第23話 幻想と現実の合流点

「戦争なんて…ですか。」


俺の言葉にすこし面食らったように呆れたような顔になったレーナに俺は向かい合った。そして、そのまま言葉を続けた。


「俺は、レーナが外交官でも…スパイだったとしても構わない。それが、俺だけに伝えるようなことじゃないと思う…それに、君が大吾だいごのことを調べていたとしてもそれでも…やっぱり、違うじゃん…それで何か変わるわけでも無いのに…。」


きっと、内心俺は焦っていたんだと思う。何故か彼女が遠くに離れてしまうそんな気がしたからなのかもしれない。ただ、まだ、出会って数日なのになんで俺は、そんなことを思うのだろうか。でも、やっぱり、俺は、彼女ともっと話がしたい…そう思った。


「…。」


俺がレーナからの答えを待っているとレーナの携帯電話が鳴りだした。

我に返ったレーナは、俺に失礼と言うと、俺に背を向けて電話の相手と話し始めた。


「レーナ。…。」


彼女は名乗り、ドイツ語で話していた。

俺にはさっぱり何のことだかわからなかった。

しばらくして、レーナが会話を終えて再び俺に向き直ると再び深刻そうな表情を浮かべていた。


雅刀まさとさん、早く帰ってください。」

「えっ…。」


連れてきておいて、急になんでそんな事を言い出すのかわからなかった。

けど、あとから思うに彼女は俺を遠ざけたかったのだろう。

けれど、そうは行かなかった。

彼女は、続け様に話し始めた。


「事情が変わりました、すぐに家に戻ってください。…それと、学校の近くには寄らないでください。」

「一体、何が?」

「いいから早く!」

「そんな、レーナも一緒に!」

「…すいません、私はやらなくちゃいけないことができたんです。」

「だからって…。」

「私を困らせないでください!」


そう俺を拒絶するようにレーナは声を荒げた。

俺は、それでも彼女を説得しようと試みた、矢先…何やら足音がしたのでその方向に視線を向けた。そこには、前園まえぞの桃華とうかが居た。


清水しみずさんに、レーナさんこんな夜中にどうして?」


そう彼女は、に話しかけてきた。

俺は、ただの散歩だよっと、苦し紛れに彼女に返した。

「そうですか…。」っと、前園は笑顔で返してきた。


「それじゃあ、そろそろ帰りましょうか?雅刀さん。」っと、レーナは緊張感の溶けたような声色で話した。


「ところで前園さんは?」っと、俺が彼女に聞くと。

「はあ…それが、何故だか眠れないので夜の散歩っと、いったところです。」っと、彼女は、言った。


そして、俺とレーナは言葉通り境内を後にし、長い階段を下りて行った…後ろに視線を感じながら、下っていった。

そして、最後の段を降りると横にいたレーナは消えていた。

辺り見回しても彼女の影は見えなかった。俺は、慌てて降りてきた階段を登り、境内に行くとそこには、前園さんは居なかった。結局、やしろに繋がる道を両方ともある見たがやはりレーナ、前園の2人の姿は見えなかった。

俺は、家に帰ることにした。探し終わった参道から神社の境内に戻るのを疎ましく感じた俺は、降りた先からゆっくりと歩いて行った。


「…どこに行ったんだろうな。」


そう家までの道を近道をしながら歩いていた時だった。

もうすでに日は下りてしまっているので街灯を頼りに道を歩き、近道である路地裏に入った。


「…うぅ。」


人のうめき声が聞こえた、他にも誰かが遠くから叫んでいるような声がした。


「ん?」

「あら、お客さんかしら?」


そこには、三人の人がいた地面には30代くらいの男性が20代くらいの男により地面に押し付けられていた。唇か、口内が切れたのだろうか…口元に血が通っていた。

そして、真っ赤なドレスの女がそこには、居た。

化粧で作った白い顔、あからさまに見せつけるために開かれた胸元と、豊満な乳房、かるく漂っている香水の香り。

それは、絵本で描かれるような赤と黒のドレスが路地裏という現実の中に漂い、幻想に思えるような真実を作り出していた。


「…っ!」


俺は、声をあげるのやむをえず止めた。

どうやらその男性はただの男性ではなく、私服警官のような装いで周囲には金属製の手錠の他に、プラスチック製の結束バンドどこからかが転げ落ちたのか黄色く光を反射していた。女の手にはなぜか焼き切れたワイヤーのついた拳銃が握られており、艶消しの黒色が窺えた。また、叫び声の招待は肌色の無線式のイヤホンから漏れ出ていた。


「ふふっ、可哀想に…でも、仕方ないのよ。!」


瞬間、彼女の腕が光るのと同時に発砲音が聞こえた。


「あら、あら、なんて間が悪いのかしら?」

「はあ…面倒くさい、俺が相手するんであなたはそこに向かってください。」

「そうね、良かったわね命拾いして…。」


そう女は口にし、歩いて行った。

俺は、しばらくその場にいて床に伏せている男に声をかけた。

返事はなく、気絶しているようだった。

変わらずイヤホンからは音が漏れ出ていた。






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