」
ふと、何かを思い出したように耳に手を当てる。
『おい、ヴァイス!』
『何かしら、龍野君?』
『この装置は何なんだよ!? どうして送られたんだ!?』
『ああ、それはね……』
龍野は機体を動かすのも忘れ、ヴァイスを問い詰めたのであった。
作者による追伸
有原です。
早速、対決を決着させました。
本当は『クルチャトフ』を使うべきだったのですが、こちらの戦闘予定に沿った結果、無視されてしまいました。
南木様、申し訳ございません。
ちなみに『チェルノブ』ですが、次回の冒頭で回収いたします。
では、今回はこれにて。
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