異世界の来訪者(幼女)・前半
※これは可能性の一つに過ぎません。
「おい待てよ武蔵!」
龍野が怒り気味に、武蔵の搭乗した漆黒を追跡する。
ヴァイスやシュシュも、その龍野を更に追跡していた。
「落ち着け、龍野」
急に漆黒を止めた武蔵が、
「見るからに体調不良の人間がいたのなら、軍人としてはまずかくまうだろう?」
植え込みの近くに駐機し、コクピットから飛び出す武蔵。
「いきなりで悪いが、しばらく己達を泊めてくれ。姫様」
3人――話しかけたいであろう対象はヴァイスだが――に、唐突な依頼を出す武蔵。
「頼む。己は粗野な性格だが、困った人間を助けたいんだ」
「いいでしょう、許可します。ところで、『俺達』というのは?」
「泊めてほしいのは二人だ。己と、こいつだ」
抱えた人物を持ち上げる武蔵。
それは、長い黒髪と赤褐色の肌を備えた、美少女だった。
「急いで城に! シュシュは医師達に連絡を!」
「はい、お姉様! もしもし、皆様……!」
*
「ん……」
城の医務室にて。
美少女は状況の変化に気づいたように、ゆっくりと目を開いた。
「おっ、おはよう」
真っ先に気付いた龍野は膝立ちになり、目の前の少女に話しかける。
「言葉(日本語)はわかるかい?」
「ああ……」
一応は話が通じている。
龍野は安堵した。
「ほっ、良かった。ヴァイス、目をさましたぜ」
「ありがとう、龍野君。食事、持ってきたわよ」
ヴァイスが微笑みながら、目の前に食事を差し出す。
「口に合うかはわからないけれど……」
「いらない」
だが、少女は即座に拒絶した。
「下げて」
「おいおい、そんなこと言ってたら死ぬぞ?」
「いらない!」
食事の乗ったトレーを払い落とす少女。辺りに液体が散った。
「このッ、いい加減に……!」
「よしなさい、シュシュ!」
シュシュが詰め寄ろうとするが、ヴァイスが羽交い絞めにして止める。
「今は耐えて! 私に案があるのですから……!」
「ッ、だったら……!」
渋々といった様子で、怒りを収めたシュシュ。
すると少女は、ベッドから落ちた。
「早く、あいつらを……!」
憎悪を口にしながら、ゆっくりと起き上がろうとする少女。
だが、がっくりと崩れ落ちる。極度の栄養失調で、体力が落ちていたのだ。立つことすらままならない。
「荒療治が必要ね。龍野君、シュシュ、それに進藤少尉。少し待ってて」
(ああ、俺にした“アレ”か……)
ヴァイスは待機を指示すると、医務室を去った。
龍野は過去の記憶を思い起こし、内心で少女へ同情する。
(まあ、あのキレようは尋常じゃねえ。やむなし、だな)
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