野球拳

 俺は繁華街を歩いていた。怪しまれないように、辺りに目を配らせながら、獲物を探す。すぐに獲物を見つけた。獲物は二十代半ばと思しき女だった。

「なあ、俺と野球拳しないか?」

 俺は女に近づくと、そう声をかけた。予想通り、女は怪訝な表情で俺を見つめた。警戒心を解かせるために、出来得る限りの笑みを浮かべた。

「……俺は病に侵されていてね、もう長くないんだ。最後に女の子と楽しみたくてね。もし嫌じゃないなら、俺と野球拳をしてくれないか?」

「え? そうなんだ。そういうことならいいよ」

 女は表情を一転させ、満面の笑みを浮かべた。あらかじめ考えていた嘘だが、こんなにも簡単に騙せるとは思っていなかった。本当に病気なら、こんなところをうろついたりせず、家族と過ごすだろう。残り少ない時間を見知らぬ女のために使うはずがない。しかし、女はそこまで考えは至っていないようだった。

「そう言ってくれて嬉しいよ。それじゃ、行こうか」

 俺は繁華街の近くにある姉の家に向かって歩き出した。すると手をギュッと握られた。女は上目遣いで俺のことを見ていた。まさかとは思うが、自分の優しさをアピールしているつもりなのだろうか? 自分の行動に酔っている風にしか感じられず、性格が悪そうに思えてならない。女を騙した俺も人のことは言えないが。

 繁華街を出て五分ほどで姉の家に到着した。その間、病気でどれだけ苦しんだかという作り話を女に語った。女は神妙な表情で聞いていた。

 ドアの鍵を開けると、女を家に招き入れた。女は靴を脱ぐと、廊下の奥へ進んだ。女にバレないように、そっと鍵を閉めると、俺も女の後に続いてリビングに向かった。

「早速だけど、野球拳をしようか」

「うん! 最初はグー、じゃんけんポン!」

 俺はグーを出し、女はチョキを出した。女はニコリと微笑むと、服を脱ごうとした。すぐに女の腕を掴み、脱衣を中断させた。女は驚き、じっと俺の顔を見つめる。

「服は脱がなくていい」

「え? でも野球拳って服を脱ぐものでしょ?」

「そうだけど、俺がやりたい野球拳は違う。服は脱がなくていい。その代わり――」

 俺は言いながら、女を押し倒した。女は驚いていたが、すぐに目を閉じた。キスされるとでも思っているのだろうか? 女は期待した表情で待っていたが、それを無視し、壁際に置いている棚から工具箱を取り出した。工具箱を開けると、電動ノコギリを手に取った。

「――

 俺は言いながら、電動ノコギリで女の左足を切断した。スパンと気持ちいいくらいに切断できた。電動ノコギリを使ったからか、切断面は美しかった。

 女は声にならない悲鳴をあげ、暴れはじめた。切断面から血が溢れ出てくる。

「最初はグー、じゃんけんポン!」

 俺はまたグーを出したが、女は何も出さなかった。恐怖に顔を歪め、怯えた目で俺を見ていた。ため息をつきながらも、電動ノコギリを女に近づけた。女は小さく悲鳴をあげる。

「最初はグー、じゃんけんポン!」

 俺はチョキを出し、女は震えながらもパーを出した。ニヤリと微笑むと、今度は女の右足を切断した。女は両足を失い、ここから逃げられなくなった。両足の切断面から噴水のように血が溢れ出し、リビングを真っ赤に染めていく。

「最初はグー、じゃんけんポン!」

 俺はパーを出したが、女は後出しだったにも関わらず、グーを出していた。思考力が低下しているのか、もしくは早く殺してほしいと思っているのかもしれない。顔から生気が失われつつある女の右腕を切断する。勢いよく血が噴き出した。体が痙攣したかと思うと、やがて女は動かなくなった。

 電動ノコギリを放り捨てると、女の服を剥ぎ取り、事に及んだ。生きた人間とするより物言わない死体とする方がいい。生きた人間だとうるさくてイライラするが、死体なら喋らないし、リラックスした気分で事に及べる。

 しかし、相性が悪いのか、あまり気持ちよくなかった。女の死体を無造作に放り投げると、押入れを開けた。押入れから姉の死体を引きずり出し、女の横に置いた。

「やっぱり、お姉ちゃんじゃないと気持ちよくないや」

 俺は女の血を姉の体に塗りたくりながら、半日以上も事に及んだ。

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