第17話 路上の釣り人。

17 路上の釣り人

part 1  

 繁華街で路上に釣り糸を垂れている男がいた。

 ドロンと濁った黄色い目。

 狡猾な、それでいて残忍そうな顔。

「なにが釣れますか」

 わたしは、気軽に声を投げ上げた。

 男は雑居ビルの二階のベランダから釣り糸をたれていた。

 わたしは少し酔っていた。

 だからこそ、声をかけたのかもしれない。

 男の背後にある闇は見えなかった。

 顔だけが大きい。

 醜い小男だ。

 ベランダのアルミ柵からつき出た靴の先がみように尖っていた。

 几帳面に細い脚をピツタリとつけている。

 直立不動の姿勢だ。

 なにか儀式でも執り行っているようだ。

 ちかよってみると。

 怖気をふるいたくなるような悪意を放射している。

 わたしはその邪妖の気配にすっかり酔いがさめていた。

 男はニヤニヤ笑って応えない。

 釣り糸をたれているからには――男には、ここは川なのだろう。

 しかし魚影はみあたらない。

 魚には水がいる。

 水が流れいるから川なのだ。

 都会の繁華街の舗道に川の流れがあるわけがない。

 酔いがさめ、思考が正常に機能する。

 だいたい、舗道に釣り糸を垂れているのがおかしいのだ。

「なにが釣れるの」

 わたしはイライラしてまたたずねた。

「晩御飯のオカズ」

 瞬時にわたしは男の言葉を理解した。

 そもそも、声をかけたわたしが悪いのだ。

 男は人の流れで釣りをしていたのだ。

 (おれを夕食の皿にのせるというのか)

 わたしは怒髪天を衝いた。

 なにかが髪にからまった。

「ホラかかった」

 小男がケタケタケタと哄笑している。

part 2

「路上の釣り人」にはモデルがアルンダゼ、とGG。

 異様にyoung言葉や流行語を乱発しながら話すのは。

 苦心惨憺してショートショートを一編仕上げたので興奮している証拠だ。

 じぶんでも若い気でいる。

 もっとも……髪に釣り糸がからんで釣り上げられるようなことはないゼ。

 あんなことは、真っ赤なウソ。

 あれこそフィクションなのだ。

 だいいち、一人称だから即、作者ということはない。

 GGは波平さんほどではありませんが。

 怒髪天を衝くような緑なす黒髪はもはや、ありません。

 GGの街で男が二階から釣り糸をたれていました。

 これはリアルです。

 たいへん釣り好きの男だったそうです。

 あるとき、黒川で釣りをしていて転倒。

 頭を打ちました。

 打ち所が悪かったのか。

 その後遺症で気がおかしくなったらしい。

「釣り。つり。ツリ。釣り。釣り。釣り。釣り。釣り」

 あまりうるさく言うので、家族が路に釣り糸を垂れることを考案した。

 もちろん、釣り針はなし。

 そんなことをしたら危険ダゼ。

 毎日、ベランダでディレクターズ・チャ―に腰を下している。

 ダラシナク。

 大股開きで?????――。

「ナマズくらいアッタヨ」

「いや、ドジョウダ」

 と……今どきの学生ときたら……。

 さば鯖ばとした調子で話す。

 話の真偽をたしかめようとする学生で。

 男のすむ裏通りは殷賑を極めているという。

「路上の釣り人」の裏ネタを披露するはずでした。

 下ネタになってゴメンナサイ。

 ヒラメのごとく。

 禿げ頭をさげて、平身低頭。

 さらに、さらに。

 蛇足。

 GGが繁華街を歩いていても。

 キャッチの女の子が。

 飛んでくるようなことはなくなった。

 そこはかとなく、薄い髪の毛をなであげる。

 秋だぁ。GGになると寂しいゼ。

   

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る