死願者

 町はずれにある教会に大勢の老若男女が集まっていた。暗い表情で奥に立つ神父を見つめている。神父は冷酷非道な人物であり、過去に教会を訪れた人間を自殺に追い込んでいる。同業者からは『闇神父やみしんぷ』と評され、忌み嫌われている。

 だが、教会に集まった者たちにとっては神父こそが待ち望んでいた人物だった。ここに集まった者たちは『死願者しがんしゃ』だった。人生に絶望し、死を願っているのだ。しかし、自ら命を絶つ勇気がなく、『闇神父』がいるという教会を訪れたのだった。

 代表して中年の男が事情を話すと、神父は快く了承した。ようやく死ねると『死願者』たちは安堵の笑みを浮かべた。

「それで君はどういう死に方を望んでいるんだね?」

「体を滅多刺しにされて死にたいです」

 中年の男はそう言うと、神父にナイフを渡した。神父はナイフを受け取ると、何のためらいもなく中年の男を刺した。体中を何度も刺し、中年の男は絶命した。

「そこの君はどんな死に方がいいのかね?」

 次に神父は右端で縮こまるようにして立っていた少女に聞いた。少女は小走りで神父の元に駆け寄る。

「私は首をへし折られて死にたいです」

 少女の言葉に神父は頷くと、首に手を回した。手に力を込めると、少女の首をへし折った。ボキリと音が鳴り、少女は絶命した。

 そうして神父は次々に『死願者』たちの望む死に方を実行し、絶命させていく。最後の一人を絶命させると、神父はため息をついた。

「……どこかにしてくれる人はいないかね」

 神父はどこか悲観した表情で死体の山を見つめた。

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