第8話 不良は中にいる
夕暮れに染まる学校のグラウンド。夕陽が空を彩って、それは少し僕の心を震わせるくらいには情景的だな、ってそう思った。
そんな夕暮れを背景に見立てて僕は歩く。彼女と約束した目的地のために。
──あの長い話が終わったと、不良ちゃんは聞いてきた。
「違和感をどうしたい?」
「……消し去りたいとは思う」
僕がそう答えると、彼女はくすくすと笑って、「なら、一緒に祭りに行こう」、と。
そこからは一旦、空き教室を解散となった。空き教室から足早に出て行った彼女は目的地だけを告げ、そうして僕もそれに倣うように空き教室を出て行った。
家に帰宅し、しばらくじかんを潰そうと考えたけれどそういえば、結局目的地を告げられただけで、時間についての指定はされていない。だったら、不良ちゃんを待たせる可能性があるのもやはり嫌だったから、急いでまつりにてきした普段着に着替えて、目的地へと向かった。
目的地は、空き教室。
祭りと言っていたから、その会場の目前あたり集まるのかを考えていたけれど、やはり僕たちにはこの場所しかないのか、この空き教室に集合することになっている。
それ相応の金銭を持って、学校の中に入る。学校はまだ開いていたからよかったものの、問題としては私服で学校に入って教師に見つからないかという点がある。
一応警戒しながら侵入したから見つかってはいないが、不良ちゃんと集合した後に、学校に出る際に見つかったらどうしようかな、とかそんなことを考えながら、空き教室の中に入った。
「お、来たねー」
不良ちゃんの声。いつもどおりの席に座って、僕に声をかけてくれる。いよいよ不良ちゃん、不良くんというあだ名も正しくなってきたような気がする。
「来たよ、私服で」
「大丈夫。もちろん私も私服」
「やっぱ不良ちゃんって名前は正しかったんだね」
「お互い様でしょうに」
軽い雑談。
「そういえば、何時に祭りに行くのさ」
一応持ってきていた時計を確認しようとするけれど、薄暗くてよく見えない。いまの時刻はだいたい五時くらいだとは思うが。
「何時っていうか、まあ、暗くなってからね」
彼女は、椅子に座り直した。
「え、学校閉まる」
「大丈夫!……多分!」
「……不安だなぁ」
彼女はくすくすと笑う。
「割と早めに出たほうがいいと思うけれど」
そういいながら、僕は空き教室の、いつも僕が座っている位置に座る。その際に持ってきたお金がちゃりんと小気味のいい音を鳴らして、金銭があることを示す。
「ん?お金持ってきたの?」
「祭りって言ってたし」
すると彼女は、あー、と息を吐いた。
「祭りに行くって言っても、この空き教室から見下ろすだけだよ?」
「え?じゃあ帰る必要あった?」
「……それはまあ、風情として…?」
彼女はくすくすと笑った。
「でも言葉が足りなかったね。ごめんごめん」
「足りなすぎる」
「あれー?レディーファーストを気取っていた紳士とは思えないなー」
「はいはい、まあそれでいいですよ」
僕も微笑する。
「でも、ここで何をするの?」
「うーん、祭りの風景でも一緒にみようかなーとか考えてたけれど」
「割と時間あるけどね」
「……なんかさっきから言葉にトゲがあるような気がするけど、ま、いいか」
彼女は僕の方へ向き直る。
「暇なら雑談。それだけの話でしょ!」
「話だけに?」
「ループはもういいよ」
不良ちゃんは息を吐いた。
「それじゃあ……、今回は私からかな」
僕は、彼女に向き直った。
「って言っても、話すことってないんだよね。不良くんと違って悩みがあるわけでもないし」
「悩みっていうか、……まあいいや」
「ともかく、話ねぇ。不良くんの話を聞いての感想でもいい?」
「……どうぞ?」
そうして、彼女は間を貯めながら話し始めた。
「私には幼馴染とか、そういう身近な人間がいないから君の感情について考えて見たけれど、でも確かに言い表しにくいなぁ、って思った。
単純に恋愛感情なんじゃないかなぁ、とか思ったけれど、幼い頃から一緒に過ごしている家族に対してそういう感情を抱いたことはないから違うだろうし、だとすれば何なんだろうなって。
君の言う果実という表現がどういうものなのかもわからなかった。きっと君の中ではそういう感情が正しかったのかもしれないけれど、私は理解できなかったから、違うって言ってみたくなった」
そして、彼女は続ける。
「でもさ、不良くんと、その幼馴染ちゃんの共通点ってさ、やっぱり、互いに想い合っていた、っていうことだと思うよ」
呼吸が、止まった。
「きっと想い合っていたからこそ、互いが最初は辛かったと思うよ。同情するような顔をしたのも、君がショックを受けたのも、君たちが想い合っていたからなんだよ」
「……」
「……ま、だからといって、今の君の『違和感』とやらをけしさることにはつながらないんだけどね」
「……まあね」
彼女は続ける。
「とりあえずで君をここに誘ったけれど、それが君の違和感を消え去ることにつながるかはわからない。
それでも、君とこの祭りの風景を、二人で見れば、何か変わるかな、って」
「……」
「祭りの最後に、いつも花火があがるんだ。別に祭りのメインじゃないから、少ない数しか上がらないんだけれど、その花火を、なんとなく、君と一緒に見たいなぁ、って」
何度も、なんとなく、という言葉を使って、彼女は笑う。
「だからさ、それまで待ってようよ、二人で」
話は、夜まで続いた。
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