第20話 青白い月の光

20 青白い月の光 


「吸血鬼でも出そうな夜だ」

 なぜか、Kがふいに、ボソッとつぶやいた。首筋にジットリと汗がふきだしている。肩を組んでいた。Kは飲み過ぎていた。

 それでも倉橋は「もう一軒いきましょう」と若さから応えていた。

「なんだか、いやな夜だ」

 Kはおびえている。

「おれがついている。心配ないって」

 倉橋が満月をみあげて、応えた。倉橋は平然としている。いつものように落ち着いている。雑居ビルの立ち並ぶ裏路地をぬけた。飲み屋街にでた。

 焼き鳥。

 もつ鍋。

 おでん。

 エビを焼く匂いが狭い路地にたちこめていた。倉橋はまだ飲み足りなかった。

「今晩は。わたしのこと呼んだかしら」

 夜の街に生きる女が近寄ってきた。Kは道端で吐いていた。

「きれいだ。きれいだ」

 吐きながらKは女に声をとばしていた。

「うれしい……」

 その女の口紅はとてつもなく赤かった。白いきれいな歯をしていた。夜の闇を彷徨する女だった。女はさいごまで、言葉を紡げなかった。

 雲がきれた。満月があらわれた。満月の青い光が狼憑き(リカントロープ)をひきおこした。

 倉橋は犬歯をクサビのように女の首にくいこませていた。


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