砂嵐
私はお祖父ちゃんの部屋のドアをノックした。しばらく待ってみたが、返事はなかった。
「お祖父ちゃん? 入るよ」
私は中に声をかけながら、ドアを開けて部屋に足を踏み入れた。お祖父ちゃんは木製の椅子に腰掛け、テレビをじっと見つめていた。テレビは砂嵐を映しているだけだった。
「女が……女が……女が……」
お祖父ちゃんは砂嵐をじっと見つめたまま、意味不明なことを呟いている。女がいったいどうしたというのだろう。一ヶ月ほど前に脳卒中で倒れて以来、お祖父ちゃんはずっとこの調子だった。
私は夕食をテーブルに置くと、リモコンを手に取って設定をアナログから地デジに切り替えた。アナログ設定だと砂嵐が映ってしまうことがあるのだ。
だが、ものの数秒もしない内に、テレビ画面はまたもや砂嵐を映した。リモコンを確認すると、アナログ設定になっていた。このテレビはなぜかすぐにアナログ設定に切り替わってしまう。
私は首を傾げながら、もう一度地デジ設定に切り替えようとした。
「うぅっ」
お祖父ちゃんのうめき声が聞こえ、私は手を止めた。いったいどうしたんだろうと思いながら、お祖父ちゃんに視線を向けて私は目を見開いた。なぜかお祖父ちゃんの首にくっきりと手の跡が浮かんでいた。
「お祖父ちゃん!」
私は慌ててお祖父ちゃんに駆け寄り、首に浮かんだ手の跡に触れようとした。けれどお祖父ちゃんの首に触れることはできなかった。目に見えない何かがお祖父ちゃんの首を絞めていたのだ。
私は必死で目に見えない何かをお祖父ちゃんの首から引き剥がそうとしたが、まったくビクともしなかった。焦る私を嘲笑うかのように、お祖父ちゃんの首はどんどん絞まっていき、やがてボキリと嫌な音が聞こえた。お祖父ちゃんは死んだのだと分かり、全身から力が抜けた。
何がお祖父ちゃんの首を絞めていたのか、私にはまったく分からなかった。お祖父ちゃんは『女が……女が……女が……』と呟いていたが、いったい砂嵐の中に何を見ていたのだろうか。
私は顔をあげてテレビ画面を見た。砂嵐の中に血塗れの女の姿が見え、私は悲鳴をあげた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます