最終話 先輩と後輩
あの後、すぐに花火の打ち上げは終わって、すぐに暗闇が僕たちを包んでいた。それでも、目に焼き付いた彼女の顔と、長い髪が印象的で、たとえ暗くても、彼女の顔を忘れることはできなかっただろう。そうして暗闇と淡い月明かりの狭間で僕たちは向き合った。
ちゃんと自己紹介をして、そうして、仲良くなった。苗字を聞いて、学年を聞いて、びっくりして、それでも、彼女といる時間が楽しくて、驚きは次第に消えていった。
そうして、夏休みは彼女と過ごした。
「今日はどこに行きましょうか、マイ先輩」
「まーた敬語になってる、やり直し」
年上だということを知ってしまった日から、無意識に敬語をつけてしまう。こういうのは、日常から染み付いた礼儀だ。仕方のないものだけれど、彼女は不服みたいで、僕の敬語を許してくれない。
タメ口から始まった関係なら、タメ口で。
「……今日はどこに行こうか、マイ」
「うーん、それじゃカラオケでも行く?」
「え、歌下手なんですけど」
「敬語」
「……歌、下手なんだけど」
「先輩命令。行くよ」
「先輩でいるなら敬語を使わせてよ……」
拭えない違和感がそこにはあったけれど、そのおかしな違和感は不快じゃなかった。
いつもどおり、彼女はそこにいる。幼馴染がいない違和感を、忘れさせてくれるように。
そこにいるのは二人だけ。不良と、不良な先輩だけ。
そうして息を吐くのも躊躇う夏は、終わりを告げた。もうそこに息苦しさは介在しない。
O2 でぃすさん @Nick3648
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