第2話 ふいに……老いが

2 ふいに……老いが


 ふいに、背後から肩甲骨のあたりをつきとばされた。

 なんとか態勢は維持できた。

 女がわたしの脇をとおりぬけた。料金箱に硬貨を入れる音。

「なんてひとなの。あやまりもしないで」

 妻の声がした。

 バスには、わたしたちいがいに乗客はいなかった。

 つきとばされるまで、気配はなかった。

 わたしの背後でふいに、女は3D化したのか。

 異次元からの……刺客か? バカなことをかんがえるものだ。

 女は平然とした後ろ姿をみせたまま群衆の中にまぎれた。

 もし、彼女がナイフを手にしていたら、刺されていた。

 まったく気配すらかんじないまま刺されていた。

 いや、たしかに、わたしは刺し殺されていた。

 死んでいた。

 剣の道を極めたはずなのに。

 これではただのオイボレだ――自尊心を刺し貫かれていた。


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