一章 一部 平穏な日々と事件

第2話 教室

今日はいい天気だ。

それなのに、体に力が入らない。

結局、授業のほとんどを聞き流してしまった。


入学してからほどなく立つが、やはり浮足だっているようだ。

青春と呼ばれるこの短くて、辛くて、壊れやすい、3年間を俺はどのようにして過ごせるのだろうか。

そして、自分のこの空気にあたったせいで妙な感覚を覚えていた、少し懐かしくはあるのだが。

ちょっとした安堵と不安が入り交じる…そういった感じだ。


「なあ、雅刀まさと。」

「なんだよ…杉澤すぎさわ。」

ここにもその空気に当てられている2人の高校生がいた。

1人はガタイのいいヤツ。

もう1人は特に変わったところのない男だった。


(まったく…。)


機嫌が悪い。

今日は、どこか調子が悪い…いや、残念ながら体調は大丈夫だ。

ただ、なんか気乗りがしないだけだった。


「どうした元気ねえなあ?」

「まあな。」

「また、補講だったのかよ。」

「ちげーよ。」


俺が机に突っ伏していると杉澤すぎさわ 正幸まさゆきが話しかけてきた。

入学以来から、何かと話しかけてくる。

よい友人だとは思う。


「ところで、次の授業大丈夫か?」

「次の授業?」

「ああ、射撃試験。」

「…あれっ、今日だっけ?」

「ああ、そうだけど…。」

「…レーザーだっけ?」

「いや…実弾だが…。」


大規模戦争以降、戦争に参加した回数は少なかったものの貴重な人材を失った日本は、スイスを手本に、若年層への軍事教練を進めていった。

最初は、大学などの有志での参加だったが、高校教育にまで浸透、文部科学省により定められる形となった。

しかし、国民が全て銃を保有し、訓練をすることは危険とされ、旧自衛隊、現統合日本軍が主導で行っている。


「…実弾か…なんか、回数多くないか?」

「そうか?…まあ、国から弾は支給はされているし…いいんじゃね?」

「そうだな。」

「というよりも俺は、ありがたいよ。一発も当たらないし。」

「ああ、そういえばそうだったな。」

「そうなんだよ…。」

「まあ、がんばれよ。」

「お前は当てられるからいいけどさ…。嫌味か?眉間にぶち当てるぞ。」


敵の弾より、味方の手りゅう弾。

上司よりも部下。


「なんだよ怖い顔して…。」

「お前、今度そういうこと言ったら殺す。」

「えっわ…なんだよこえーこと言うなよ。」

「というか…あのな、そういう事は冗談でも言わない方がいいぞ。第一、これから、実銃を扱うんだからな。」


俺と杉澤が話していると、同じクラスの清水しみず 雅刀まさとがやって来た。


「ああ…。あっ、清水! 昼休み購買行かね?」

「うん、ああ良いよ。けど、お前の奢りな♪。」

「なんだてめぇ、やんのか。」

「…。」

(ははっ…。なんだろうなこの感じ。)


「ところで、何の話をしていたの?」

「次の授業の話だ。」

「そうか…なるほど…大丈夫か?」

「くっ…お前まで…。」


杉澤が銃の扱いが下手…というより実弾での射撃が苦手なのは周知の事実だった。

とはいえ、このクラスのほぼ全員が一発目から外しているので、問題は特にない。

ただ、そのあと教官に怒られた為、やたらと下手くそと呼ばれてしまうようになったのだ。

ちなみに、担当教官は杉澤の年の離れた姉であることも一因である。


一条いちじょうも購買に行く?」」

「ああ、行くけど…。その後は、いつものところで。」

「オッケー、それじゃあ、早く着替えて行かないと…。」

「…どこに?」

「どこって、校庭じゃん。」

「…行きたくないな。」


俺は、そう清水と杉澤に言った。

少なくとも今日も退屈はしなくて良さそうだ。

こうして、俺、一条いちじょう 大吾だいごの一日は始まった。

それからしばらくして授業が終わった。

俺は、足早に学校を去り、とりあえず近所の本屋さんに向かった。。


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