第11話 攻めるの? あたしが!?

 急所を攻める?


 その言葉の意味がわからなくて、あたしは新田さんの目を真剣にみた。


 急所……、急所……。


「それって、森戸の、ってことだよね?」


「はい。その通りです」


「……」


 森戸の急所って聞くと、やっぱりあの部分が思い浮かぶよね?


 森戸の大事なとこ。


 お風呂場でチラッとだけ見ちゃったし……。


 何十枚もスケッチしちゃったし……。


「先生。えっちなことを考えていませんか?」


「ひゥッ!???」


 うそでしょ!?


 なんでバレたの!?


「あー、やはりですか。多方、急所に反応されましたか?」


「っ!!」


 新田さんがそう言うってことは、やっぱり違う急所なんだ……。


「でっ、でもさ! だってさ! 森戸の急所なんて聞いたら……」


 大事なところを思い浮かべない?


 あれ? もしかしてなんだけど、普通の人って『心臓』とか『頭』って思うの?


 ……あたしのえっち。


「先生は、ポーカーフェイスを学んだ方がいいですね。すごいえっちな顔をしています」


「えっ!? そんなに!?」


「はい。そこも可愛いからいいのですが」


「……」


 確かに顔が暑いから赤くなってるとは思うけどさ。


 そこまで言わなくてもよくない!? いじめじゃない!?


 なんて思ってたら、新田さんがふぅー、って息を吐いた。


「先生は御自身の欲望を基準して、森戸さんを誘惑していませんか?」


「え……?」


 欲望とか、誘惑って言い方やめてよ!


 って思うけど、たぶん間違ってないかも。


 ヒロインがこうしたら、主人公はこうする! こうなる!


 そんな感じのことを無意識に思って行動してた気はするし。


「えっちな漫画家として、自分の欲望に忠実なのはいいことです。ですが、恋愛では相手のことを知り、歩み寄る姿勢も大切ですよ」


「……そうなのね」


 さすがは、プロの編集さん。


 修正箇所がわかりやすくて、的確な気がする。


 森戸のことを知る……。


「仮にですが。森戸さんが尻尾萌えだったとします」


「え?」


 それって、森戸があたしの尻尾を掴んで、引っ張ってくれるってこと!?


 それとも、あたしの尻尾を縛って、吊り上げて──


「先生。落ち着いてください。先生に尻尾はありません」


「でっ、でも、すっごく頑張ったらどうにかなると思うの! そしたら森戸があたしの尻尾を──」


「妄想はそこまででお願いします。話が進みません」


「……うっ、うん」


 次の作品は、尻尾物にしてみようかな。


 両手、両足だけじゃなくて、尻尾まで縛られちゃって。


 身動きが取れなくなったあたしを森戸が──


 なんて思っていたら、ペチっと額を叩かれた。


「痛ッ!!」


「真面目な話をしているんですよ? 頭を働かせて聞いてもらえますか?」


「……はい」


 真面目な話? これが?


 って思うけど、さすがに集中しなきゃね。


「森戸さんが尻尾萌えなら、先生は誘惑時に尻尾を付ける。その方が効果的だと感じませんか?」


「……確かにそうかも。主人公の趣味とヒロインの属性を合わせるのは基本よね」


 あたしがえっちな漫画を描く時も、その基本を押さえるところからはじめるし。


 もちろん逆を突くこともあるけど、そっちはストーリーで無理やりくっ付ける感じにするもんね。


「ってことは、あたしがえっちな漫画みたいになれなかったのは、あたしが森戸の趣味に合わなかったから、ってこと?」


「はい。ですが、先生の場合はおしい場所までは行っていたように思います」


「え? そうなの……?」


 むしろ、マイナスを振り切る勢いで嫌われてると思ってたんだけど。


「証拠はありませんが、えっちな編集者としての私のカンがそう告げています」


「なるほどね」


 それなら信用するしかないわね。


「これが漫画であれば、主人公の性格を変更します。ですが、森戸さんの性格は変更できません」


「そうよね。……でも、あたしの属性は、頑張ったら変われる。そういうことね?」


「はい。現実で変えられるのは、自分だけですから」


 つまり、あたしが森戸の欲望を満たせるようになればいいってことね!


 あたしの欲望ねがいを叶えるのはそのあと!



「そこで本題なのですが。森戸さんにえっちな漫画を描いて貰いませんか?」



「え……?」


「そうすれば、森戸さんの求めているえっちなものが見えてきますよね?」


「!!!!」


 思わず目を見開いて、あたしは新田さんを見た。


 右手を大きく前に出して、ガッチリと握手をする!


「すごい! 天才! さすがは、えっちな編集さん!」


「ありがとうございます。これでも社内では、優秀だと評判なんですよ?」


 バブみダダ漏れの微笑みを向けてくれるけど、言われなくても知ってるからね?


 新田さんが優秀だなんて、見た目だけでも伝わってくるもん。


「合言葉は『えっちに魅了して、彼は私のもの!』いいですね?」


「おっけー! えっちに魅了して、森戸はあたしのもの!!」


 えっちなやる気が、あたしの体を包み込んでる!


「えっちな報告を期待しています」


「ええ! 今度こそ、チャンスを掴んでみせるわ!」


 心のモヤモヤは、いつの間にか消えてた。


 いまなら、なんでも出来そう!


 誠心誠意、頑張るわ!!

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