第7話 布団、並べるのか?

 俺が寝る布団の隣に、東城さんも布団を敷いて寝る?


「いや、なんで?」


「え? だって、こんなにえっちな漫画みたいな展開、経験しとかないともったいないじゃん。そうでしょ?」


「……いや、うん。まあな」


 言いたいことはわかる。


 それでこそプロのエッチな漫画家だな! って気もするけどさ。


 女性としてどうなんだ?


 などと思っていると、東堂さんはなぜか、クローゼットの扉を開けた。


 正面に見えた可愛らしい服、えっちな下着。


「ちょっ​──!!」


 俺は慌てて視線をそらした。


 体ごと後ろを向いて、東堂さんに背を向ける。


「ん~……、どこにしまったかなー? こっちはえっちなパンツでしょ? こっちは可愛いブラだから、えーっと……」


 なにかを探しているような独り言が聞こえるが、色々とやばくないか?


 相変わらず無防備過ぎるだろ。


 ここにいるのが俺じゃなくて普通の男だったら、とっくに限界突破してるぞ?


 これで俺が後ろから力いっぱい抱きしめたらどうするつもりなんだ?


 などと思っていると、背後から肩をトントンとつつかれた。


「はい、これ。フリーサイズだから、森戸でも着れるはず」


「ん? これって……」


 東堂さんが渡してくれたのは、執事が着るような燕尾服。


 キレイに折り畳まれた服の上には、白い手袋とネクタイまである。


「漫画の資料に買ったんだけど、あたしが着るにはおっきいからね。……あと、これも」


 頬を赤く染めながら、東堂さんが黒い布を手渡してくれる。


 大きく空いた穴は胴体を入れる部分で、二股に足を出す部分があって……。


「男物のパンツ……」


 ボクサータイプのピッタリ履けるヤツですね。


 どうしてそんな物が東堂さんの家に?


「しっ、資料だからね!? 変な勘違いはしないでね!?」


「あ、ああ、うん。わかってるよ。大丈夫だから」


 すこしだけ色褪せているようにも見えるけど、参考資料として見たときに洗ったりしたのかな。


 防犯で男物の下着を干す女性もいるって聞くし、そっちかも。


 そう思いながらパンツを受け取り、服の間に挟んで隠す。


 そうしていると、東堂さんが嬉しそうに笑って見せた。


「えっとさ。燕尾服が嫌だったら、あたしのパジャマとかワンピースとかも貸せるけど、どっちがいい? 寝心地はパジャマが1番かも?」


「……執事服でお願いします」


 俺が東堂さんのパジャマを着て寝るとか、どう考えても犯罪でしょ。


 絵面は最悪。

 俺が変な趣味に目覚めたらどうするんだよ、って話だ。


 藤堂さんが、ハッと視線をあげて、俺の体をじっくりと眺める。


「いいかも……」


 胸の前で腕を組み、小さく頷いた。


 彼女の瞳が、らんらんと輝いて見える。


「可愛いパジャマ姿の男のに縛られて喉の奥……、いいかも……」


 なんだろう。急に寒気が……。


 このままここにいたらダメな気がする。


「そっ、それじゃあ、お風呂をお借りします!」


 俺は勢いよく頭を下げて、風呂場に向かって逃げ出した。


 そんな俺を呼び止めるように、背後から東堂さんの声がする。


「いま着てる服はそのまま洗濯機ね! 乾燥機もあるから、帰るまでには乾くっしょ!」


「あー、うん。了解」


 どうやら、泊めてくれるだけじゃなくて、洗濯までしてくれるらしい。


 美人で、優しくて、すごくえっちな漫画が描ける。


 おっきなイチモツランド先生って、本当に素敵な女性だよな。


「しっ、下着も一緒に洗濯機でいいから……」


 顔を真っ赤にするほど恥ずかしいのなら、わざわざ言わなくてもいいのに。


 そうは思うけど、そこが彼女のいいところだよな。


「わかったよ。ありがとう」


 東堂さんの方に視線だけを向けながら、俺は、お風呂場のドアをガチャリと開けた。



 脱衣所で服を脱いで、指示された通りに洗濯機の蓋を開ける。


「いや、ちょっ――」


 大きく目を見開いて、慌てて顔を背けた。


 洗濯機の中に、東堂さんの服が入っているんだが!?


 と言うか、一番上にあるのって、下着だよな……。


 直前まで履いていて、洗濯前のやつ……。


「いや、大丈夫。洗濯機の中は見なかった。うん」


 そう自分に言い聞かせて、脱いだ服を突っ込んでいく。


 後ろ髪引かれる思いに蓋をして、断腸の思いでお風呂場へと足を踏み入れる。


(なんで? どうして? 同級生のパンツがあったら、手を伸ばすよね!? 脅して縛って貰う計画が……)


 どこからか、そんな幻聴が聞こえた気がした。


 魅力的な下着を見てしまったとは言え、さすがに動揺し過ぎだな。


 そう思いながら深呼吸をして、俺はドキドキと脈打つ心臓を落ち着けた。

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