黒い雨
僕は道路の真ん中で突っ立っていた。
本来なら、邪魔になるところだけど、今に限っては邪魔にならない。
僕は空を見上げる。雨が降っていた。いや、これは正確ではない。これが本当に雨なのかどうか僕には判断できないのだから。
その雨は夜よりも黒く暗闇よりも黒かった。黒を体現したかのような色合いだ。
止む気配がまるでしない。いつ降り止むのか全くと言っていいほど、見当がつかない。
もしかしたら、降り止まないのかもしれない。一年中降り続けるのかもしれない。
僕は――否、僕たちはもう太陽を拝めないのかもしれない。晴れた日にはもう出逢えない。そんな予感がする。
僕は辺りを見回した。
自動車が見事なまでに腐敗している。
数十箇所に穴が空き、その部分から腐敗が進行している。軽く触れただけで、すぐに崩れてしまいそうなほどに腐っていた。
それでなのか、鉄で構成されているはずなのに、柔らかそうに見えてしまう。
原因はこの黒い雨で間違いないだろう。きっと腐らせる成分が含まれているに違いない。
僕は自動車の運転席を見る。
肉体を腐敗させ、女性が死体となっていた。
道路や歩道には女性と同じく死体となっている老若男女が腐るほど転がっていた。肉体を腐敗させて。
異臭が辺りに漂っている。これが死体の臭いなのだろうか。
僕の身体も徐々にだけど、腐敗が進行している。間もなく僕も死体となって、道路に転がることだろう。
ふいに何かが崩れる音がする。
音のした方向に顔を向けると、建物が崩壊していた。建物を支える柱が、この雨によって腐ってしまい、崩れてしまったのだろう。
視界がぼやけてきた。意識が朦朧とする。
天からお迎えがきたようだ。もうちょっと生きたかったな。
人類はこの黒い雨によって、絶滅するのだろうか。
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