第5話 かわれば、かわるものだ。

5 かわれば、かわるものだ


さっそく迷い猫が裏庭にあらわれた。

庭木を切り倒した。

そこにミニ庭園をつくる。

バラ園にしたいの。

いいでしょう。

妻の要請を受け入れる形になった。

切り倒した庭木の切り株はまだ樹液を噴き出している。

切り株から流れ出る樹液は、確かに朱色に見える。

赤い涙を木がこぼしているように見える。

妻はじぶんの好きなように、庭を造り変えてしまった。

レストランをやっていたときの遺物。

グラタン用に使っていた平皿に。ブラッキの餌をてんこ盛りに入れた。

一匹飼うのも、二匹かうのもさしてかわりはない。

「ネコチャン。オマエ…飼い猫なの? それともノラちゃん……。ノラだったら毎日おいで。いくらでも餌はあげるからね」

 猫にはなしかけている。彼女はすっかり猫好きになっていた。

 猫には直接触れることもできなかった。

 そのころ、わが家で飼っていたミュには、触れることもできなかった。

 そっとエプロンで掬いあげて移動させていたのに。

 かわれば、かわるものだ。

 ミュが死んでから何年になるだろうか。

 それさえわかれば、彼女と結婚して、何年になるのか、わかるのだが……。

 目の前にいる彼女がむかしの彼女なのか。

 よくわからない。

 誰だろう。この彼女は。


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