フーダの「お願い」

 一時間後。

 食事と休息をとり、気力を回復させたフーダは、ヴァイスからの尋問を受けていた。

「そうだったの……。そんな過去があったのね……」

 聞いた話を反芻はんすうしながら、フーダの頭を撫でるヴァイス。

「ん……」

 すっかりヴァイスへの警戒をフーダは、ヴァイスの胸にうずくまっていた。

「ん、お姉ちゃん……」

 先ほどの憎悪も、ヴァイスが密着している間はすっかりなりを潜めている。

「これ、あげる……」

 フーダが何かを差し出した。

 受け取ったヴァイスは、その物体をまじまじと見つめる。

「コインの入った……腕輪、かしら?」

「うん……」

 フーダの差し出したコイン入り腕輪は、合計4つだった。

「龍野君、シュシュ、進藤少尉。1つ取ってくださいな」

「あいよ」

「はい」

「承知した」

 各々が一つずつ手に取る。

 と、フーダがヴァイスの胸元から顔を上げた。

「お願い……」

「どうしたの?」


「お願い、あいつらを……『カンパニー』を皆殺しにして!」


「ッ!」

 過去に何度か関わりを持った企業、「カンパニー」。

「なるほどな……今度という今度は、『明確な敵』、ってワケだ」

 これまでの経験から、立場を理解した龍野。

「『カンパニー』? 聞いたことの無い企業ですわね……」

 しかし、シュシュは疑問符を浮かべた。まあ、仕方がない話だ。

 何せ彼女は、一度も関わりを持っていないのだから。

「シュシュ、今回は『倒すべき敵』と認識してくれれば、それで十分よ」

「わかりました、お姉様」

 ヴァイスの簡略な説明で、すぐに引き下がる。

「ところで、こいつはどうするべきか……?」

 唐突に、武蔵が腕輪を見ながら質問を投げかけた。

「つけて」

「何だ?」

「腕につけて!」

 フーダが叫ぶと、まずヴァイスが腕に着けた。

「これでいい?」

「うん!」

「ありがとう。皆様も、同じように!」

 聞き届けた龍野、シュシュ、武蔵も同様に、取り付けた。

「これでいいのか?」

「うん」

 龍野が質問すると、フーダは肯定の意思を示した。



「それじゃあ、みんなで『カンパニー』を皆殺しにしよー!」



「おわっ!?」

「きゃっ!?」

「何なの!?」

「これは……!」

 4人とフーダは、突如として異世界に転移させられた。


 いや、正確には「ヴァレンティア城とその敷地」が、丸ごと転移していた。しかし、彼らはこの事実をまだ知らなかった……。

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