殺人車

 一台の軽自動車――殺人車は人気のない山道を猛スピードで走り抜けて逃げていた。月の明かりを頼りに、一心不乱に山道を突き進んでいく。山道の両側には樹木が等間隔で並んでいる。

 殺人車のボンネットは凹み、フロントガラスはひび割れていた。結婚を前提に付き合っていた愛車を轢き殺した際にできた傷だった。三輪車と浮気した愛車を許せずに轢き殺したのはいいが、自身も無傷とはいかず、車体の至るところが凹んでしまっていた。運悪く愛車を殺害するところを浮気相手の三輪車に目撃され、警察缶に通報されてしまった。

 殺人車は慌てて現場から逃走し、山の中に逃げ込んで今に至っていた。殺人車は山道を走りながら、身を隠せる場所はないかと探していた。

 スピードを緩めずに走っていると、樹木の間を何かが通った気がして殺人車はギョッとした。樹木から現れたのは数十缶以上の警察缶だった。警察缶は円筒型のボディを活かし、横一列に並び始めた。さらに重なるように、警察缶が並び、瞬く間に缶の壁が築き上げられた。

 殺人車は強行突破しようとしたが、上の列の警察缶が勢いよく落ちてきた。落下した警察缶の衝撃に耐えられず、殺人車は思わず停まってしまった。

 そして殺人車は警察缶に逮捕され、死刑が確定し、スクラップ工場行きとなった。

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