第17話 パフェで誘惑

 スプーンにのったパフェが、目の前にある。


 パフェは、東堂さんが直前まで食べていたもの。


 スプーンも、東堂さんが使っていたもの。


「かんせつきす……」


 そんな言葉が、俺の口を突いて出ていた。



 やらかした!!!!



 そう思っても時すでに遅し。


 東堂さんは顔を背けて、頬を赤らめる。


 だけど、手はそのまま。


「シェアするって、言ったじゃん……」


 東堂さんが、唇をぎゅっと尖らせた。



 ……これはなんだ?


 どういう状況だ!?



「はやく食べてよ……」



 東堂さんの唇から、絞り出したような声が聞こえる。


 顔は真っ赤に染まり、視線は宙をさまよっている。


 状況はなにひとつわからないけど、これはあれか?


 あーん、ってしていいってことか!?


「……いや、なんで?」



「なっ、なんででもいいっしょ! 早くたべてっ!!」



 東堂さんは左手で俺の肩を掴んで、スプーンを近付ける。


 キレイな顔が、ものすごく近い。


 気を抜くと、普通に惚れそうなんだが……?


 これは、あれだよな?

 断る理由なんてないよな?


 だって、東堂さんのあーんだぞ?


「しっ、失礼します……」


 他にもっといい言葉があったかもしれない。

 だけどさ。それしか思いつかなかったんだから、勘弁して欲しい。


 平常心を保つように自分に言い聞かせて、口を開ける。


「……あーん」



「ん。あーん」



 ふわりと微笑んだ東堂さんが、スプーンを口にいれてくれる。


 舌の先にスプーンが触れて、冷たいものが口の中に残った。


「どう? おいしい?」


「うっ、うん……」


 正直な話、緊張してドキドキして、味なんてわからない。


 アイスが冷たいなー、って思ったくらいだ。


 だけど、体が熱い!


 全身がドキドキする!!



 マジで幸せだ!!!!



 そう思っていると、東堂さんは、なぜかスプーンを逆さに持ち替えた。


 視線をそらしたまま、スプーンの持ち手を俺の方に向ける。



「つぎ、森戸の番だから」




「……へ?」



 俺の番、とは……?


 あーんってしたスプーンを今度は俺が持たされた。


 パフェも、俺の前に押し出された。


 東堂さんは顔を俺の方に近付けて、ゆっくりと目を閉じる。


「あーん……」


 ふっくらとしたプルプルな唇から、そんな声が聞こえる。


 ぎゅっと閉じられた瞼。

 長いまつ毛。


 唇の奥には、淡いピンク色の舌や赤い喉が見える。



「はっ、恥ずかしいから、早くしてよ……」



「あっ、うん。ごめん」


 もう少しだけ見ていたい気持ちや、湧き上がるイタズラ心を無理やり抑え込む。


 あの口の中に指を入れてみたい。


 湧き上がる感情を悟られないようにスプーンにパフェをのせて、彼女の口に近付けた。


「……入れるね」


 一応、そう声をかけて、スプーンを東堂さんの口の中に入れる。


 東堂さんの舌にスプーンが触れ、パックンと彼女の唇が閉じた。


「んっ……」


 小さな吐息が漏れて、彼女がほんの少しだけ身をよじる。


 東堂さんの柔らかさをスプーンの先に感じながら、俺はゆっくりと口の中から引き抜いた。



「「……」」



 東堂さんのまぶたが開いて、視線が混じり合う。


 恥じらいと、幸福と、背徳感と……。


 いろいろな感情が湧き上がってきて、俺は慌てて視線をそらした。



 これってさ。2つのパフェをシェアする、って話だったよな?


 残りもすべて、あーん、ってするのか!?



 どう考えても、俺の心臓がもたないんだが!?



 などと思っていると、東堂さんが姿勢をただす。



「……ありがと」



 そう言いながら自分の唇に触れて、照れたようにはにかんだ。


 体で隠すように置いてあった箸入れに手を伸ばして、東堂さんが新しいスプーンを渡してくれる。


「森戸のおかげで、いいシチュが描けそう! すっごくえっちなのにするから、期待してて!」


 口元で嬉しそうにピースサインを作った彼女が、無邪気な笑みを浮かべて見せた。


 パフェのシェアには、そういう意図があったらしい。


「そっか。東堂さんの役に立ててよかったよ」


 突然のあーんに心の底から驚いたけど、正直な話、幸せな思いをしただけだからな。


 俺に損はないし。めっちゃドキドキ出来たし。


 それでおっきなイチモツランド先生の創作の糧になるのなら、みんな幸せだな!


「それで、今日の本題なんだけど──」


 そこで1度言葉を切った東堂さんが、俺の手を両手で掴む。



「森戸のえっちな感情を、あたしにぶつけて欲しいの。なんでも受け止めるから。……だめ、かな?」



 東堂さんは、祈りを捧げるかのように、俺の顔を見上げた。


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