第14話 平和の詩[うた]

 京都発13時12分の「700系のぞみ」で博多への帰途に着いた二人。

「由美、ありがとうね。由美のおかげで良い旅が出来て感謝してます。この三日間、奈良の世界文化遺産を見学して、何ひとつとして充分に知らなかった中でいろいろな事を知ったわね。興福寺では人に感動を与える心でしょう。元興寺では人をおもいやる心、そして春日山原始林ではどんな時もじっと我慢する忍耐の心を。東大寺ではなんと言っても寛大の心だわ。父が死を思い止まった、春日大社は祈る心よね。平城宮跡ではすべてに奉仕をする心を教わったわ。唐招堤寺の多くの人を感激させて助ける心も好きよ。それから、あのきらびやかな薬師寺は人に夢を与える心よね。これから生きて行く上での基本を多く学べたと思う。これは、過去からの贈り物で、この基本の心を大切に生かして将来に伝えて行きたいわね。そうする事で、過去から教わった心の基本が生き続けて行くでしょう」

と由美に言った和世は、奈良旅行を満足していた。

「和世、お父さんの事も分かったし本当に良い旅だったね」

と由美も慰め旅行の成功に大満足していた。

 「のぞみ」はただひたすらに博多を目指してスピードをあげていた。

 窓の外の景色は、ビデオの早送りでもするかのように、大都会の街並みを一瞬に変えて行く。週刊誌を読みながら由美は、新幹線の静かなリズムに揺られて何時の間にか気持ち良さそうに眠ってしまっていた。和世はふと、日本では平和が続いているのに世界の何処かで今でも戦争が行われている。どうして戦争が絶えないのだろう。平和を守るためには詩で伝えるのも良いのではないかと思い、早速ペンとノートを取りだして考え込んだ。書いては消し、消しては書くの繰り返しで必死に考え込んでいた。トンネルも多くなり、黒い窓ガラスに写る和世の顔が

「和世頑張るのよ。何事もやる気さえ出せば出来るのよ。優しい心でね」

と和世を励ましていた。

「広島までに書き上げるわ」

とガラスに写る自分に語りながらノートに平和を願う文章を並べていた。和世は、仕上がって行く文章に喜びを感じながらペンを置いた。

「由美、ねえ由美起きて、平和のうたが出来たのよ」

と嬉しそうに由美を起こした。

「どうしたの、なによ平和のうたって?」

由美はなんの事か分からずに尋ねた。

「ごめん、ごめん、由美が眠って居る間に平和のうたを書いたの、聞いて頂戴ね」

と和世は、由美に聞いてもらう為にノートのうたをゆっくりと読み始めた。


  PEACE OF WORLD

  ピースオブワールド(広島のまちから)


台詞=戦争知らずに広島の 原爆資料館

   入ったとたん驚き もものきさんしょのき

   ここで地獄を見たんだよ

   こんな事あっていいのかい こんな事許していいのかい

   戦争なんかは駄目なのさ 核戦争は駄目なのさ………


一、広島のまちに 平和を祈る灯火ともしびが 世界に届けと揺れている

  大地が砕けて空濁り この世の生物いのちが消え果てる

  核の怖さを分かって欲しい

  地球はみんなで守って行こう PEACE OF WORLD

  PEACE OF WORLD 青い地球は平和のしるし………

  PEACE OF WORLD PEACE OF WORLD

  世界の平和は広島のまちから………


 台詞=ピカッと光った広島は 地獄の町となる

    人が苦しみのたうち回る 悲しいよ

    愛するものがみな死んだ

    こんな事あっていいのかい こんな事許していいのかい

    戦争なんか駄目なのさ 核戦争は駄目なのさ………


二、広島のまちに平和を誓う鐘が鳴る 世界に届けと鳴り響く

  愛するものを焼きつくしこの世の生物を灰にする

  核を持たずに手を取り合えば

  地球は青く輝き回る PEACE OF WORLD

  PEACE OF WORLD 青い地球は平和のしるし………

  PEACE OF WORLD PEACE OF WORLD

  世界の平和は広島のまちから………


と和世が心を込めた詩を読み終えた。

「和世素晴らしいわ、世界の平和、PEACE OF WORLD、最高の出来よ」

「由美ありがとう。これからはいろんなサークルに参加して、多くの人に核の廃絶と平和の尊さをうたもまじえていろいろな形で訴えて行きたいの。父が苦しんだ分を生かすためにも」

と由美に考えを話した。

「わたしも、手伝う。頑張ろうね」

と由美も賛同し和世の書いた詩を読み直していた。

 その時「のぞみ」は広島駅に着いた。

「由美、ちょっと行ってきます」

と和世が席を立ってデッキに向かった。「のぞみ」は広島の駅で1分間停車してから発車した。

 和世は、ドアの窓から広島の町に向かって静かに両手を合わせて、心の底からお悔やみを唱えた。デッキを行き来する人は、和世を見て不思議そうな顔で通り過ぎて行く。

 気にする事なく和世は、核戦争のない平和を守るために頑張る事をも誓っていた。

 父が戦争は二度としてはいけないとよく言っていたが、和世の平和を祈る心は、父と行った原爆資料館から始まっていたのだ。

 あと1時間で母の待つ博多に「のぞみ」は着きます。奈良の旅はお父さんと一緒でとても楽しかったわ、お母さんを大切にしますから、お父さん見守っていて下さいね、と何度となく父に叫んでいた。そして和世は、世界平和に貢献しているユネスコの世界遺産条約に登録された奈良の文化遺産に心の基本があり、日本の心のふるさと奈良が、今は世界の心のふるさと奈良になったんだよと父に伝えていた。

 「700系のぞみ」はいろいろな人を乗せて猛スピードで博多に向かって走っていた。

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心は奈良に(平和の詩[うた]) @TGW_yk

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