第23話 俺の部屋で

「へえー、ここが森戸の部屋なんだ」


「う、うん……」


 東堂さんの肩に手を回して、ふたりで俺の部屋に入った。


 そのはずなんだけど、道中のことは覚えていない。


『ドキドキしてたら、いつの間にか自分の部屋にいた』


 そんな感じだ。


 それに、もう1つ問題がある。


 まぁ、東堂さんが俺の部屋にいること自体が問題なんだけど、それは放置することにして。


「漫画を描くための場所が、1人分しかないんだよね」


 俺の部屋に机は1つ。


 だから、2人で漫画を描くことは出来ない。


「そっか。アシスタントさんを呼ぶことなんて、普通はないよね」


 おっしゃるとおりです。


 誰かと一緒に漫画を描く機会なんて、これまでなかったし。


 そんな単純なことに、ここに来るまで気が付かなかった。それもかなり問題だと思う。


 でもさ、仕方ないよな?


 ドキドキし過ぎて、それどころじゃなかったし。


 そう思っていると、東堂さんが部屋の中をぐるりと見渡して、小さく頷いた。


「今回の主役は森戸だからね。いいよ、あたしは見守る役で」


 そう言ってくるりと背を向ける。


 ベットの前まで歩き、振り向きながら無邪気に微笑んだ。


「あたしは、ここに座って待ってるから。新しいストーリーを組もうかなって思ってたし」


 ぽすんと俺のベットに腰掛けて、片手をうしろにつく。


 スカートのポケットからスマホを取り出して、何気なく電源を入れた。


「森戸もプロットを考える感じでいいよね? 起承転結くらいの軽いヤツでいいからさ」


「あっ、えっと、うん……」


 それは全然いいんだけど。


 東堂さんのポーズ、ちょっとえっち過ぎませんか?


 軽く後ろにそらされている上半身。

 さらりと流れる髪。


 内側に曲げられた膝。


 スカートから覗く太もも。


 さらには、東堂さんが俺のベッドに座っているという現実。



 すごく魅力的に見えるんですが……?


 これって天然だよな?


 まさか誘ってたり……、



 いやいやいや、



「出来るだけ早く仕上がるように頑張るよ。うん!」


 いまの東堂さんを見ていると、どうしても、誘われている気がしてしまう。


 これはもう、俺の頭がおかしくなる前にプロットを仕上げた方がいい!


 そうしないと、本当にどうにかなりそう……。



「出来上がったら見せてよね?」


「……うん」


 心を静めようとした俺をさらに誘惑するように、東堂さんが足をゆっくりと組み替える。


 制服のスカートがひらり揺れて、見えていた太ももの面積が更に広くなった。


 見えたらダメな布が、見えそうで見えない。


 そんな肌色の景色から慌てて目をそらして、俺は使い慣れたペンタブを握りしめた。


「編集部に認めてもらえる作品を作る!」


 どんな作品が評価されるのかすらわからないが、東堂さんと一緒にいるためにも頑張る必要があるからな。


 そんな思いを胸に、チラリと彼女に視線を向けた。


 俺のベッドに腰掛けて、真剣な目で新作のプロットを作る東堂さんは、やっぱり綺麗だと思う。


「頑張りますか」


 改めてそう声に出して、気合いを入れ直した。


 目指すは、東堂さんの専属アシスタント!


 これまでのような楽しい時間を本気で掴み取る!


「でも、編集部が欲しい作品か……」


 それってやっぱり、売れそうな作品だよな。


 えっちな漫画に対する情熱はあると思うけど、売れないと仕事にならないだろうし。


 そんなことを思いながら、俺は書いて消してを何度も繰り返した。



 ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★


 

「ごめん、おまたせ。出来た、かも……」


「ん~? 自信なさげー?」


「あっ、いや。そんなこともないんだけどさ」


 自分の中ではいい感じのストーリーが出来たと思う。


 これをおっきなイチモツランド先生に監修してもらえば、商業でも闘える気がする!


 今週の売上ランキング的な物にランクインしててもおかしくない!


 個人的にはそう思っていたんだけど、


「んー……。悪くはないんだけど、震えないかな?」


 東堂さんはベットに座り直しながら、唇をとがらせた。


 胸の下で腕を組んで、ん~……、とうなる。


 当然のように胸は強調されていて、えっちなシナリオが書かれた紙が、東堂さんの胸に触れる。


 俺は、あの紙になりたい。


 などと思っている場合じゃなくて、


「震えない?」


「うん。うまく言葉に出来ないんだけど、薄いって言うのかな?」


「あー……、うん。なるほど」


 俺を傷付けないために、ずいぶんと言葉を選んでくれたみたいだけど、


 『ありきたり』

 『面白くない』

 『えっちじゃない』


 そういうことなんだと思う。


「もっと濃くする」


「うん。あたしは、あんたのすっごく濃いのを感じたいかな」


「……」


 妖艶に微笑みながら、そんなことを言うのはダメでしょ。


 しかも、俺のベットに腰掛けてる状況ですし。


 柔らかそうな胸も強調されてますし……、


「あたしをさ。もっとえっちな気持ちにさせてよ」


 両手を大きく開いた東堂さんが、恥ずかしそうに微笑んだ。

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