第2話 いざ演劇部へ
「ええ〜っ⁉︎そうなの〜」
その声に、耳が、き〜んってなる。
絶叫系ロックバンドのVoの俺が言うんだから、相当だ。
そして、その台詞を合図に、全員が、ざーっと片側に寄って、恐る恐る一方を見つめる。
俺はそれをぽかんと見つめる。
「ちょっと待った!そこ、もうちょって溜めてから移動しよう」
いや、どうでも良くない?って俺の気持ちと、存在はガン無視。
「河津さん、振り返るタイミング、早くない?」
「この位置だと、スムーズにダンスシーンに移れないけど?」
口々に意見が出、修正され、
「じゃ、それでもう一度通してやってみて」
…と続いて行く。
本気で俺の存在忘れてない?と思ったところで、
「で?君は?」
と、演出していた部長の如月が視線を俺に向けた。
キサ様と後輩女子に騒がれる、見目爽やかなクラスメート。俺は見覚えないですか。そうですか。
「3年F組 大森
奴はあぁ、と言う顔をした後、
「おおもりさって変わった名前だと思っていたけど、たすくって読むんだ?面白い。脚本にいつか使えるかな…」
て、最後は独り言っぽく呟いた。
ん?コイツ結構変人?
「あのさ、学祭のメインホールのステージの事なんだけど!」
俺が、叫ぶように話しかけると、手をおでこに当てた状態で、不自然に身体をねじって振り返った。
珍妙なポーズに思えるけど、コイツがやると何だか、無駄に気障ったらしく見える。
誰か、その辺の視覚的効果の調査発表して欲しい。
「文化祭が近くてね。練習も佳境なんだ。要件を手短に」
如月が、これ見よがしにヒラヒラさせて居るのは、台本らしい。かなり、分厚い。
学祭のホールステージ占領している台本…
「あのさ。演劇部のステージ使用時間、短くしてくれな…」
「無理」
俺のセリフをぶった切ると
「森里さん!そこで君がダンスで表現する感情が何か、分かってるかな⁉︎」
思いがけず、真剣な勢いで、演者たちに向かって行ってしまった。
「お前らが、本気なのは分かったけどさ…」
ぽつんと残され、そう呟いたけど、台詞を繰り返し繰り返し、泣きそうになりながら、
「もう一回お願いします!」
そう言って、汗撒き散らしてる彼らに、それ以上、何も言え無くなった。俺、意外とお人好しなのよん。
高川さん、ごめん。一瞬、微笑みかけて来ていた高川さんが、遠ざかって行く幻覚を見た気がした。
…とは言え、俺たちだって、本気だ。ステージでバンドやりたい…何か、他の手を本部に考えて貰わないと…
「無理だね」
何かのプリントに目を通し、時々ペンで何かを書き込みながら、視線も向けずに東山は言い放った。
「せっかく、案をあげたのに、活かせなかったのはそっちでしょ」
「案をくれたのは高川さんじゃん。あんたは何もくれてないだろ」
そう言い返すと、癇に障ったみたいに、ピクッと眉が動いた。
「本気でやりたいなら、演劇部を何とか説得したら?」
「あの変人に言葉が通じると思うか?」
その言葉に、ぶっと吹き出したのを誤魔化すようにかしこまった咳払いを1つすると、
「兎に角、打つ手なし。如月氏を何とか口説き落とさない限り」
「口説き落とせるタイプか? アレが」
自慢じゃないが、ヘビメタ同好会には、むさい野郎連中しかいない。
それに口説くなら俺は高川さんが…そんな心の声が漏れていたのか、キッと、東山が視線を上げ
「プログラムやポスターの都合も有るんだから、動くなら早くしろや」
そう言い捨てた。
くそぅ…弱小同好会の相手なんてしてられないってか?
「見とけよ!」
そう強気な捨て台詞を残して背を向けたが、勿論、策なんて無いからな。
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