森の遭遇者
それから二週間、ひたすら特訓の日々だったのは言うまでもない。
あんなにひどい筋肉痛は人生初だよ。くしゃみするのも辛かった。
筋トレもそうだが、特に魔法の特訓は"疲労感"が凄いのだ。
身体が痛いしダルいしの二重苦。
よく頑張った私。エライ。
どんなことをやっていたのかというと――――
(ミキ)
前方を歩いていたエルが口元に人差し指を当てている(静かにのポーズ)。
何か見つけたようだ。
足音を立てないように、ゆっくりとエルに近づく。
(どうしたの)
(何か近づいてくる)
耳に意識を集中させる。
聴覚強化。
足音が聞こえる。
しかもこれは……動物ではなく人か?
「少し下がろう」
言われるがまま後方へ。
正体不明の人は、聴覚強化を使用しなくても分かるほど近づいてきた。
「来るよ」
腰に手を持っていき、戦闘態勢に入る。
さぁ、どんなやつでもかかってこい。
「ぐ、ここらへん葉っぱがすごいな……」
ガサガサガサ。
「んんんん」
ガサガサガサ。
「ぶは!やっと抜けた!……ん?」
現れたのは20代前半くらいの男だった。
「「………………」」
「………………」
「あの」
「あー待って待って。怪しくないから。俺ちゃんと許可もらってるから。ほらコレ。
男はポケットから折りたたまれた紙を取り出した。
「私たちも持ってます」
エルもバッグから許可証を取り出す。
「ほー。じゃあ君たちが村長の言ってた女の子たちか。思ってたよりも若い……どころかまだ子供だな。うん」
「ではあなたはは虫類専門の業者の方ですか?」
「合っているよ。合ってはいるが……。その呼び方ダサいから、俺のことはぜひドラゴンスレイヤーと呼んでくれ!」
「どらごんすれいやー?」
思わず口に出してしまった。
腕輪の翻訳装置を切ってエルに話しかける。
「ドラゴンスレイヤーなんてかっこいい職業まであるの」
「ないよ」
首を振る。
「飛行型は虫類はいるけど、最大でも5メートルくらいだったかな? それも蛇に羽が生えたみたいな細いやつ。火も吐かないよ。ミキが想像してるようなゴリゴリファンタジー特大ドラゴンは、天球でもファンタジーだね」
「……じゃあこの人は?」
「自称だね」
自称社会人が自称霊媒師と同じくらい胡散臭いと思ったことはあるが、自称ドラゴンスレイヤーは子供たちの夢を壊しかねないので名乗らないでほしい。
私のような子供のためにも。
「あー少女たち? 何を話しているのかは分からないけど、そんな目でこっちを見ないで? そのくらいの年頃の女の子に軽蔑されるとかなり傷つくから。ドラゴンスレイヤーは肩書きみたいなものだから。普段は主に大型害獣を駆除してるお兄さんだから。あの、ちゃんと自己紹介します。名前はレック・シャーウス。お好きな呼び方でどうぞ……」
みるみる弱っていった。
可哀想(ちょっと面白いけど)。
「私はエリュシオン・スカイノート。こちらの彼女はリクナミキです。政府に届いた依頼で、山の調査をしてます。シャーウスさんはお仕事の調子どうですか?」
「現状はまだなんとも。――少女たち、一旦俺の拠点まで来ないか? 同じ山を調査してるなら、情報共有した方が効率的だと思うんだが。俺みたいな怪しい大人についていきたくないなら、その、うん、いいんだけど……」
「どうするの?」
「情報共有はありがたいね。それにミキもそろそろ休憩したいんじゃない?」
「うん(食い気味)」
「なら行こう」
「決まったかな?」
「お言葉に甘えさせて頂きます」
「よし! こっちだよ」
木々の中に突然現れた広場のような場所に、拠点はあった。
テントの前にはたき火をした形跡がある。
シャーウスさんはテントの中から2つの折りたたみ椅子を、脇に抱えて出てきた。
「椅子は2つしかないんだ。少女たちで使ってくれ」
そう言って私たちを座らせると、再びテントに戻る。
「飯ある? カップ麺食べる?」
持ってきたおにぎりはあったが、山中でカップ麺を食べるという行為に興味があったので頂くことにした。
彼が枝を触ると、一瞬で火があがる。
七
アルコールランプの三脚みたいな器材の上にやかんを置いてお湯を沸かす。
「それにしても、政府はだいぶ切羽詰まってそうだな。君たちのような子供まで駆り出されているとは。……地球が破壊されれば無理もないな。本部は今シェルターにかかりきりって話だし、仕方と言えば仕方ないのか」
一息つくと、シャーウスさんは話を始めた。
どうやら一般人にも地球の情報は伝わっているらしい。
「確か全地球人を収容できる広さにするって発表はあったが、全員は無理だろうとも言われてたな。よくて7割とか。実際はどうだったのやら。――たかだか一般市民の意見だ。気を悪くしないでくれよ? 俺なんか、地球なんて観測はできても実在すんのかどうか疑ってからな。未知の惑星の未知の人類を救いに行くなんざ、とてもじゃないが考えられなかった。一人でも救ったのなら、十分凄いと思ってるよ」
やはりそうか。
当然と言えば当然だ。
天球人にとっての地球は、特定の鏡でのみ観測できる非存在惑星だったのだから。
そして何より、地球を非存在たらしめているのがこの空である。
天球から観測できる星は衛星である「レネス」、恒星である「ユレイ」。
この2つのみなのだ。
どれだけ高性能な望遠鏡でも、地球どころか他の惑星を見つけることができないと博士は言っていた。
だから天球には星座って文化がないのサ。とも。
「そう言っていただけると、私の上司も安心すると思います」
エルが頭を下げたので私も合わせた。
――――いいや、ありがとう。優しいねミキ君は。
博士のそんな言葉を出した。
エルも安心しているのだろうか?
彼女の優しい笑顔から、本心を読み取ることはできなかった。
「お礼なんていいよ。ただの雑談さ。雑談ついでだけど、リクナミキさんは、サンガかキラコ辺りから来たの?」
「サン……キラ……?」
国の名前だろうか?
マズイことに聞いたことない単語である。どうしよう……。
「ミキはキラコの方ですね。こっちに来てからまだ日が浅いので、いろいろ大変なんです」
「やっぱりか。道理で珍しい名前なワケだ。言葉とかはどうなんだ?」
「あの腕輪が翻訳してくれてます」
「ほー。政府はいろいろ作ってるんだなぁ」
エルがフォローしてくれた。助かった。
「俺の言ってることは伝わってるけど、喋るのは無理なのか? スカイノートさんの方にも
「ミキ、なんか喋ってみたら?」
「こんにちは」
「おお!」
「行ったことを翻訳して、代わりに腕輪が喋ってくれます」
「便利だなぁ。俺も別の大陸行くときソレ欲しい」
ま、別の大陸から依頼なんて来ないけどね。
そんな自虐が聞こえた。
「依頼と言えば、シャーウスさんはこの仕事を始めて長いんですか?」
「ん~6年くらいかな? 最初のうちは放浪しながら村とか集落を回って仕事がないか聞き回ってたんだが、いかんせん効率が悪い。街に出た時にホームページを作ってもらって、今みたいにスタイルになった。そっからはもううなぎ登り!……ってワケにゃあいかないが、少なくともパン耳生活から抜け出せたな」
どの世界でもフリーランスは過酷らしい。
「HPにもドラゴンスレイヤーって書いてあるんですか?」
「うおおい!? 恐ろしいことを聞くんだなスカイノートさん……。書いてないよ。ふつうに害獣駆除お任せくださいとかだよ」
「あんなに堂々と名乗ってたのに……」
「待ってくれ。そりゃあ君たちくらいの女の子に罵倒されるのが好きな人種はいるだろうが、俺はそういうタイプじゃない。心に来るから。割とマジで」
自業自得なのでは?と心の中でツッコむ。
「バカにしたくなる気持ちは分かるけど! ちゃんと仕事してるから! ほらコレ! 前に15m越えのヤグイオオトカゲを倒した時の写真!」
彼の携帯には、見たこともない特大のトカゲの姿が写っていた。
「でっか……」
「このサイズは私も初めて見た」
「だろ!?」
渾身のドヤ顔である。
実力は確かなようだ。
「これぞドラゴンスレイヤーの実力ってモンよ!」
「トカゲスレイヤーの方がいいのでは?」
「うわああああああああん!!!! いいじゃねぇか! 俺だってSランカーみたいなカッコイイあだ名が欲しかったんだよおおおお」
エルの会心の一撃が炸裂してしまった。
大の大人が涙目になっている。
「その年で政府に所属してる君たちが羨ましいよ……。Sランクまで上がれば一生遊んで暮らせる給料が……。いや今のは忘れてくれ。大人の汚い部分が出た」
「仕事をする以上対価をもらうのは当然ですよ。なんにも汚くないです」
「はは、そりゃそうだ。こりゃ一本取られた」
仕事上、人と関わることの多いエルはこういった会話に慣れているようだ。人との距離が縮められない私とは正反対。
「――さて、仕事の話が出たし、そろそろお互いの仕事をしようか」
「はい」
さきほどまでの穏やかさから一変、張り詰めた空気へ。
「俺の受けた依頼は生態系の調査、および生態系を著しく害する生物がいた場合はその駆除。そちらは?」
「不審者の目撃情報があったので、山に異常がないか調査です」
「調査、ね。深くは聞かないよ。いろいろ言えないこともあるだろうし。……不審者か。人為的に何かされたような痕跡は見てないな」
「私たちも特に変わった生き物は見てないですね」
ここで私はあることを思い出した。
「……そもそも生き物をほとんど見てないような」
「あ、確かに」
「やっぱりか」
山に入ってから、鳥の声すら1、2回しか聞いていない。やけに静かだとは思っていた。
もしもそれが生態系の異常ならば。
「現在地点を表だとするなら裏、山の反対側の方に大量のイノシシの足跡があった。クマやネズミのものも。この現象を自然に考えれば」
「何かから逃げた」
「ああ、この山に何かあるのは間違いない」
「村側に逃げなかったのには何か理由があるんでしょうか?」
会話に参加する。
「村周りには動物除けの罠もあるし、何より障壁もある。だから山側に逃げざるを得なかったのだろう」
障壁とは何か問おうとしたが、村を出る際に妙な空気の境目があったのを思い出した。きっとアレのことだろう。
「俺は麓から山をぐるぐる回りながら調べていた。ここからは頂上を目指してまた回るつもりだが、少女たちはどうする?」
「私たちはここから直接頂上へ向かいます」
「まず上からか。もし頂上で何か発見したら教えて欲しいけど……頂上まで行ったら隣山に行ったりする?」
「いえ、少なくとも今日はここを調べます。報告に戻ってきますよ」
「そうか。助かるよ」
今後の方針は決まったようだ。
「沸いたかな」
シャーウスさんは素手でやかんを掴むと、カップ麺に湯を注ぐ。
3分待ちながら少しお喋りした。
私の武器についても。
完成したラーメンの味は醤油味っぽかった(入っていた肉はなんの生物なのだろうか)。
ご馳走様です。
「この山には間違いなく何かある」
休憩を終えたのち、再び登山を開始した私たち。
前方を歩くエルはシャーウスさんの言葉を
「行きでミキが言ってたような、山にトカゲを放った説も有り得るかもね。遺伝子組み換えトカゲを実験で持ってきたとか」
「兵器として使えるの?」
「鱗に硬化魔法がかかってたり、口から火を吐いたり」
「生物兵器だね」
「ウイルスではないけどね。生物の兵器ではある」
恐ろしい話だが、本当にあるらしい。
魔法で視覚を共有したヘビを敵陣に送り込んで盗視とか。
動物型の式神みたいだ。
「ちょっと待って。じゃあもしその実験動物が見つかった場合は?」
「麻酔持ってないからパワーで黙らせるしかないなぁ」
危険度の少ない仕事とは。
今回は戦闘無しのはずじゃないの?
対人戦より先に動物と戦って慣れろということかな???
「ミキは即撤退してね。危ないから」
「超逃げるから安心してぶん殴っててください」
具体的には100m走で19秒から15秒まで縮めた。
小学生でもできる筋力増強魔法を、中学生の私ができないはずないのだ。ガハハハハ。
「そういえばさっき話してたサンガとキラコって何? 国の名前?」
「ごめん、ソレ話してなかった。サンガとキラコは大陸名。天球十四大陸のうち、この二つには日本人みたいな名前の人がいる国があるんだ。だから出身を聞かれたら適当にキラコの方だって言っといて」
「へー! あなたもキラコ出身なんだ! どの辺り?」と聞かれたら詰みそうだな。北の方の村とかでいいか。
「もう一個、障壁についてもご教授を願います」
「結界、バリアの壁バージョン。シェルターから出て、しばらくしたら荒野から突然景色が森に変わったでしょ? アレは外界遮断の結界だけど、村のは動物除けの魔法壁ってこと」
「村から出るとき、一瞬空気が変わったヤツがそう?」
「! 気づいてたの?」
「え、うん」
「見えない結界系は通過しても気づかない人が多いんだよ。感知能力も私譲りなのかな……」
私とエルとの魔法的な繋がりは、依然調査中であった。
博士は他のことにもいろいろと忙しいので、なかなか捗らないとかなんとか。
ちなみに特訓開始から一週間後の検査以降、博士には会っていない。今回の仕事に関してもメールが送られてきたのみで、詳しい説明はエルが口頭で説明してくれたのだ。
そろそろ何か分かればいいのだが。
「感知って魔法というより第六感の延長線だから、人に教えるものじゃないんだよね。嫌なものに近づくと肌がビリビリする……みたいな」
「敵の気配が分かったりするアレか」
「アニメでよくある殺気で攻撃に気付くの、できるようになるよ」
「高めたい」
熱いな。
楽しみだ。
「道だ」
草の中を抜けたり木が服に引っかかったりと、整備されてない道の恐ろしさは嫌というほど味わった。
唯一の救いは虫すらもいなかったこと。
「ここからは道なりに行こう」
「待ってました」
ハードモードからイージーモードに戻れる喜び。山頂は未だに遠いが、それでもマシになった。
体力は持ちそうだ。
これで私の獲物が重かったらと考えるとゾッとする。昔の日本人はこんなものを持ち歩いていたのだから、相当体力があったのだろう。
しかしここは魔法の世界。私のような子供でも楽に持ち運べる。
便利すぎる。
もっとも、今回はコイツを使わないことを祈りたい。
「時間経ってるから痕跡とか何もないね。あるとしたらやっぱり頂上付近なのかな」
エルが飛べるのにも関わらず、わざわざ徒歩移動しているのには理由がある。
緊急時以外の過度な跳躍、飛行は禁止されているのだ。飛行機やヘリコプター、鳥に衝突する恐れがある為だそう。
鳥やヘリは分かるが、高度的に飛行機と衝突することなんてあるのだろうか……。
このように魔法にも制約がある。規則を守って使用しなければ捕まってしまう。
そういうところは地球も天球でも変わらないな。
「あとどれくらいで着く?」
「このペースなら3時間くらい」
「ええ……」
「ほら行くよ」
「はぁい……」
しかめっ面をしながら足を進める。
1時間半経ったところで、おにぎり休憩をとった。最後の一個は頂上で食べるつもりで残しておく。
生き物も人の痕跡も見つからない、ただの登山になりつつある。
ふわふわ山ガール服着てくればよかったわ。
「暑い……」
「…………」
長袖長ズボンのせいで暑い。直射日光は葉で遮られているとはいえ、気温もある。
地球の猛暑には及ばないものの、やはり暑いものは暑い!
暑いのも寒いのもキライ。ゆとりガールなのだ。
――――そんな私の気持ちを察してくれたのか、そよ風が吹いた。
「はー涼しい」
「……暑い」
ずっと無言だったエルも暑さを感じていたらしい。前方から小声で愚痴が聞こえた。
「天球にも四季はあるの?」
暇を持て余し問いかける。しかし、返答の声がやけに重たい。
「大陸や地域によるけど、四季はある。だけどこれは……」
何かおかしなことを訊いてしまったのだろうか?急に不安になってきた。
だが違った。
「暑すぎる」
エルはそう言った。
暑すぎる?
異常気象ということか?確かに麓の気温と比べたら暑いけれど……。
――否、違う。
富士山を見れば一目瞭然じゃないか。山登りしたことないから気付くのが遅れた。圧倒的な経験不足を実感する。
山は山頂に近づくほど気温が下がる。下がらなければいけない。
地球の法則に則るのであれば、高度が上がれば気温は下がる。
そういうもののはずだ。
であれば、この暑さは……?
「ねぇミキ、さっき涼しいって言わなかった?」
「うん」
「一体何が涼しいと感じたの?」
「何って……風が」
「風?」
「今も吹いてるし」
「今も?」
何か、何かがおかしい。会話がちぐはぐだ。
だってそのリアクションじゃまるで――
「風なんて吹いてない。私が発生させてる訳でもない。ミキ、もしかして」
「使ってないよ! 属性魔法は使用禁止でしょ!」
「じゃあその風は……? …………ッ!?」
こちらを向いていたエルが慌てて前方、頂上方面へ振り返る。
「風が」
そよ風だった風が、やや強くなった。
ザザ、ザザザ
風は強くなる。頂上方面から迫りくるように。
ザザザザザザザザ
「ミキごめん!」
「きゃあ!?」
言葉を発するより早く、エルは私をお姫様抱っこして跳ね上がった。
咄嗟のことすぎて女子みたいな声が出た(女子です)。
「え、何? 何があ」
森のなびきが見える。それは比喩ではなく、私たちに迫っていた。
「ナニアレ!? 風!?」
「違う! 多分アレは……」
正体不明のナニかは加速しているが、エルの速度も上がっている。このまま行けば――。
「クソッ! 追いつかれる!」
「なんで!?」
「あのなびきは後追いだ! 本体はもう真後ろに来てる!」
「うそぉ!?」
エルは右手で私の
ほぼ宙ぶらりんである。
ああああああ足がつかない!なんでこんなことするんだ!
「ひゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「気を付け!」
ピシィ!
反射的に気を付けをする。
「着地自分でなんとかして!」
「ぁぁぁぁぁぁ―――え?」
投げられた。
一直線に。
槍のように。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁあああああああああああ!!!!!!!!!???????????」
顔面が潰れている気がする。スカイダイビングしてる人の顔肉がブルブルする現象だ。
いや。いやいやいやいやいやいや!?
どうするの!?どうしろと!?
既に減速して落ち始めている。
どうやって着地する!?パラシュートなんて無いぞ!
どどどどどどどうしよう!
そうこうしてたらもう木が目前に!?
死にたくねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!
硬化。
目を閉じて丸くなり、全身を硬化させた。
本当はボールのように跳ねることができればよかったのだが、
まぁそもそも着地しなかったので問題なかった。
木に引っかかって、干されている布団のように無様な格好で停止したのだ。
やなかんじーと吹き飛ばされたあとのロケット団みたい。
最近のロケット団は吹き飛ばないんだっけ?
まずは地面に下りよう。この高さなら。
「ホッ」
着地完了。
5mくらいの高さであれば着地できる(怖いけど)。
エルはきっと大丈夫だろう。私なんかが心配する方が失礼ってものだ。彼女の強さは本物なのだから。
「ふぅ」
深呼吸して一度落ち着こう。
現在地の把握とこれから何をすべきかも考えなくては。
………………。
暑くね?
山を下ったはずなのに暑くね?
なんならさっきよりも暑い?
いや、麓の方が暑いのは合っているんだけど。
私たちが村から出て山登りをしているうちにここまで気温が上昇したのだろうか。
今下りたばかりの木を再び登る。高いところの方が現状が把握しやすい。
村の姿は見えない。そんなに道外れてたっけ……?
頂上側を見る。エルの姿も見えない。地上に降りて戦闘中かもしれない。
さて、3択。
①ここに留まる
②村に戻る
③少し時間を置いてから登り、エルと合流する
①は微妙だな。分断されてしまった以上、何もないこの場所でエルと合流するのは難しそうだ。
②はよい。エルと離れることと村が確認できないのは気になる。
③は……せっかく逃がしてもらったのに水の泡になりそう。
とりあえず②で行こう。
よし、もう一回着地を――。
バサバサ
む?
バサバサ
羽ばたきが聞こえる。鳥かな。
頂上方面から聞こえる。
そういえばシャーウスさんは無事だろうか?
巻き込まれていないといいが……。
合流したら鳥がいたことを報告しなくては。
バサバサバサバサ
しかも結構いる。群れかな。
ふと、音のする方を見やる。
しかし。
そこにいたのは鳥なんて生易しいものではなかった。
「――――は?」
黒い塊。空に黒い波が蠢いている。
私は自然と視覚強化を使っていた。
練習では失敗ばかりだったこの魔法も、一発で成功した。
本番に強い。
見えない方がよかった。
それに気付かれる前に地上へと降り、草の塊の中に身体を突っ込んだ。
身体が震えている。気温は高いはずなのに、身体の震えは止まらない。
「あ、アレは、なんで、いないんじゃ」
飛行型は虫類はいるけど――――。
エルはそう言っていた。言っていたはずだった。
じゃあ私の見たアレはなんだ。
私の見たもの、それは。
体長5mはゆうに超えているであろうワイバーン種の、空を覆いつくすほどの群れ。
そして、群れの中心。
そいつは、その巨体は悠々と羽ばたいている。
私だって見てみたいとは思っていたさ。
憧れだった。
こんな形で出会っていなければ目を輝かせていただろう。
ドラゴン。
今私が最も会いたくない生物が、その空にはいた。
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