認識の苦虫

幻覚をよく見る。

視界の端、壁の暗いモヤのようなシミが一瞬虫に見えるのだ。

ぎょっとして焦点をシミに定めるが当然虫ではなくいつもそこにあるシミなのだ。

だがその一瞬視界の端のぼやけた黒いぽつんは紛れもなく壁を這う虫として脳が認識するのだ。

しかし、目を向けると虫は消えシミが現れる。虫は私には見えなくなる。いない。


半日経つ。虫の事など忘れ、本の虫になっていた私の目に、端に、ほら、黒い、虫が。

わたしはぎょっとして虫をみる。居ない。シミだ。

虫が消えるとシミが現れる。陰湿な、卑怯な、シミの裏に隠れやがって。

そんなに私の読書の邪魔がしたいか。ふざけるな。


だからわたしはこの壁に“居る”虫が嫌いなんだ。

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