第9話 日々

「それじゃあ、出席を取りますよ…。会田あいださん?」

「はい!」

相葉あいばくん。」

「っはい!」

天ヶ崎あまがさきさん。」

「はい!」

淡島あわしま。」

「はぁい!」

石田いしださん。」

「はい!」

伊東いとうくん。」

「はい。」

一条いちじょう和人かずと!」

「…はい。」

京香きょうかさん。」

「っはい!」

柚香ゆずかさん。」

「はい♪」

「っと、一条兄妹は全員いると…。」


俺は、自分の名前が呼ばれるとちゃんと返事をした。

今日は、日直だったので全員いるか確認しなければならなかった。

だが、心配することもなく今日は、40人全員学校に来ていた。


「…それじゃあ、授業を始めますね。」

「先生!転校生は?転校生がいるんじゃないですか?」

「えっと…なんでその話を知ってるのか聞きたいんだけど…。」


今は静かだが、朝からものすごく騒がしかった。

言うまでもなく、転校生の一件だ。

昨日はよく眠れたので、問題なく…授業に参加できそうだ。


「…実はですねえ、今日はまだ、ちょっと手続きとか受け入れ先とかの方で調整しているので…何というか…今日は、来れないかな…。」

「そんなあ…。」

「先生、俺体調悪いので帰りたいです!」

「朝から、腹痛が…。」

「はあ…まったく…いいから授業を始めますよ!」


担任の福山ふくやま先生の合図で授業が始まる。

さんざん騒いでいたため…すでに、開始時刻を過ぎていた。


「…はあ…憂鬱だわ。」


授業が始まってもなお正幸まさゆきは愚痴をこぼしていた…。

確かに残念ではある…。


「それな…俺もつらいわ…。」


俺は、前に座っている正幸に後ろから声をかけた。


「だろ、この後、また、姉貴に顔を合わせなければいかないしな…。」

「…ああ。」


週に2回ある教練は憂鬱な時間だった。

基本的には、体育みたいなもののようでひたすら走り込みをしていた。

昔は、PTAとかモンスターペアレンツがいた為、意外と楽ではあったと聞いたことはある。

でも、最近ではむしろもっときつくしてくれという親の方が多いそうだ。

その背景には、日本人を狙った誘拐事件や疎開地域での盗難や窃盗などがあげられる。

ましてや、将来的には各国の日本人街を渡り歩くことになった時、子供たちが自分だけでも対応できるようにしなければならないという考えもあるだろう。

一説によれば、子供が家にいる時間を短くすることで、時間潰しの為の消費を拡大させるとかも言われていたそうだ。

でも、結局のところ日本の軍事力…というよりも個人個人の危機管理能力の為かもしれない。


「さっきから、何を話しているのあんた達は?」


正幸と話していると俺の右斜め前で、正幸の隣りの果歩が話に入ってきた。


果歩かほには関係ないだろ…。」

「どうだか…。あっ、正幸。」

「…何だ?」

「さっきの話全部聞いていたかね。」

「なっ…いや…それがどうした。」

「実は、最近駅前の広場に美味しいって評判のパフェが食べられるカフェができたんだってー!」

「へえー…。」

「…?」

「…。」


果歩は何かを要求するように正幸に視線を向けていた。

正幸はそれを感じており、果歩と視線を合わさないようにしていた。


「…雅刀まさと、放課後…暇?」

「今日は、和人とゲームするから忙しい…。」

「本当か、和人?」

「いや…今日は、そんな約束まだしてないが。」

(…おま…そこはノリでもいいから助けてくれよ。)


正直、面倒なことに関わりたくないなかった俺は、和人に助けを求めたがダメだった。

おそらく、すでに俺と正幸が何を話しているのかだいたいわかっていたのだろう…。


「雅刀…。」

「…いいのかなあ?」

「…あっ、そういえば…。」

「何?」

「…何もありません。」

「そう、それじゃあ、京香ちゃんと柚香ちゃんも一緒に行こうよ!大丈夫、和人も暇だし!」


…すまない和人…しかし、俺を裏切ったから仕方がないと思ってくれ。


果歩は、隣りに縦に座っている京香と柚香に声をかけた。

離れたところに座っていた和人にも果歩の声が聞こえていたようで…すぐさま、何かを話そうとしていたが…。


「こら、そこ…私語は慎みなさい!」


運悪く、和人が何かを言おうとしていたところに委員長の前園まえぞのさんが遮ってしまった。

和人は、軽くため息をつき仕方がないなという顔をしていた。


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