最早平穏な時間など無い

「さて、そろそろ時間か。どうだった、フーダちゃん?」

「まあまあ……かな」

「そうかい」

『シュヴァルツリッター』によるを終え、城へ戻ろうとする龍野とフーダ。

 視界は“全天周モニター”モードに設定されており、機体の中でも風景を楽しむことが出来る。

「ん……」

「どうした?」

 フーダが違和感を覚え、ある方向を指し示す。

「何か、あるのか……?」

 意図が掴めない龍野は、必死に目を凝らす。


 次の瞬間、障壁がひとりでに展開した。


(襲撃……!? どこから……!)

 素早く視界を“網膜投影”に切り替える。

「わっ!?」

「フーダちゃん、何があっても俺にしがみついてろ!(レーダーの反応が、見当たらない……!)」

 首を左右に振り、索敵を続ける。

(ん? 今レーダーに、うっすらと……)

 龍野が違和感に気づく頃には、再び障壁が展開していた。

(間違いねえ、一瞬だったがはっきり見えた! 後はその方角を向けば……!)

 西へと通り過ぎた陰を見つける。

「あれか!」

 間違いない。

(あの戦闘機――あれが俺達を!)

 再び、突撃しながらの機関砲掃射を行ってくる。レシプロ戦闘機さながらの攻撃方法だったが、フーダを乗せた龍野は迂闊に動けない。動いたらフーダに無駄な苦痛を与えてしまう。

 不気味な重低音が響き、シュヴァルツリッターの障壁と大盾の表面が弾ける。

(単調だな……! パターンは読めた!)

 三度突撃し、ウェポンベイが開く。奥には黒光りする砲口があった。

(遅い……!)

 龍野は素早く大剣を構え、照準を合わせる。

「不意打ちとは恐れ入ったぜ……!」

 魔力を充填し、光条レーザーを放った。


 光条レーザーに呑まれた戦闘機は、でたらめに機関砲を発砲しながら爆散した。


「もういつ出てもおかしくねえな……だけど、ひとまず終わったみてえだ。帰るぜ。まだ掴まってろよ、叩きつけられるぜ!」

 龍野はフーダに警告すると、出来る限り加速して城に帰還した。


     *


「ん。映像が途切れたわね……」

 壁に囲まれた空間内部のどこかに、女性型の機体がそびえ立っていた。

 内部には、金髪かつ抜群のプロポーションを備えた女性が鎮座し、操縦桿を握っていた。

「しかし、その姿はしっかり見据えたわよ。倒すべき敵、黒騎士シュヴァルツリッター……」

 女性が操縦桿を操作すると、機体はブースターを吹かす。すぐに180度回り、いずこかへと飛び去って行った。


     *


「ただいまー」

 ヴァレンティア城の格納庫に機体を戻した龍野は、フーダを抱えながらヴァイスに話しかけた。

「どうだった?」

「楽しかった……」

 やはりヴァイスには、幾分か素直になるフーダ。

「それに、騎士様も強かった」

「どういうこと?」

「やっつけたの。変な空飛ぶ魔物を、どかーんって」

「まさか龍野君、敵勢力と交戦したの?」

「ああ。戦闘機みてえな形状したヤツが、ぶっ放してきたからな。自衛の為に交戦したぜ」

「わかったわ。では、龍野君に命令を出すわね」

 ヴァイスは表情を瞬時に引き締め、断固たる口調で告げる。

「命令は二つ。一つ、今回の戦闘に関する報告書を作成すること。もう一つ、作成が完了し次第眠ること。私が監視するから、逆らえると思わないことね」

「へいへい」

「フーダちゃんにも来てほしいな」

「わかった……」

 龍野とヴァイス、それにフーダの三人は、ヴァイスの部屋へと歩いて行った。


「ところで、ヴァイス」

「何かしら?」

「俺が休んでいる間に、夜明け前の教団連中みてえな襲撃があったらどうすんだ?」

 龍野の質問に、いつもの調子を崩さず答えるヴァイス。

「そうなったら、私が『シュヴァルツリッター』に乗るわ」

「俺用じゃねえのかよ?」

「非常時は、私とシュシュも乗れるようにしてあるの。龍野君が『ヴァイスリッター・アイン』『ヴァイスリッター・ツヴァイ』に乗ることも出来るわ(もっとも、あくまで緊急事態を凌ぐための設定なのですけれど、ね)」

「手回しがいいな……! わかった、安心して二度寝するぜ!」

「うふふ」

 談笑している内に、ヴァイスの部屋の前に到着した。

「……」

 そんな二人の様子を、終始微妙な表情で見つめるフーダであった。

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