道しるべと赤とんぼ
HaやCa
第1話
高校の帰りはいつも田んぼの脇を通る。稲刈りを終えた田んぼには、赤とんぼが飛んでいる。
羽を伸ばして悠然と飛ぶ姿は、とても自由で憧れに近いものがある。
あんなふうに飛べたら、勉強とか嫌なこととか恋とか全部忘れられると思った。
車の邪魔にならないように自転車をとめる。気持ちがおだやかになるまで休もう。
「おや、アンちゃん。休憩かい?」
「はい、なんか疲れちゃって」
「ふふ、思春期だからねえ。悩むこともあるだろうよ」
おばあさんはそう言い残して、孫に手を引かれて歩く。
あんなに小さい子でも、ちゃんと歩いているんだ。当たり前だけど、すごいと思う。
ポカリスエットをぐびっと飲み込む。蒸し暑い夏の終わりに飲むとなんか特別だ。
目を閉じてみると、すずむしの鳴いている声が聞こえてくる。
虫は嫌いで、近くで見るのもダメなくらいだけど、遠くから聞けば美しいと感じる。
何が違うのだろう。わたしが見る世界は、色眼鏡越しの世界なのだろうか。
しばらく休んで、わたしは自転車を押して歩いた。錆びかけのチェーン。
その音は苦しんではいなかった。反対に、山の稜線から延びる夕日をいっぱいに浴びて、喜んでいるようだった。
道を歩けば、軽トラの荷台に乗った柴犬が大きな欠伸をしている。
「よそ見してんじゃねーよ」
横を走り抜けた自転車に気を取られ、少し目をよそに向けて戻す。
わんちゃんはもう眠りこけていた。
沈みつつあるなか、夕日は最後にまた輝く。
急に着信が入りスマホを見ると、母からの連絡がいくつもあった。
早く帰らないと、みんな心配する。母さんも父さんもおとうとも。
夕ご飯を食べたら、悩んでることちゃんと相談しよう。最初は、数学で赤点を取ったことから。
でもやっぱり一番は、
「遅くなってごめんなさい。ただいま」
道しるべと赤とんぼ HaやCa @aiueoaiueo0098
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