第10話 あたしのもの!!

「それで、先生は森戸さんになにをしたんですか?」


「えーっとね。あたしが描いてる漫画みたいになりたくて、……いろいろと」


 森戸がうちに来た時はホントにびっくりした。


 だけど、えっちな漫画を一緒に描いていくうちに、緊張も解けたんだよね。


 最初の電話で新田さんに『2人きりのチャンス、頑張ってくださいね』って言われたのも心の中にあったし。


 だから、あたしの部屋で一緒にえっちな漫画を描いてたんだけど……、


「ちょっ、ちょっと待ってください! 森戸さんを先生の寝室に入れたんですか? その、2人きりで?」


「え? うん。そうだけど?」


 なにかおかしかった?


 ベッドの横はあたしの作業スペースで、他にアシさんの机が置けそうな場所もなかったし。


「そ、そう、ですよね。先生には、女性のアシスタントが向かうと伝えていましたね。失礼しました。話を続けてください」


「……ねえ、新田さん。なにか言葉を飲み込まなかった?」


 おっきく目を開いたし、びっくりした声も出したし。


「いえ、そんなことはないですよ。話の続きをお願いします」


「……むぅ~」


 なーんかキモい感じがするけどな。


 ……まあいっか。


「そこからは、2人で普通にえっちな絵を描いてたんだけど……」


 1人でしてた時と違って、いろいろ意識しちゃって。


 最終的に、すっごくテンションがあがっちゃって……


「それで、森戸さんにえっちなセリフを読ませて、録音までしたんですか」


「うっ、うん……」


「気持ちが高ぶって、お風呂まで入ってしまったと」


「……その通りです」


 だってさ! すぐそこに森戸がいたんだよ!?


 仕方ないじゃん!


 色気にやられても仕方ないじゃん!


「でもね、でもね! 最初はホントにセリフの修正だったんだよ!?」


「それでしたら、なぜそのような事態に?」


「……このまま終わっちゃうのはもったいないなー、って思っちゃって」


 森戸があたしの目を見ながら、感情を込めてセリフを言ってくれたんだよね。


 そしたら、喋れないくらいドキドキしちゃって。


「つまりは、先生がえっちだったから。そういうことですか」


「……否定は、しません」


「しないのではなく、出来ないのでは?」


「……」


 でっ、でもいいの!


 あの時のえっちな森戸の声は、あたしの宝物だから! 後悔はしてない!!


 ……でも、反省はしてます。ごめんなさい。


「それで無防備にお風呂に入ったものの、入浴を覗いて貰う願望は叶わなかったと?」


「……はい」


 覗いてくれたら、それをネタにいろいろとして貰う予定だったのに。


 なにがダメだったのか、いま考えてもわかんないんだよね。


「あとに引けなくなって、資料用のネグリジェで誘惑するも、不発に終わったわけですか」


「……はい」


 肌が触れるくらい森戸に近付いて、一緒にえっちな原稿をチェックしたのに、進展なんてなかったし。


 あんなに恥ずかしい思いしたのに、ほんとキモい。


 ……こんなこと考えてるあたしが。


「ほんとに短くて、スケスケだったから。はしたない女だと思って、ひかれたっぽい……」


 えっちなのはいいけど、はしたないのは絶対にダメ。


 この業界に入って1番最初に学んだ格言なんだけど、


「舞い上がっちゃって、攻めすぎたみたい……」


 それからは、あんまり目を合わせてくれなかったし。


 横並び布団で寝ながら見つめ合ったのに、森戸、すぐに寝ちゃうし……。


「寝顔は可愛くて、すっごく幸せだったけど」


 あたしの印象は、すっごく悪かったと思うし……。


 えっちなアピールは、すべて失敗。


 次も手伝ってくれるって言ってくれたことだけが、唯一の救いかな。


 そう思っていると、新田さんがふんわりと笑った。


「これが若さですか」


「え……?」


 どういう意味?


「意味わかんないんだけど」


「いえ、青春っていいなと、懐かしく思っただけです」


「????」


 いまの話のどこに青春があったの?


 ほんとに意味わかんない!


 教えてよ! って言う前に、新田さんが人差し指をピンと立てた。


「先生に1つだけアドバイスです。先生は急所を攻めることが出来てない。それだけかも知れません」


「え? どういうこと?」


 こてりと首を傾げたあたしに向けて、新田さんは愉快げに笑った。

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