第24話 はじめてだからベッドで……
えっちなネームを片手に、東堂さんがベッドを降りる。
椅子に腰掛けた俺の目の前で足を止めて、彼女は大きく手を伸ばした。
首の後ろに手が回る。
東堂さんの柔らかそうな唇が、耳元で囁いてくれる。
「あたしをさ。もっとえっちな気持ちにさせてよ。いいでしょ?」
「!!!!」
ドキリと心臓が跳ねて、思わず彼女の方を見てしまった。
えっちで可愛い顔が、目の前にある。
「あたしを満足させて」
ふっくらとした唇を尖らせて、東堂さんは挑発するような目を向けてくる。
「もっ、もちろん……」
いつの間にか、そんな声が漏れていた。
お互いの視線が交わって、東堂さんの頬が赤くなる。
「ありがと」
東堂さんの手に力がこもりって、ぎゅっと抱きしめられた。
触れている場所すべてが柔らかい。
「すっごく期待してるから」
そこで言葉を切って、東堂さんがゆっくりと息を吸い込んだ。
なんだろう?
くっついている東堂さんの体温が、ちょっとだけ上がった気がする。
「……それとも、あたしとじっせん、する?」
「!!!!」
「いますぐ」
ドキリと心臓が跳ねて、目を見開きそうになる。
実践!?
していいの!?
そう動きそうになる口を俺は無理矢理閉じた。
(まてまて、落ち着け。相手は、可愛くて無防備な東堂さんだ)
いまの言葉を自分本位に解釈してしまうと、本当にやばいことになりかねない。
落ち着け。
ゆっくり考えろ。
そう自分に言い聞かせる。
――いますぐ実践するの意味。
これはあれだ。
東堂さんに恥をかかせてしまうかもしれないけど、確認した方がいい。
「えっとさ。本当に、実践していいの?」
「……うん」
「俺が相手で、本当にいいの?」
「うん。あんただからいいの。……恥ずかしいから、あんまり聞かないで」
正面から抱きついたまま、東堂さんが顔を背ける。
そんな彼女の姿にゴクリと息を飲んで、軽く目を閉じた。
やっぱり、俺の勘違いじゃない。これはつまり、そういうことだよな。
「ごめんね。最後にひとつだけ質問があるんだけど」
これだけはどうしても聞かないとダメだと思う。
こればかりは、失敗したくないし。
「どこでする?」
そう問いかけた俺の言葉に、東堂さんが息を飲んだ。
抱き着いた手が、少しだけ震えている。
「えっと、あたし、はじめてで。だからその。……ベッドがいい」
東堂さんは顔を背けたまま、消え入りそうな声でそう言ってくれた。
彼女が持っていた原稿を受け取って、空いた手を優しく握る。
「それじゃあ、行こうか」
「……ん」
首筋まで真っ赤に染めた東堂さんの手を引いて、ベッドまで連れ行く。
緊張しているのか、東堂さんは俺を見ようとしない。
ベッドの真ん中に座った俺の隣に、彼女は顔を背けたまま、ペタンと座ってくれた。
俺もかなり緊張しているけど、このまま何もしない訳にもいかない。
「はじめていい?」
「……ん」
一瞬だけこっちを見た東堂さんが、赤くして顔を背ける。
「あたしは、だいじょうぶ」
少しだけ震える声でそう言って、軽く目を閉じた。
はじめてと言っていたし、やっぱり緊張しているのだろう。
だけど、えっちな漫画を沢山描いてきた彼女の事だ。
はじめてしまえば、いい感じに動いてくれると思う。
「俺もはじめてだけど、頑張るからさ」
「……うん」
左手を伸ばして、彼女の足の側に手を下ろす。
前屈みになりながら、チラリと見えている太ももを流し見た。
そのまま右手を大きく伸ばす。
(あっ……。さいしょは、キス、から……)
東堂さんが何か言った気がしたが、俺の手は止まらなかった。
そのままえっちな原稿をベッドの上に置いて、1枚、2枚と捲っていく。
「俺としては、この部分に手を加えようと思うんだけど、どうかな?」
「……へ?」
「ん??」
大きく目を見開いた東堂さんが、ぼんやりと俺の顔を見る。
俺の手。ベッドの上の原稿。自分の体。
何度も視線を行き来たせた堂々さんが、何故か悲しげに目を伏せた。
「えっちな漫画の実践?」
「え? うん」
いますぐえっちな漫画の実践をするって話しだったよな?
あれ? なにか間違えた?
などと思いながら冷や汗を流していると、東堂さんが原稿を手に取った。
「ごめんだけど、これ持ってて。覚悟とか、いろんなのが行き場をなくしてるから」
「え? あっ、うん」
訳も分からないまま原稿を渡され、素直に受け取る。
両手で顔を覆った東堂さんが、枕に向かってパタンと倒れ込んだ。
(なんで!? あたし、すっごく頑張ったよね!? すっごくえっちだったよね!? なにがダメだったのよー!?)
俺の枕に向かって何か叫んでるみたいだけど、声がこもっていて、うまく聞き取れない。
顔を枕にうずめた東堂さんが、うつ伏せのまま、両手で布団を抱きしめる。
足をバタバタさせる後ろ姿は、最高に可愛いと思う。
だけど、東堂さんは制服姿。つまりはスカート。
「あの、東堂さん……」
(想いが伝わったって思ったのに! あたしって、そんなに魅力がないの!?)
ダメだ。俺の声に気付いてくれない。
チラリとだけでも見たいけど、東堂さんにバレたら本当にやばい。
これは見たらダメだ。
そう自分に言い聞かせて、俺はグッと奥歯を噛みしめながら後ろを向いた。
憧れのえっちな漫画家さんは同級生のギャルでした 薄味メロン@実力主義に~3巻発売中 @usuazimeronn
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