第2話
「昨日は結構な数の名所を回ったがやぁ、まだ行ってねえ名所ってあるかのぉ? ヴァニー」
ヴァニーガールはなにもないところから、ポンッとマンカイハナミ王国の地図を出した。それを宙へ広げる。
「そうね~。行っていない名所は・・・。あと七ヶ所ってところね」
「まだ七ヶ所もあるのかやぁ。昼飯を食ったあとに、のんびり回っていくかなぁ」
そんな会話をしているさなか、開けている窓から桜の花弁と共に、キング・アサシンが勢いよく入ってきた。
「おぉ? もう散歩は終わったのかやぁ? キングよ」
ピノは息子の戻り方に驚きもしなかったが、彼が両腕に抱えている気を失った女の子には、少し目を見開いた。
「おいおい。誰ぞよ? そいつぁ」
「知らない。マフィアの組員に連れていかれそうになっていたから、助けたんだ。でも気を失って・・・。そのまま放っておくのも悪いし、連れてきた」
「はあ。まったくヌシは、無条件で人を助けるのが好きだのぉ。しかも、家族で旅行中にそれをするかや。得にならない人助けは止めろと、何回言えば理解するんだかなぁ?」
キングは母親の嫌味を無視して、女の子を自分が使用しているベッドに置いた。
キング・アサシン。年齢は9歳。コロし屋暗殺のピノと戦闘種族の亜人ライオヒューンのヒャクの間に生まれた一人息子。
顔立ちと特殊能力は母親似で、ライオンの鬣(たてがみ)のような髪の毛と身体能力の高さは父親似である。
服装はキャラクターの描かれたシャツを好み、もっぱら半ズボンを穿く。歳のせいか、オシャレに気を遣ったりはしない。
まだ子供なのだが、ピノの英才教育と戦闘種族の遺伝子で、高い戦闘能力を持っている。
ヴァニーガールが椅子から立ち上がって、眼帯の女の子の顔を覗き込む。
「あら。可愛い顔をした女の子ね。歳はキングちゃんと同じかしら」
「ヴァニー。変なことしたら承知しないぞ」
「え~。ダメなの?」
「うん。ダメ」
「うふふ。分かったわ。それはそうと、キングちゃん。この子、眼帯で隠している右目になにかあるわよ。魔力を感じるわ」
「えっ。魔力を?」
「ええ。おそらく、それが理由で悪い人間に連れ去られそうだったんじゃないかしら。まあ。本人に聞けば早いのだけれど」
ヴァニーガールは、眼帯の女の子の額を人差し指でピンッと弾いた。すると、女の子は『うぅ・・・』と呻きながら、ゆっくりと目を覚ました。
「おはよう。気分はどう?」
ヴァニーガールにそう尋ねられた女の子は、ガバッと勢いよく起きて叫ぶ。
「だ、誰っ!? ここはどこっ!?」
目を覚ました直後に勢いよく起きたため、少し眩暈(めまい)がした。額を押さえて少し俯く。
ヴァニーガールが彼女の肩に優しく触れる。
「恐がらないで。私達は敵じゃないわ。落ち着いて、ね?」
女の子は顔を上げて、ジッとヴァニーガールを見つめる。
ヴァニーガールは彼女の警戒心を和らげるために、優しい面持ちで見つめ返していた。その効果で女の子の警戒心は薄れていき、落ち着いてきた。
眼帯の女の子はミキと言い、マンカイハナミ王国から南に10キロ辺りにあるドゴン村の子供であるそうだ。
年齢はキングと同じ九つ。鼻と頬に薄いそばかすがあり、整えられた可愛らしい顔立ちをしている。
キングが自分含め母親と召使いのフルネームを明かした。ミキはあんぐりと口を開けたまま、ピノを見つめる。
「ピ、ピノ・アサシンって・・・。あの、ザ・ワールド帝国を滅ぼした伝説のコロし屋集団のリーダー・・・。本当にいたんだ・・・」
そう呟いて、次にキングに視線を向ける。
「あなたは、あのピノの子供なの・・・?」
「うん。そうだよ」
「・・・じゃあ、あなたもコロし屋っていう特殊人間なの?」
「うん。覚えてないかもしれないけど、君が男達に連れ去られそうになっていたところを助けたのも、気を失った君をここへ連れてきたのも僕だ」
「・・・そういえば、あのとき上から誰かが下りてきたような。あれはあなただったのね。あれ? どうして私、気を失ったんだっけ? なにか、凄く恐いものを見たような」
ミキは思い出そうと頑張ったが、無理だったので諦めた。
「それはそうと、キングくん、だっけ? 助けてくれてありがとう。でも、どうして見ず知らずの私を助けてくれたの?」
「偶然あそこを通りかかって目撃したのもあるけど、一番は君が助けてって言っていたから」
キングの返答に、ピノはやれやれといった感じでため息をついて、立ち上がる。
「おうおう。もう目は覚めたんだろうがや。ヌシぁはとっとと出てけや」
彼女は脅すように、ドシドシと乱暴に歩いて、ミキの方へ歩み寄る。怯えるミキの前を、ヴァニーガールがそっと立つ。
「ピノちゃん。女の子を脅したらダメよ」
彼女がそう言うと、ピノは影の中に飲み込まれて、いなくなった。
「えっ!? えぇえ!? き、消えたっ!?」
ミキは驚きの声を上げて、ヴァニーガールを見つめる。
彼女はクスクス笑う。
「消えたんじゃないわ。私の影の中に隠したのよ。隠蔽(いんぺい)魔法の一つよ。他にも、こんなこともできちゃう」
次に、ヴァニーガールは皮か布か分からない物体を、なにもないところから出現させ、それを頭から被った。すると、その物体が彼女をギチギチに締めつけていく。体は縮んでいき、顔と服装の輪郭がだんだんと表れてきた。
「これが、変装魔法。どう?」
ヴァニーガールの姿形が、ミキそのものとなった。顔立ちや髪型、体格、それどころか服装や声まで同じである。
もう1人の自分を前に、ミキは驚きで言葉が出ず、パクパクと魚のように口を動かすだけであった。
偽物のミキは、自分の頭皮を引っ張って、皮か布か分からない物体を脱いだ。中からヴァニーガールが、アハハと笑いながら出てきた。物体はフワッと宙へ浮かぶと、パッと消えてしまった。
「面白い反応ね。次は、ワープでもしてみる? もう一度行きたいと思った名所に、ホールα(アルファ)をつけているから、ここにホールβ(ベータ)を繋げれば、一瞬で行けるわよ?」
その誘いに、ミキは目を伏せた。
「・・・外には出たくない。奴等に見つかるから」
「奴等って、君を連れ去ろうとした人達のこと?」
キングの問いに、ミキはコクリと頷く。
次に彼はミキに、なぜマフィアの人間に狙われているのかを尋ねた。
ミキは右目を隠している眼帯を外した。
「これが理由よ」
彼女の右目は、普通ではなかった。瞳孔がなく、代わりに二つの魔法陣が外側と内側に分かれてグルグルと歯車のように回っていた。
ヴァニーガールが興味を示して、覗き込むように見る。
「魔眼ね。しかも、禁術である黄泉替えの魔眼」
「黄泉替えの魔眼?」
「人工魔眼の類で、蘇生の系統に属するわ。魔術で作った眼球に蘇らしたい人間のDNAと蘇生の意味を持つ魔法文字を込めて、それを同じ性別で、近い体格と年齢の他者に移植させる。適合した場合、魔眼に込められたDNAと魔法文字の効果により、他者の体は侵食され、最後には乗っ取られるわ」
いずれ自分の体が乗っ取られると聞いて、ミキの顔はサアアと青くなった。どうやら彼女は黄泉替えの魔眼について、なにも知らないようだ。
「つまり、この魔眼を媒体に、他人の肉体を乗っ取って、特定の人間を蘇らせるということ?」
「その通りよ。キングちゃん」
ヴァニーガールはそう言って、キングの頭を撫でる。そのあと、ミキに黄泉替えの魔眼を移植された経緯(いきさつ)を尋ねる。
彼女は静かに話し始める。
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