透明人間

 男は全裸で街を歩いていた。しかし、誰も騒ぎ立てる者はいない。それどころか、男の存在に気付いている者は一人もいなかった。男は透明人間だった。

 男は長年の研究の末に透明人間になれる薬を開発した。この薬は立てこもり事件などで人質を救出するために開発したものだ。透明になれば犯人に気づかれることなく、建物に侵入し、人質を救出できるのではないかと考えたのである。

 男は誰も自分の存在に気付かないことに満足すると、来た道を引き返した。横断歩道に到着した時、信号はちょうど青だった。車が来ていたが、男は止まってくれるだろうと判断した。信号を渡った瞬間、男は車に轢かれた。自分が透明人間だということを失念していたのだ。

 男は――即死だった。

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