36話 リベンジの夜の花火

36 リベンジの夜の花火


 あれから、3年たっていた。

 三浦節子は故郷の町にもどってきた。

 わが家が燃え尽きた。あの夜とかわりない。なんの変哲もない田舎町。

 夏祭り。そして花火大会。でもアナウンサーの声はちがっていた。

 場内アナウンスをしているのは市長の娘のわたしではない。

 父も生きてはいない。家族はみんな焼死していた。

 そして、T大学工学部の大学院生だったの恋人の達也も――。

「トントン」

 節子はドァをたたいた。礼儀正しいというわけではない。招かれなければ、入れない。入室できない。ドァは内側から開かれた。

「あらぁ、みなさんおそろいですこと」

「なんだ。この町に、こんな別ピンがいたかあ」

 ドァを開き、節子を招き入れてくれたのはチンピラだった。

 奥では現市長をはじめこの町の顔役たちが集まっていた。

 広いピクチャアウインドウから花火を眺めて酒盛りをしていた。

「パーティガールなんて、呼んでいないぞ」

 あいかわらずのダミ声。チンピラの親分、いまは市長の柏木剛三だ。

 町の有力者たちに囲まれてソファにふんぞりかえっている。

 ギョッとしてこちらを睨んでいる。

 こいつだ。この男のために、わたしは家族も恋人も失った。

 いくら、花火なぞうちあげたからといって、この町が輝くわけではない。

悪が停滞した、あやかしの町。悪の華咲く町。

 この町から排除された者たちの怨念が一瞬夜空にかがやくのをみせてやる。

 今宵はそのような夜になる。あんたたちは、もうおわりよ。

「焼死体がたりないと報告が来ていた。そうか。あんたが、逃げおおせたのか。たしか名前は……」

「節子よ。三浦節子」

「おうっ……」

 町の有力者たちがどよめいた。

 かつては、みな父のとりまきだった。

「達也の家まで焼くことはないでしょう」

「敵に連座するものは、みな、灰にする。昔から、戦争ではそうしてきた」

「このアマ!!」

 チンピラがなぐりかかってきた。

「たしかに、わたしは別嬪よ。別の品。といういみではね」

 チンピラははその意味を理解する余裕はなかった。チンピラの喉笛をわたしは食いちぎった。真紅の噴水。噴き出した血がわたしの顔にふりかかった。

 血の感触に刺激されて長い牙が生えてきた。剛三の配下の男たちが一斉に襲ってきた。こいつらが、実動隊だ。わたしの家族と達也を殺したのだ。

 容赦することはない。牙をつぎつぎと突き立てた。頸動脈を、剣となった爪で、切り裂いた。

 わたしは復讐のために吸血鬼となった。

 このときのために、達也と家族の恨みをはらすぬめに人であることをやめた。

 この怨敵を殺せば、わたしはもう死んでもいい。生きる望みなど、とうに捨てている。

 ああ、達也いまわたしもそちらへ行くわ。

「これでどうかな」

 剛三がピストルをかまえた。

「銀の弾がこめられてるかもしれないぞ」

 血をあびてかすむ視線のさきで剛三が勝ちほこったように哄笑する。

「どうだ。ためしてみるか。銀の弾だぞ」

 そんなことはあるまい。とおもっても、銀の弾丸。十字架。太陽の光。ニンニク。と忌避すべきことばには反応してしまう。阿鼻叫喚の空間でわたしは動けないでいる。

 ガシャッと広い窓ガラスがわれた。何か得体のしれないものが、飛び込んできた。

 剛三をうしろからはがいじめにした。

「節子!! 恨みをはらせ」

 よくみれば、達也にみえなくもない。声はまちがいなく達也のものだ。だが、体は重力機動スーツをきている。いや、機械人間だ。そういえば、達也は軽量の人型ロ―ダの開発に携わっていた。

 エイリアンでシガニ―ウィ―バーの起動させたloader をさらに進歩させ人型のスーツ仕様にしたものだ。

 剛三が達也を撃った。銃声がひびく。

「達也!!」

 わたしは叫ぶ。

 剛造の頸動脈を切りひらいた。達也は頭から血を浴びた。

 復讐のために吸血鬼となったわたし。

 怨念をはらすために機械人間となってよみがえった達也。

 抱擁しあっても人としての感動がわかない。

 だが涙はでる。

「節子が死んだとおもっていたから、おれは、こんな体になって、こいつらに報復するために帰って来た」

「わたしの帰還もおなじ目的よ」

 窓の外で花火があがった。

 花火の説明をする少女の声。

 アナウンスが――。

 節子には遠いものに思えた。

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