第9話 編集部で作戦会議。

 森戸が帰っちゃってから、2時間とちょっと。


 原稿が終わって清々しくなる予定だったお昼過ぎ。


 あたしは編集部の個室で、担当編集さんのお腹に抱きついてた。



新田あらたさーん。だめだったよぉ~。ぐすん……」



 分かりやすい泣き真似をしながらぎゅーってして、新田さんを感じる。


 ついでにおっぱいもパフパフしたけど、気持ちは晴れてくれない。


 新田さんは、はあー……、って溜め息をついて、あたしの頭をさわった。


「おっきなイチモツランド先生。邪魔なので離れてください」


「むうー……」


 辛めコメだけど、本気じゃないはず!


 声、優しいし!

 引き剥がさないし!


 新田さんって、ホントにいい人だよねー。

 あたしもこんな女性になりたいなー。


 なんて思うけど、それはまた別の話だから!


「絶対ヤダ、離れない! あたしのモヤモヤ受け止めて!」


「ヤダって子供ですか……。まあ、私から見ると子供ですが、もう高校生ですよね?」


「高校生でも甘えたい時はあるの!」


 おっぱいに顔をうずめながら、新田さんの目を見る。


 赤フレームの眼鏡。

 ポニーテール。

 高そうなスーツ。

 ステキなプロポーション。


 ほんとに「仕事が出来る淑女!」って感じだよね。


 ……淑女の使い方、あってるのか知んないけど。


 押しに弱いのも、点数高いし!


 と言うかさ!


「今回は新田さんが悪いっしょ!?」


 あたしがモヤモヤしてるのは、絶対に新田さんの責任だから!


 あたしは悪くないし!


「森戸が来るなんて聞いてない! じょアシって嘘じゃん!」


 むぅ~っと唇を尖らせて、さっきよりも強くぎゅ~っ、ってする。


 その隙に、そ~っと彼女のおしりに手を伸ばしたら、触れる直前でペチッと叩かれた。


「私にくっついてどうするんですか。そうして森戸さんに迫ればイチコロだったでしょうに」


「うっ……」


見た目だけは・・・・・・可愛いんですから。先生はもっと自信を持って攻めれば成功しましたよ」


 よしよしと言った感じで、新田さんが頭をなでてくれる。


 優しい笑みも、おっきなおっぱいも、ほんとかわいい。


 バブみを感じる系のえっちなのって、こんな感じなのかな?


 なんだか目覚めた気がする!


 新田さんに感謝しなきゃ!


 って思うけど、そういう話じゃなくて……


「見た目だけって、そんなに強調して言わなくてもいいじゃん」


 自分でも、中身はダメダメってわかってるけどさ。


 料理は苦手。

 人付き合いも苦手。

 ひきこもり適性まる


 バブりょくなし。


 でもさ! 色々と頑張ってるっしょ!?


「では聞きますが。先生の御趣味は?」


「うっ……」


「一般の方に受け入れて貰えると思いますか?」


「うぅっ……。それは、そうだけど……」


 あたしの専攻科目は、ほんとにニッチな世界。


 えっちな漫画業界でも、端っこのほう。


 熱狂的なファンはおおいけど、一般人パンピーさんには見せれない。


「で、でもさ! 森戸はひかないでくれたよ!?」


 最初は『お金のために仕方なく来てくれたのかな』って思ってたけど、一緒にえっちな絵を描いてわかった。


 森戸はあたしのことを尊敬してくれてる!


 悪い感情は持ってない!!


「森戸はあたしの味方っしょ!!」


「そうですね。森戸さんは先生の理解者だと思います」


 ですが、って言って、新田さんはあたしの目を真っ直ぐに見た。


「彼を一般枠に入れてはいけませんよ。面接に立ち会いましたが、彼も特殊な人間です」


「それは、まあ、うん……」


『えっちな漫画が描きたい!』『えっちな漫画をみんなに読んで欲しい!』

 そう言ってる人を一般人に入れたらダメだよね。


 でもさ! だからこそあたしは、自信を持って言えるんだよ!


「あたしは森戸だけでいいから、別にいいの!」


 森戸以外の好意なんて興味ないし!


 森戸以外に好きとか言われてもキモいだけだから!


 昨日と今朝だけだったけど、森戸に対する気持ちはすっごくおっきくなったし!


「だからあたしは、このままで大丈夫!」


 あたしは間違ってない!


 そう思ってたんだけど、


「そこまでの思いがあって、2人きりにしてあげたのに。少しの進展もなかったんですか?」


「……うん。ダメだった」


 それが現実なんだよね。


「でもさ! これでも精一杯がんばったんだよ!? がんばってーー」


 なんて言って、あたしは自分の失言に気がついた。


 新田さんの目が光ってる。


 微笑んでいるけど、目が笑ってない。獲物を狩る目。


 これ、ぜったいダメなやつ!


「新田さんごめんね! 急ぎの原稿忘れちゃってた! すぐに帰らなきゃ!」


 大慌てで新田さんに背を向けて、あたしは鞄を取った。


 だけど、新田さんの手があたしの肩を掴む方が早かった!


 って、ちょっと待って!


 痛いから! 力強いから!


 新田さんのどこにこんな力があるの!?


「先生、締め切りは当分先ですよね? そんな事よりも、頑張ったお話を聞かせてもらえますか?」


「えっと、それは……」


 いま思い出した。


 新田さんも、えっちな漫画が好きで編集をしてる人。


 あたしたちと同じ、闇の住人……。


「聞かせてくださいますよね?」


「あのね。その……」


「話してくれますよね?」



「……はい。わかりました」


 新田さんが放つ圧力に勝てる未来が見えなかった。






――――――――――――――――――――――――


 【 あとがき 】


 1万文字程度で完結予定でしたが、私の予想以上に評判がよく、


 現在、ラブコメ週間ランキングの100位以内を狙えそうな位置につけています。


 そのため、続けられるところまでは続けることにしました。


 引き続き、フォローと☆、コメントなどを貰えると嬉しいです。


 よろしくお願いします。


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