第5話 魅力的過ぎません!?

「たっ、ただいま」


「うん。おかえり――い゛!?」


 風呂場から出てきた東堂さんを見て変な声が漏れた。


 火照った頬。濡れた髪。首に下がるタオル。


 そこまでは大丈夫。

 予想出来た範囲だから問題ない。


 セクシーで魅力的だなー、って思うくらいだ。


 だけど、


「その服は?」


「これは……、寝る前に、着るやつ」


「……そうなんだ」


 肩はズレ落ちてしまいそうな細いヒモで、股下は有り得ないほど短い。


 胸から上を隠す物は、そのヒモだけ。


 太ももは半分以上出ている。

 足はもちろん素足だ。


 詳しくないけど、シースルーのネグリジェってやつじゃないですかね!?


「なっ、なによ? なにかおかしい?」


 いや、すべてがおかしいよな?

 すくなくとも、恋人でもない異性に見せていい姿じゃない。


 下着がうっすら見えてるからな!?

 股下とか、本当にギリギリだからな!?


 ちょっとでも動くと、パンツが普通に見えるぞ! マジで!


 なんて、直接言えたらいいんだけど……、


「見慣れない服だなー、って思って」


 あははー、と笑って言葉を濁した。

 口に出せるのはこれが限界。


 これでどうにか気付いてください! じゃないと、俺の理性が!!


 なんて思いは、東堂さんには届かなかったらしい。


 彼女はえっちな服を見せ付けるように胸を張って、その場でゆっくりと回って見せた。


「涼しいからお気に入りなの。いいっしょ?」


「……うん」


 ステキな笑顔で楽しそうに言われたら、ダメだ、なんて言えないよな。


 早々に話題を変えて、出来るだけ意識しないようにしよう!

 じゃないと、理性が崩壊する!


「それでなんだけど。進捗見て貰ってもいい?」


 俺がそう言うと、東堂さんの笑顔が少しだけ曇った。


 え!? なにか間違えた!?

 なんで傷付いたような顔してんの!?


 もっと服を褒めるべきだったとか、そういうこと!?


 などと思っていた時、ふと東堂さんの目が輝いた。

 不機嫌そうな顔が嘘だったかのように、嬉しそうに微笑んでいる。


「自信ありってことでいいんだよね? せっかくだから、そっちの画面で見るね」


 東堂さんはそう言いながら、ゆっくりと近付いてくる。


 俺の隣に立って机に手を付き、前屈みに体を倒した。


「描きかけの物も含めて、順番に全部見せて。いい?」


「う、うん」


 一応返事はしたけど、言葉の半分も理解出来てない。


 隣からシャンプーの香りがする。


 美味しそうな二の腕と肩が目の前にある。


 お尻を突き出しているような体制だから、スカートの丈がほんとにやばい!


「ん? どうしたのよ? 画面の切り替えとかやってくんない?」


「う、うん。ごめんね」


 慌てて手を伸ばそうとしたが、マウスは東堂さんの胸の下にある。


 机についた手。

 肌色が透けるお腹。

 薄い生地に守られた胸。


 その3つの隙間に手を入れて、俺はどうにか画面を見詰めた。


「顔が赤いわね。なにかあった?」


「いっ、いや、なんにもないよ。うん」


 東堂さんの手に触れるのはいい。


 お腹もギリギリだけど、謝れば許して貰えると思う。


 だけど、胸だけは絶対にダメだ。


 ちょっとでも気を抜くと触れてしまいそうになるが、それだけは何としてでも回避しないとやばい!



 そう思いながら、手に触れること11回。


 お腹にふれること4回。


「うん。すべて合格ね。すっごく助かったわ!」


 東堂さんは嬉しそうに笑って、俺の肩に手を置いてくれた。


 東堂さんの太ももが俺の足にくっつくハプニングもあったが、どうにか耐えきった。


「御礼になにかして欲しいことってない?」


「……いっ、いや、特には」


「そう……」


 東堂さんは一瞬だけ寂しそうな顔をして、自分の席に戻っていく。


「ここからが佳境だから。えっちなの、どんどん送るわね!」


 その宣言通り、原稿は確かに過激になっていった。


 だけど、いまの東堂さんの姿には遠く及ばないんだよな。


 そのおかげもあってか、過激な内容を気にせず絵に集中出来たのは良かったと思う。


 そうして俺たちは、着実に原稿を仕上げていった。

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