夕食とお風呂場

 リンドに城を飛ばされた龍野達だが、「迷惑料」として提供された一軒家で、楽しそうに夕食を作っていた。

「さて、出来たぜ。しっかしまあ、よくこんなに食材が残ってたな」

「ええ。城にたっぷりあったし、家に入るだけ入れてくれていたみたいだから、このくらいは当然よ」

 宮廷料理に比べれば格式は大きく劣るものの、割と豪勢な食事がずらりと並んだ。ヴァイスが作ったのだ。

「三日間ですもの、一食にこれくらいを割いても余裕ね。来客をもう3、4人泊めてもまだもつわ」

「そうかよ、そりゃあよかった。おっと食事に似つかわしくない感覚だ。先に食べててくれ」

「そうさせてもらうわね。いただきます(うふふ……。龍野君、あなたの食事に一服盛らせてもらったわ。うふふ)」

 ヴァイスは内心で妖しく微笑むと、食事を始めた。


「ごちそうさまでした!」

 夕食、そして片づけを終えた4人は、誰が最初に風呂に入るかの協議をしていた。

「日本には、レディーファーストという言葉がございますわよね?」

 最初に優先権を主張したのはシュシュだ。

「あるぜ。つーか俺らは鍛えてくっから、後回しだな」

「龍野、おれはお前の後に入らせてもらう」

「あいよ」

「となると、お姉様の順番次第ですわね……」

「シュシュ、一番風呂に行ってらっしゃいな」

 一瞬で答えが出た。

「ありがとうございます、お姉様!」

「いいのよ、行ってらっしゃい。私も鍛えてくるから」

 かくして、入浴の順序も無事に決まることとなった。


「広いですわね……」

 一軒家にしては、そこそこの広さを有する浴槽だった。

「さて、手早く体を洗いますわね」

 シュシュは優雅な一番風呂を、じっくりと味わっていた。


     *


 一時間後。

 ヴァイスも風呂から上がり、プライベートで着用するドレスを身に着け終えていた。

「どうぞ、龍野君」

「あいよ……って、何だ?」

 龍野の耳元に口を近づけ、囁くヴァイス。

「お風呂上がりに、私の部屋へ来てほしいな」

「承知したぜ」

 龍野の返答を確認すると、微笑みで答えた。

「よろしくね」

 そして、自室へと去って行った。


「そんじゃ、ひとっ風呂入るとしますか……ッ!? 何だこりゃ……!?」

 龍野が浴室の扉を開けた直後、膝をついて崩れ落ちた。

「ヴァイスあの野郎、何盛りやがった!? ぐっ……!」


 その頃、ヴァイスの部屋では。

「うふふ……。さて、龍野君のお風呂はだいたい20分程度。時間になったら、迎えに行かないとね」

 壁掛け時計を眺めながら、ヴァイスは妖しく微笑んでいた。



作者による追伸


 ヴァイスが早速何かしでかしましたね。

 ああそうそう、ヴァイスが龍野に盛ったのは、いわゆる「毒薬あるいは劇物」のたぐいではありませんよ。そもそも魔術師には、毒薬類は完全に無効なのですから。

 え、だとしたら何なんだ、って? それは次回のお楽しみでございます。フフフ。

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