第19話 魔法粒子結晶体

一条いちじょう大吾だいごは、日本軍の基地に居た。

別に、何をしたわけではなく自分のために来ていた。


「さて、それじゃあわかっていると思うが、任務の説明をしよう。」


そういうと、体格のいい士官は大吾に身体を向けた。

会議室には、今、彼とその副官の女性、そして、他にも数人の恰幅のいい男女が居た。


「今回の任務は、盗まれた魔法粒子結晶体まほうりゅしけっしょうたい奪還だっかんだ。知っての通り現在捜索中のタンカー、そして、飛行機にこの魔法粒子結晶体が積まれていたが機体ごと現在行方不明となっている。この魔法粒子結晶体は、この世界で唯一我々が使うことができる魔法である。そして、この結晶体が今回何者かによって強奪された。情報部によれば盗んだ組織は、第二世界セカンドワールドの魔法使いの生き残り、幻想騎士団げんそうきしだんとされている。」


会議室の中は、ただ無言だった。

それもそのはずで、ここに居る数人をのぞきほとんどが魔法のない世界の住人だった。


「以上だ、すぐに捜索に当たってくれ…攻撃目標はおそらく、この基地だ。」


そして、兵士と士官達はすぐに、部屋を後にしそれぞれ自分の持ち場へと歩いて行った。

部屋には、大吾と例の2人だけが残った。


「それで…今回の任務はその結晶体を探せばいいのか?」

「ああ、そうだ。」


人が居なくなった頃合いを見計らい、大吾は、士官に話しかけた。


「それにしても、魔法か…。」

「ああ、そうだ。」

「ところで、魔法粒子結晶体って一体何なんだ?」

「名前の通り、セカンドワールドで発見された石だ。あの石一つあれば世界の軍事バランスすら捻じ曲げることができる。そう、それこそシルバーバレットのようにだ。あなた方が体験したような物がまた、現実になるそうだ。」


そう、大男は浅黒い肌に似合わない白い歯を出しながら笑った。

その笑みは、どこにも表情がなくただ、機械的だった。


「どうだろうな…魔法粒子じたい、この世界と結合する以前に反魔法粒子によって大気圏内外ともに中和されてその効力がなくなったはずだ。」

「そうか…だが、現状結晶となった魔法粒子が発見され、結果として今回強奪された。これ以上のことがあるのか?」

「いや、どうだろうな。そもそも、粒子結晶なんて俺は、見たこともない。」

「…つ、そうなのか?」

「ああ、そうだ。」


粒子結晶…か。

大吾は、何かを思い出そうとしていたが、思い出せなかった。


「それじゃあ…あの結晶は一体…。」

「ところで、中村なかむらさん?」

「ああ、何だ?」

「何で攻撃目標がこの基地ってわかるんだ?」


大吾がそういうと中村は、顔を歪めた。

言いたくない事があるのは、既にわかっていた。

だから、大吾は改めてそれを聞いた。


「…ああ、そうだ。」


中村は平静を保ちながら大吾に言葉を返した。


「…ここに、A級の魔法粒子結晶体があるからだ。」

「A級?」

「ああ、戦略級と言われているほど大きな結晶体だ。それが、君ら第二世界だいにせかいの人に渡るのだけは何としても避けなければならない…。」


そう、中村は言った。


「それじゃあ、その魔法使いはこの基地を目指しているのか?」

「ああ、既に侵入したらしい。」

「…今回は交戦しないかと思っていたらそういうことか…武器は?」

「今回は、民間人も居るため極力発砲は控えて欲しい、そして、軍が所有する武器の使用も禁止だ、あくまで民間人として解決して欲しい。」

「はあ…それじゃあ、38式も使えないのか。」

「ああ、なんせ、日本国内での銃に関する自由は制限されているし、所有できる銃器も限られている、銃市場も最近は停滞ていたい気味だ。防弾チョッキの支給もできないが、防弾繊維製の服は用意してある。」

「了解、ワシントンよりは楽そうだ。ガーランドとサイガを使う、弾はスラッグ…それなら、いいだろう?あとは、刀とナイフ。」

「ああ、わかった出来れば薬莢やっきょうの回収も頼む。」

「わかったよ、中村 中将ちゅうじょう。」


そう言い残し、大吾は会議室を後にした。


「中将?」

「なんだ?」

「いえ、あの少年は?」

「ああ、そういえば君に伝えていなかったね…まあ、話は長くなるが…。」

「はあ…。」

「彼とは、付き合いが長くてね…。」

「えっ?」



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