第10話 幼馴染と彼

空き教室。

カーテンは全開で窓も開放している。太陽の光がちょうどいいくらいに、匿名性を壊すように降り注いでいた。

「君に悪いと思って、姉に教えたんだ。この空き教室のことを」

「……罪悪感?」

「ま、それだよね。君の……果実?だっけ?それをとってしまった罪悪感から」

「……」

「彼女の視線はいつだって君を向いていた。一途な視線に僕は惹かれていたんだよ。でも、なんであんなやつのことを好きなんだろうな、とか聞いてみたりしてさ」

「そこで、僕の存在を知ったのね」

「ああ、そうだよ」

「幼馴染という関係性だ。互いが互いを想い合っているのは当然だから、それを横取りするような真似は流石に気が引けたからねぇ」

「その割には幼馴染アオイと付き合って幸せそうだけどな」

「逆だよ。横取りしたからこそ、僕たちは幸せにならなきゃいけない」

「……まあ、お互いが幸せならいいんじゃないか」

「……やはり、君は大人みたいだなぁ」

沢口は、くすくすと笑った。

「ところでこの空き教室、どうやって知ったんだよ?」

「……聞かないほうがいいよ。いくら温厚な君でも泣くから」

「……幼馴染アオイが教えたとか?」

「いや、教えたのは僕だ」

「だったらどうやって……」

すると沢口は立ち上がって、入口の前に立つ。

「ま、つまりはそういうことだよ。次第に君もわかる」

彼はそんな捨て台詞を吐いて、そうしていなくなった。煙のように。

しばらく静かに考える。

そういうこと?次第にわかる?

そして、察する。

「あいつ、馬に蹴られて死ねばいいのに」とか思ったけれど、口には出さなかった。まあ、出てたけれど。

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