第11話 光がまぶしかった。


11光がまぶしかった


 その村の小高い丘に学校は立っていた。その村で唯一の学校の校舎は生徒たちを〈愛〉していた。生徒たちと別れるのはつらかった。悲しかった。別れたくはなかった。それで、何か事あるごとに学校に村人を呼び集めた。

 ママさんバレーやゲートボールの会場となっていた。村人を学校が呼び集めた。いまも校庭で太極拳のような動きをみせる村人でひしめいていた。いやこれはラジオ体操だ。老人がおおいのでそのひとたちの動きを配慮している。ゆっくりと、徒手体操をしているだけだ。

 光の中で体をゆする。光に向かって手をかざす。首を曲げ、顔を上げて光をみあげる。かつての生徒たちを見ていると校舎は幸せだった。教室の中の生徒は過疎化が進みまばらだった。だからこそ、村人が大勢集まってくるのがうれしかった。あんなことをして、遊んでいるのなら、働けばいいのに。隣村の村人には批判されていた。

 そして、その日その時。

 Xデ―がきた。

 大地が吼えた。

 地底の深いところで地竜がのたうった。

 大地が鳴動した。

 大きく揺れた。

 千年に一度ともいわれる地震が来た。

 津波がきた。

 ひとびとは、学校の呼び声をきいた。

「みんな、おいで、校庭にあっまっておいで」

 眼下の村が海との境を失っていた。

 村人たちは家畜も犬も猫も。

 田畑の作物も。

 樹木も。

 家も。

 生あるものも、無いものもすべてを失った。

 すべてが、押し流されるのを見た。

 怒涛のような津波が引いていく。

 ――巨大な海の神ポセイドンが。

 両腕を広げてだきこむように。

 すべてのモノを海にさらっていった。

 すべてが、海の藻屑となって消えていった。

 でも、学校に呼び集められた村人は残った。

「ああ、もうだめだぁ。なんにもなくなっちまった」

「いや、学校が残った。子どもたちも無事だ。また、一から始めるべぇ」

 光がまぶしかった。


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