49話 それぞれの孤影。

49 それぞれの孤影


 鹿沼の銀座通りで後ろから声をかけられた。

 カミサンとふたりで同時に振り返るとKだった。

 彼は自転車で雑誌の配達をしている。

「やんなっちゃうよ。明日病院だ」

「どうしたの」

 この街での最後の同級生に訊いた。

「悪い病気だと……」

 自転車で去っていく。

 背をかがめ、自転車をこぎながら遠ざかる。

 ギギとペダルを踏む音。

 寂しそうな後ろ姿を黙って見送った。

 悪い病気と聞いては、もうそれ以上立ち入ったことは訊けなかった。

 わたし位の歳になると年々友だちが、アチラに移籍していく。

 もう会えなくなった友だちが何人になるだろうか。

「誤診だといいな」

 わたしはカミサンには聞こえないほど小さな声でいった。

 いつも、「病気になったら、どうしょう。だれの世話になれるのかな」と心細いことを呟いているカミサンだ。

 わたしは、カミサンの手を握った。


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