誰そ彼の記憶
数日が経った。
事件の進展はしてないらしく、柏木さんも部長さんも、難しい顔をしていた。影が取り憑いている人物が解らないのだそうだ。手伝えればいいんだが、オレは足手まといにしかならないだろうし。
柏木さんとは学校でも家でも顔を合わせるので一緒にいることが多い。
思ったことは、とても同い年には思えない。見た目の問題もあるかもだが、中身も天真爛漫と言えば聞こえはいいけど、世間ずれしてるし……それに家にいるとき、奇妙な事があった。
居候だからと蔑ろにされてる訳じゃなく、うちの母親も兄達も柏木さんを他所から預かっている子だからと大事にしているし、彼女の部屋を用意している。実の子供と何ら変わらないと思う。
ある日、母親から夕飯が出来たから呼びに行くよう言われたオレは、彼女の部屋に向かった。そこでオレは、奇妙な感覚に襲われた。
「どうしたの?」
「何でもない。夕飯が出来たって」
何故か解らなかった。ただ、やたらと寒気がするのだ。
部屋の天井を見上げると、まっさらな天井に細かい文字でまじないが刻まれているのを見つけた。
ところどころに護符も張られてる。それはどれも『封』『結界』の紋様が書かれている。
「柏木さん。この部屋…」
「ん?そっか。記憶なくなる前も変な顔してたっけ。わたし、事故にあって危なかったんだって。
やっと元気になったけど、またいつ悪くなるか解らないんだって。だからこの部屋には強力なまじないを施してある、って聞いたよ」
まじない?そんなものの気配なのか?
……これじゃまるで…
「長くいない方がいいよ。敏感な人は、強いまじないに当てられるんだって」
「柏木さんは平気なのか」
「うん、ちょっと体が重いだけ。外だと元気が出すぎて、後で具合悪くなるから」
わたしはここにいた方がちょうどいいかもね。そう言っていたけど、オレには空気が清浄すぎて、びりびりとした緊張感に耐えられそうになかった。
あの物々しい空気の部屋で、平気そうにしている少女の事が、急に得体の知れないものに感じた。
記憶が足りないから変に考え過ぎなのか、そう思って頭を振る。
「なあ、おい高原」
……なんだよ、おい。また村田か。
あれから、たまに絡まれるようになった。こっちの気持ち的にはめんどくさいので、複雑だが。
「予習やったか?見せてくれよ」
「やだよ、田中の見せてもらえよ」
予習をやらない方が悪いし、こいつに見せる義理ないし断ると、村田が「えー」と声をあげる。
「俺さあ、隣のクラスのリカちゃんにフラれたんだよー!優しくしろよ」
「はあー?」
急に意味わからんこと言い出しやがった。
お前は女子か。
「あー、別の男子がその子に告られてるの見て勝手に凹んでるだけだよ」
めんどくさいなあと口に出した市島が話に加わった。すると、さっきまで静かにしていた田中がこっちに向いた。
「そもそも村田はなんで女子にモテたがるんだ?」
「男なら女の子にモテたいのは当たり前だろ!」
まあ否定しないけど、今の世の中色んなジェンダーの奴がいるし、そんなことを声高に言うのどうかと思うぜ?
遠くの女子の集団がこちらを見て残念そうな顔をしている。
「止めなよ。女子が引くよ」
「多分そういうところだぞお前」
「俺の部活の連中さ、みんな彼女ができやがって。くそー!羨ましいんだよ!」
どうせ、市島も高原もいい感じの女子がいるんだろ!とか言い始めた。
つーかコイツ、元から暑苦しい奴だったが、こんなに女子にガツガツしてたっけ、振られた(?)ショックでおかしくなったのか?
「…お前、ラグビー部だっけ」
「あれ、でもさ。ラグビー部の部員がさ、この前修羅場あったんだよな?」
「あー。告白を二重に受けて二股したんだったか?」
「……まじか」
あれ、そんな話どっかで聞いた気がするな。
……まさかな。
「そういえば高原、この前のやつ大丈夫か?」
田中がこっそりと聞いてきた。そういえば、こいつにも少しお世話になったんだったな。
「とりあえず、まあ…」
「そうか、柏木さんも一安心だな」
田中の目には、柏木さんがどう映ってるんだろうか、少し気になる。
何だかんだと話をしていると、にわかに教室がざわついていた。
気になった市島が、クラスメートにどうしたの?と聞いた。
「あのね、隣のクラスの女子が倒れちゃって、変なこと言ってるみたいなの」
「変なことって?」
「その子、橋本さんって言うんだけど…」
その女子の話だと、
橋本さんは倒れた後に友達に、この前付き合っていたラグビー部の奴を見て「あの人誰?」と聞いたらしい。
最初は冗談かと思って笑い飛ばしていたが、どうやら本当に忘れてしまったらしい。
「……え?」
「リカちゃん!まだ神は見捨ててなかった!」
「いや、イマカレのことは覚えてっから。そもそもお前は土俵にすら立ってねえかんな」
「うううっ!ちくしょう!」
よくそこまで泣けるなあ村田。
あと市島のツッコミがキレてる。
「なんだか、この前のお前みたいだな」
「そうだな」
少し気になったオレは、昼休みになってから保健室に行って喜多先生にその事を話した。
「ああ。その子ね…」
「それも影の仕業なんですか?」
そうでしょうね、と先生。
「その子、橋本リカさん。前話した記憶を忘れた男子に告白された女の子で、二股されたと思って、ショックで体調を崩していたのよ」
「けれど、忘れてしまったら元気になった…とか?」
「精神的にね。新しい彼氏を見つけたそうよ。ほんとに良かったのかしら…」
余計にややこしくなってるな。
「それで、夏実っちと部員が調べてたんだけど、この事件はラグビー部の周辺で多く起きているそうね」
「……ラグビー部員だったな…そういえば」
「高原くんの周辺にもいたか」
あと、もうひとつ特徴を見つけた、と先生。
確証がある訳じゃないと付け加える。
「直近で異性に告られたり、ちょっとした噂になってる人が被害にあってるわ、なぜか」
「……え、なんですかそれ」
それはオレには当てはまらないと思うが…いや、アイツが何か言っていたような。
「モテたいのかしらね、この影に取り付かれている人は」
さっきから村田の顔が浮かんでる。今日もリカちゃんが~とか言ってたんだよな
…いや、まさか。
「そんな阿呆みたいな動機で、こんなことします?」
「案外単純な考えで起こるものよ。それに本人に意識がなくても、影が勝手にやっていたとしたら、また別ね」
「……そうですけどね」
放課後になった。
母親から、一人で帰らずに柏木さんを待ってなさいと言われていたので、仕方なくオレは放課後も教室にいる事が多い。
なんなら部室で待ってれば?と部長さんに言われたが、それは悪い気がしたので断った。
窓からグラウンドを見ると、サッカー部や野球部、陸上部……スポーツ系の部活がいつもみたいに活動していた。
そこに、ラグビー部も見つける事が出来た。
けれど、練習している部員は少ない。喜多先生の話では、記憶喪失の被害者に関わっていた部員の大半が精神的な理由で体調を崩しているらしい。
そもそも、忘れてしまった人に関連してラグビーをやっていた部員もいたそうだが、その気持ちごと失ってしまい、部活を辞めてしまった生徒も出始めている。
……ラグビー部に恨みのある奴の犯行なのか?
そう考えるが、オレはラグビー部の内情なんて知らないし、分かってるのはアイツが言ってた部員がモテているってことくらい……。
がらっ。教室の扉が開く音がした。
「あれ、……高原くん?」
「……誰だ?」
見覚えのない女子がうちの教室にやって来た。隣のクラスの人か?
「私…隣のクラスの森永。確か、柏木さんの幼馴染みなんだよね?」
「……一応」
多分きっと、の気持ちが混じる。記憶がないと、いまいち自信がなくなるな。
「うちの教室に何か用か?」
「ここからグラウンドがよく見えるじゃん?」
「……直接グラウンドにいけばいいんじゃないか?その方がよく見えるし」
森永さんが慌てて掌で顔を押さえた。
「むり、直視したら私が死ぬ!」
マジか。
好きな奴を見たくて来てるのかと何気なく呟くと、森永さんがこっちを向いて大袈裟に驚いていた。
「どうぇええ!?高原くん、どうして解ったの?!」
リアクションが分かりやすいからだよ、と思ったけど、それを言う代わりに「何となく」と答えた。
「で、どいつ?」
「あの人、あの人」
少し困っていたが、指したのはラグビー部の方。でもよく見えない。
……いや、待てよ。
「……え?どこ?、……え、村田?」
「毎日部活頑張ってるのを見てたら、なんだか気になっちゃって…」
おい村田、お前を見てくれてる女の子がここにいるぞ、リカちゃんを追いかける前に気付いてやれよ。モテない言ってた奴が呆れるよ、好きになってくれる子がいるじゃん。
「いま村田はフリーだよ。頑張れ」
「だから、直視できないんだって!」
恋をするって、そういうものなのか。
オレは今のところ縁がなくて、いまいちぴんと来てない。だけど、身近な次兄とその彼女のお互いを想いあっている関係がそうなのかなと想像してみる。
「馴れるように、マネージャーからはじめてみるとか…」
「あ、橋本さんがマネ辞めるって言ってたね。…うーん」
アイツは傷心中(?)だから、ぐいぐい行けば大丈夫だと思う。本人、モテたいって今日も言ってたし。少しアイツには勿体無い気もするけど、村田の話をしてる時の森永さんが楽しそうだし、いいか。
「……ねえ、高原くん。空ってあんなにオレンジだったっけ」
「え?」
森永さんから言われて窓の外を見る。窓から差し込む太陽は赤みが増してきていた。
そして、はっとする。
「……なんだよこれ」
空から青が消えていき、教室の景色の色が奇妙なものになっていた。光の当たっているところは夕日のオレンジに、それ以外は日陰の黒に塗り替えられていた。
影は何かが蠢いているようにゆらゆらと揺れている。太陽の差し込み方で、校舎が別の空間にかわったかのようだ。
そこでもう一度、グラウンドを見る。
そこにはさっきまで部活動をしていた生徒たちの姿が忽然と消えていた。
「え?もう皆帰っちゃったの?」
「いや、帰るの早すぎだよな…」
と、そこに。
教室の扉ががらっと開いた。オレたちは二人して視線を扉へと向けた。
「…ひっ!」
森永さんが悲鳴をあげた。オレも思わず身構えた。
オレたちの前に、大きなトカゲの様なものが現れた。長い尻尾に爬虫類特有のつるりとした肌。大きく裂かれた口からは、ベロンと長い舌が出ている。それが、人のように二足歩行で立っていた。異形のトカゲは、鋭い目付きで森永さんを見ていた。
それだけでも異様だが、この影とオレンジの空間と相まって相当なヤバさを感じた。
咄嗟にロッカーにあった竹刀を手にして彼女の前に出る。
けれど戦うつもりじゃなくて、相手を牽制するためだった。剣道の基礎は覚えてる、多少なら動ける筈だ。
まずは狙われている森永さんを助けないとまずい、不思議とそんな考えが浮かんだ。
「森永さん、逃げよう」
「わ、わっ、はいぃっ!」
オレがトカゲの動きを見ながら牽制しつつ、森永さんを先に教室の外へと逃がす。続けて自分も廊下へ飛び出した。
「走れ!」
急いで走り出した。後方からは、ドアが壊れる音と、異形のモノの咆哮が響きわたる。
「いやあああっ!」
『グガアアッ!』
後ろからは教室から逃げた二人を追ってトカゲの様な奴が壁を伝って追いかけてくる。さながら、パニック映画のような展開に、頭がついていってなかった。
どうしてなのかわからない、けど森永さんが狙われている。
とにかくこいつのこれない場所まで…
「……高原くん、後ろ!」
森永さんが叫ぶのと、オレの足が槍のようなもので貫かれるのがほぼ同時だった。
「…うぐっ!!」
足から崩れ落ちる。
ヤバイ、これじゃ動けない。
迫り来るトカゲの影は、倒れたオレを見据えて、足を止めた森永さんの方へ行くために前足でオレを潰そうとする。
暗闇の中で鋭く射抜く眼光から、影の叫びが脳内に直接入り込む。
『ただ、羨ましかっただけなんだ!なのに、何で…俺はバケモノになって…?』
「……お前、村田…?!」
眼光の奥底で、村田が黒いものに捕らわれているビジョンが飛び込んでくる。
……なんであいつがトカゲになってる?
漠然と思った。クラスメイトを助けられずに、オレは死んでしまうのか?
こんな影に踏みつけられて、
あいつのように、
こんなんじゃ、オレは
「約束、守れなかったな…」
ぽつりと自覚もなく呟いた言葉に、オレは頭を捻る。約束って、なんだ?
森永さんが叫んでいる。オレのことはいいから、早く逃げて……
「なにカッコつけてんの!」
ぱあん!
火薬と硝煙の煙が空中を閃く。
オレたちに迫っていたトカゲの頭を鋭い弾丸が貫いた。弾丸を打ち込んだらしき人物、地研の部長が拳銃を持って倒れたオレの所に現れた。
「部長さん…?」
赤い宝石の耳飾りが目に映る。
部長さんがやって来た方をを見ると、部長さんの他に柏木さんや他の生徒が数人やって来ていた。…部の人達だろうか。
「応急措置だけど、まってな……『巻き戻せ』」
彼女の耳飾りが光ると、そこからアナログの時計盤が現れる。その時計盤がオレのところに降りてくると、刻まれた針が逆回転を始めた。一分、一時間、1日、ぎゅるぎゅると高速回転をして遡っていく。
「どう、あんたの時を戻してやったんだけど……どうしたのよ?」
頭がいたい。思わずおさえる。
なにかが戻ってくる。記憶が、忘れてたものが、光の渦となって頭の中に押し寄せてきた。
ーーわたし、面白いともだち見つけたんだ!ーー
幼い頃の鈴歌は、とても活発で物怖じしない性格だった。オレは元からおとなしい子供だったので、よく振り回された。
柏木家の両親はうちの神社によくしてくれていた一般人で、近所のよしみで仲良くしてくれていた。
だけど、ある日。幼い鈴歌が影に唆された。
子供は純真だ、だから影は幼い子供を利用して、自分が憑いてしまう事がたまにある。
鈴歌の両親が魔物に食われ、鈴歌自身も魔物に襲われた。唯一逃がされた鈴歌の姉が、うちの神社まで逃げてきて助けを呼びに来たのだ。
魔物から助けられたあいつは、半身を食われて痛々しかった。
ー何で、会っちゃだめなの?!ー
大人達からは会うことを止められた。
あいつの治療は何年も掛かった。
そして久しぶりに会った時、アイツの姿は幼い頃と変わらなかった。治療の過程で、アイツは大人の姿を失ってしまった。
それと、告げられた言葉にショックを受けた
ー…オレが……ー
ー……じゃあ、約束だよ?ー
そうだ。そうだった。
だから、オレは強くなろうと思ったんだ。
あのときの約束を果たす為に、力が必要だから。
「……ありがとうございます。部長さん」
オレは、ブレザーから符を出して狭霧を出さずに直接『心眼』を呼び出した。
部長さんにぎょっとされたので、刀の柄を握りしめて感覚を確認した。
「思い出したんです」
はあ?と更に驚かれてしまった。
「傷と一緒に術がかかる前まで時が戻ったのか、あのトカゲ型の魔物が当たりだったのか
……こっちはありがたいけど、まあとにかく…」
頭の中の霧が晴れていく。
差し出された掌は夕焼けに照らされて黄昏の色をしていた。
「よくやった」
手に握った刀の重みが、やけにリアルに感じる。
そうか、……そうだった。
じわじわと頭の中から漏れ出てくる映像が、記憶が、これまでの違和感の正体を教えてくれていた。
忘れていたのは経った数日間、だけどオレにとっては
「オレは…」
塞き止められていたダムの放水のように流れてくる情報量に表情が歪む。
思い出さない方がよかったかもしれないが、それではいつか後悔したと思う。やっぱり此方の方が自分らしいとさえ思える。
「ほらぼさっとしないで。まだ魔物は倒れた訳じゃないよ」
部長さんはオレにそう声を掛けると、素早く続けた。
「あんたの傷は時を巻き戻しただけ。あたしが術を解けば傷は元に戻る、戻った記憶もあれを倒さなければまた忘れることになるわよ」
「つまり、なんすか?」
「だから下がってよ」
彼女は、拳銃の銃口をを未だ息のある魔物へと向けた。
それならと、オレは彼女に向けて片手で印を組んで呪文を呟き、二枚の符を使う。
「…まじない?」
「火力アップと防壁を張る護符です。…オレの分もお願いします。……あれは、オレの友達なんです」
部長さんは目を見開くと、軽く笑った。
「…バフありがとね」
倒れていたトカゲがのたうち回りながらも、まだ動こうとしている。その影に覆われた巨体に、部長さんはかちゃりと鋼のリボルバーを向けたまま
「だめよ。あんたはやり過ぎた。……黄昏へ帰れ、魔物!」
ぱあん、ぱあん、ぱあん!
拳銃が連続して弾丸を放つ。
撃ち抜かれた魔物は、みるみるうちに影の体が霧となって霧散していった。
魔物の形がなくなると、その場所に人の姿が現れた。ぐったりと倒れているそいつは、スポーツマンと思われる体格をしている。
やはり、あいつだったのか。
「…随分と、深度が進んでいたのね」
気を失っているらしいその人に、白衣を着た少女がやって来た。彼女は手慣れた様子で、その人の脈を取る。頭が夕日に照らされて黄昏色に染まっている。
部長さんは知り合いらしく、彼女に話しながら取りつかれた人の様子を確認していた。
「刹那くん、森永さんを守ろうとしたんだ?」
鈴歌がオレに話しかけてきた。
森永さんは気を失っているが、無事らしい。
その事にほっとした。
「この様だけどな。部長さん達が来なかったらヤバかった」
「ふふん。そうだよ、夏実ちゃんは凄いんだよ」
「何で鈴歌がどや顔なんだよ…」
「およ?刀出してる?あれ……記憶は?」
「んー、戻った。お前にも心配を……鈴歌?」
鈴歌が俯いていた。びっくりして、思わず名前を呼ぶと、顔をあげた時にはほっとした顔つきになっていた。
「戻ってよかったね。忘れられたままじゃ寂しいもんね。うん、今日はおばさんにごちそう作ってもらお」
「……ごちそうって、お前ガキじゃねーんだから」
軽口を叩くのも久しぶりだった。
毎日会っていたのに、記憶のあるなしでは全く違っていた。ただ、鈴歌が鈴歌のままなのは変わらないんだな。
部長さんの術を解いてから、すぐに治癒の能力を使ってもらったので、大した怪我にはならなかった。
けど、無茶をしたことで親と兄達に叱られてしまったが。
更に、数日経った。
被害者の忘れていた記憶がみんなもとに戻ったらしい。
影に取り憑かれていた村田だが、後から聞いたが、あいつも影の影響で記憶を忘れていたそうだ。
忘れていたのは、ラグビーをはじめたきっかけになった人物。市島は昔からの知り合いで、元々はスポーツ一筋だったそうだ。
村田には魔物になっている時の記憶も自覚もなかったそうで、後遺症もなさそうでとりあえず安心した。
「おーす、高原!なあなあ、聞いたけど市島と同じ部活なんだって?」
「村田。声がでかい」
……どうやらオレは、村田からは友達認定されてるっぽい。めんどうな事が増えたな。
新しいマネージャーの子が来たからって浮かれてんなよ、と市島が村田にツッコミすると、村田は固まった。
森永さんはラグビー部のマネージャーを始めたようだ。あの時の記憶は地研の部員の能力で記憶をごまかしているので、覚えてないそうだ。
村田との関係は、部のみんなで見守ってるらしい。…ラグビー部、人間的にカッコイイな。
「そっちは師範が来るときだけ。メインは別だから」
「え?兼部してんの?」
「そうだよ。地域なんちゃら部ってやつ」
「……はあ?!」
「あ、先輩から連絡来たから行くわ」
「…確か、そこに魔女がいるって」
「俺は悪魔がいるって聞いた……」
二人にとても驚かれた。半分あってるので仕方ないが、そのまま教室を出る。すると鈴歌が待っていた。
「刹那くんは入るの強制じゃなかったのにさ。勝手に決めるのよくないよ」
「別に。この前ので興味が湧いただけだし」
本当かな?と言いたそうな鈴歌にはツッコミせずに、廊下をすたすたと歩いていく。
ポケットを探ると、冷たい石の感触がした。
きっと今日も、夕方がやってくる。
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