前哨戦(後半)

「何だあれは!?」

「怯むな、かかれ! 城のあるじはすぐそばだ!」

「いい加減にしろお前ら!」

 シュヴァルツリッターの拡声機能を使った龍野が集団に憤りつつ、剣先からレーザーを放つ。

「何だ!?」

 レーザーが通り抜けた後は、真一文字に草原が焼け始めた。

『龍野君、ついでだからバリスタも壊しなさいな。ただし出力は最小で』

『あいよ、流石にあれは厄介だもんな』

 更に剣を構え、バリスタに狙いを絞って光条レーザーを放つ。

 極力馬と人間から離れた位置を狙った光条レーザーは、バリスタだけを破壊した。

「ッ、使えないとは!」

「あの巨人を撃て、城とあるじは後だ!」

(狙い通りね)

 集団が龍野(シュヴァルツリッター)を狙い始める。

「バカなことはやめろ!」

 だが、障壁で全ての矢や砲弾が弾き返される。

「これでどうだ!」

 馬と車を繋ぐ箇所を狙い、大剣の切っ先を突き立てる。

 馬の尻尾を少し持って行ったが、馬は元気にパニックになった。

「いい加減攻撃をやめろ! そうしたら俺もやめる!」

「くうっ……我らが神よ、ご加護を!」

 集団が一斉に剣を掲げる。

(魔術か!?)

 龍野は態勢を安定させ、いつでも回避出来る状態に整えた。

「放て!」

 剣先から撃ち出されたのは、雷の魔法だった。

 だが、『障壁』のゲージは全くと言っていいほど減っていない。

(避けるのもバカバカしいぜ……)

「勝てやしない」という事実を突きつけるためにも、敢えて真正面から全て受け切った。それも障壁だけで、だ。

 雷の魔法が止まったのを確認すると、何事も無かったかのように龍野が告げた。

「それだけか? 何かすると思ったら、期待外れだったな」

「ダ……ダメだ! 勝てない!」

「ここで退くワケには……!」

「しかし、神のご加護も全く……!」

 集団の士気が挫け始める。

『龍野君、城に一番近い指揮官を生け捕りにして!』

『あいよ』

 龍野は素早く盾を投棄し、指揮官を潰さない程度に握る。

「さて、無礼極まりないながらも人質を取らせていただきました。お返ししてほしければ、二つの要求を飲み込んでいただきます」

 ヴァイスは声を張りながら、シュヴァルツリッターの近くまで歩み寄る。

「まず一つ目は、あなた方の即時撤退を希望します。そして二つ目。それは、あなた方の指導者への面会を希望します。どちらも簡単でしょう?」

 龍野はシュヴァルツリッターを片膝立ちさせ、ヴァイスの近くに指揮官を差し出す。当然、手のひらは握ったままだ。

「どちらか一つでも誠実な履行がなされない場合は……」

 ヴァイスが指揮官の近くまで歩み寄り、氷剣を召喚する。

 そして素早く、指揮官の喉元に切っ先を差し出した。

「おわかりいただけますわね?」

「それだけじゃねえ、次はお前らの本拠地に攻め入るぜ!」

 龍野がアドリブを効かせ、更に精神的に追い詰める。

「きっちり話を聞いてくれりゃ、こいつも無事に返すさ」

 指揮官を握りしめた手を掲げ、集団に見えるように示した。

「ああ言っておくけど、その気になりゃ全滅させられっから、その上で判断してくれ」

 ダメ押しの一言を告げると、集団がざわつき始めた。

「クソッ、我らが神に逆らうか……!」

「だが、今死ぬのは無駄死にだ!」

「どうしようもないというのか……!」


「総員退却せよ!」


 指揮官が全力の号令を出す。

「くっ……退却!」

 聞き届けた集団が、徐々に離れていった。

「さて、約束の一つ目は履行されたな」

『龍野君、私をコクピットに乗せて』

 龍野が安堵していると、ヴァイスからの念話が届いた。

『おいおい、一人乗りだぞ?』

『間違えたわ。膝の上に座らせて』

『視界が狭くなるだろ?』

『大丈夫よ、“網膜投影”があるから。イメージを浮かべたら切り替えられるわ』

 ヴァイスの指示通り、イメージ一つで切り替えを完了させた龍野。

『そうだ、少し待っていて』

 ヴァイスが魔力を噴射し、シュヴァルツリッターの肩に座る。

『シュシュ、聞こえるかしら?』

『ええ、聞こえておりますわお姉様』

『少々話を付ける必要が出来たから、留守の間は城を預けるわ』

『かしこまりましたわ、お姉様。では、ご無事で』

 シュシュとの念話を終えたヴァイス。

『龍野君、コクピットハッチを開けて』

『あいよ』

 首元が前に傾き、ハッチが開く。

 ヴァイスが搭乗したのを確認すると、龍野はハッチを閉じた。

「さて、ようこそ」

「お邪魔するわね」

「で、いつ頃出向く?」

「一時間後ね。距離は大したことがないようだから」

 ヴァイスは後ろを向くと、龍野を抱きしめる。

「頼むからここではよしてくれよ。無駄な魔力の消耗は避けたい」

「わかっているわ。あくまで、龍野君のぬくもりを確かめたいだけ」

「まあ、キスまではセーフにしてやる」

 二人は互いの体温ぬくもりを感じながら、ひたすら時を待った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る