上演合図は、そして響く。2

「ルールはとっても簡単でしょぉ?わからないなんて言うバカはいないわよねぇ??」


そういってひまりはニコニコと笑う。

その光景は異常で、決して笑えるような場面ではないのである。それでもひまりは、ニコニコと笑いながら言葉を続けていく。


「ここにいるのは名を轟かした天才ばかりだものぉ、理解が遅れるわけないわよねぇ!ふふ、それでねぇ、やっぱり勝った時の報酬って大事じゃなぁい?」

「・・・報酬・・?」

「そう!!やっぱり何か目的があるから頑張れるってものじゃぁない?こういう事って、それでねぇひまりも用意してみましたぁ!!」

「何を・・・?」


再びどこからか現れた二体のウサギは、二匹で一つのボードを持っておりひまりが「はいっ!」っという掛け声でくるりと裏返す。そこには大きく太い文字で一言「天才→凡才」と書かれていた。


「つ・ま・り!!皆様には!天才から凡才に成り下がるためのゲームを行っていただきまぁす!!!素敵でしょ?」

「凡才に成り下がる・・?どういう事・・?」

「そのままの意味よぉ?あなたたちが苦労してる、その天才的な能力を勝者にはひまりが消してあげるわぁ!!」

「そんなことできるんですか・・・?」


声を上げたのは、大神だった。

か細く消え入るような声ではあったもののその、言葉には期待が混じっているのがよくわかる。くるりと回転してひまりは大神の前に立つ。

そして、優しい声で「できるよぉ」っと笑って見せた。


「ひまりは神様だからねぇ、簡単簡単!皆様が苦しんだ、悩まされたその天才を、消して凡才に、普通の人間と何も変わらないようにしてあげるわぁ」

「勿論、勝てたらの話だけどねぇ?」


何がおかしいのかクスクスと笑いが止まらないらしく、ひまりはずっと笑い続けていた。しかし、それと同じくらい周りではざわざわと動揺が広がる。口々に「この才能が・・?」「これが消えるなら・・!」などと聞こえ、会場が一気に

不穏な空気に包まれる。


「秀先輩、やばくないっすか・・・?」

「あぁ・・周りはもうゲームをする気になってる・・」


隣を見ると、大神も少しばかりの期待を抱いているのか先ほどまでの目線ではなく先を見ていた。その光景が嫌に胸に刺さる。奥を見るとやはり東と内田は、静かに何も反応なく舞台を見据えていた。


「皆様がやる気を出してくれてうれしいわぁ!!さて、ルールをもう一度確認しましょぉ?」

「人狼は三人、第三陣営である妖狐も潜んでいるわぁ!そのなかから見事自身の陣営を勝利させるだけよぉ?簡単な話よねぇ、此処は死も生もあるハザマの歌劇場!噛まれたり吊るされたら本当の死が待っているから気を付けて頂戴?」

「初夜の行動は村人陣営のみにしておくわぁ!さぁ皆様第一夜目をはじめましょぉ!!」


高らかな宣言と共に、人形たちから再度賑やかな歓声があがる。

低いブザー音が聞こえたかと思うと、舞台上の幕が下がり始めた。集められた十五人は手拍子をすることはなく、ただただ舞台を見つめていた。


「・・・どう思うんですか?鶏」

「どうにもこうにも、コレは起こりうるべきことだった、それだけ」

「東はこのゲームに勝たなくてはいけません」

「ほう?」

「鶏、貴様を叩き潰してでも、このゲームで先輩のためにも勝たなくてはいけない」

「・・・やれるもんならやってみろよ、餓鬼」


その声もかき消されるように、いまだにブザー音は鳴りやまなかった。




ブザー音の後、舞台には幕が下り完全に静かになった劇場だけが残っていた。

整理すると、ここに集められたのは所謂”天才”ばかりのようで、己が知っているだけでもそれは確かな情報だと思った。

そして、その十五人で命をかけて人狼ゲームをしなくてはいけないこと。

それだけ、たったそれだけの情報だった。


「神戸君、それにユウ無事かな?」

「おー汐ちゃんこそ無事そうっすね?」

「遠足にでも来たみたいだな・・」

「あの・・どうしましょうか・・・?」


そう声を上げたのは色素の薄いピンクがかる紫の色をしたショートカットの少女だった。少しだけ襟の大きいセーラ服をかたどったその服の合間から、包帯やガーゼがまかれているのが見えとても印象的だった。何かにおびえているのだろう、上げている手は控えめで目が泳いでいた。それにこたえるように返事をしたのは、紺色のブレザーに身を包み、短めの髪は暗めのブラウンに染まっており、そこからのぞく双眼は暗い夜を思い出させるほどの深い青色を持つ少年だった。


「そうだね、じゃあとりあえず自己紹介なんてどうかな?」

「いいですねぇ!東は賛成ですよ!!」

「じゃあ僕からさせてもらうね?僕は、柊 静人ヒイラギセイト、由良塚の隣町って言えばわかるかな?六角の六花代学園中等部3年。趣味で写真を撮っているよ」


そう少年--柊 静人は言った。六角、ちょうど由良塚の1つ手前の駅に位置しており、噂では人と人ならざるものが共同生活してるとかいないとか、年中お祭り騒ぎみたいなものだとか、聞いたことがあった。

次に手を挙げたのは大神で、ゆっくりとした口調で自己紹介を済ます。


「えっと・・大神梢。がみじゃなくて、かみです。学校は、幾江中学校二年。趣味の範囲だけど・・・情報収集とか好きです」


大神の言う幾江、六角の一つ前に位置する駅であり海のそばにある町である。海が近いことから、夏場では海水浴をする若者や家族連れでにぎわうほか中心部では、閑静な街並みと涼しさから避暑地としても有名である。


「次は東っすよ!!東 由宇。由良塚第一中一年!東は、学問においては右に誰とも出ない天才だよ」

「お前な・・・」

「次は先輩とか自己紹介してみたらどうです?」

「えぇ・・」


その次に手を挙げたのは東だった。間髪入れずに自己紹介を済まし、話題を振る。神戸を見るその赤い目は面白いことを目の前にしたようにらんらんと光っている。

そういいながらも、いずれはしなくてはいけないことであった。

それならばと勢いに任せて、簡単に自己紹介をすることにした。本当に簡素に、手短に。


「神戸 秀。由良塚第一中、三年・・俺は凡人です」


ざわついたのが分かった。

この空間で、俺だけがなんの天才でもないのだから。

あのひまりとなのった少女の特典の対象外なのだ。わかってはいたが、あまりにも視線が痛く感じて、つい俯いてしまう。そんな神戸を隠すようにして、二兎が前に出て自己紹介を始める。


「さぁて次は、オレの番。二兎 俊。由良塚東中学二年、特技はゲーム!」

「もう、バカだと思われるわよ?私、周 小春アマネコハル、二兎と同じよ。読者モデルをしてるわ」


そう言って、二兎の後ろから顔出した少女―腰まで伸ばされた、赤髪をツインテールに結び、ツンとした顔は人形のように整っており髪と同色のまつ毛に縁どられた赤錆色の目は、宝石のように思える。服装は深緑のブレザーを着ており、短めのスカートが彼女の足をより長く見せた――周小春は呆れたように、自己紹介を終わらせた。

そのあとすぐだろう、誰かが笑いを吹き出すような声を出した。振り返るとそこには、真ん中分けにした前髪と尻尾髪は漆黒の黒に染まり体を揺らすたびに耳元に金色のピアスが後を追うように姿を見せる。眼にはそらを映したかのような水色の目を光らせた女性が立っていた。服装はシンプルでカッターシャツに簡易の上着、パンツスタイルとヒールであった。そこから歳は須磨と近いのだろうと察しがつく。


「いやぁ、ごめんね?ちょっと懐かしくなっちゃって、杜若 祐カキツバタ ヒロそれが名前、学校名とかはあんまりないんだけれど、非常勤でスクールカウンセリングの仕事をしてるよ」

「え、祐ちゃん?」

「あぁ・・・ってわぁ!!感激するね!!!汐じゃないか」

「汐ちゃんの知り合い?」

「東もあったことあるでしょ?」


そういって懐かしいなぁ、とバシバシ杜若に背中をたたかれながら須磨はほら、と思い出させるように促した。


「ついでに自己紹介もしてしまうね。須磨 汐。由良塚第一中で国語の教師をしいるよ。祐ちゃんは、同級生でね?彼女こう見えても相談がかりとしては一目置かれてたんだよ。ほら、昔よく遊びに来てたでしょ?」

「そうそう、由宇ちゃんでしょ?知ってる知ってる、汐はな、昔は文学においては右に出るものはいなかったんだせ?」

「はぁ・・・昔の記憶はほとんど忘れましたからね・・」

「薄情だなぁ!」


そういって、杜若はまた笑いだした。それにつられて須磨もつい口角が緩んでいる。劇場内には杜若の笑い声がこだまし、なんだかに二、三人いるかのように思わせた。

と、その空気の中で次に手を挙げたのは先ほどの色素の薄いピンク掛かった紫のショートカットの少女だった。


「あの・・いいですか・・?私、花袋 澪カタイミオって言います。幾江南高校二年・・・その、えっと・・愛想よくしますのでよろしくお願いします・・・」


おどおどとした様子のまま少女―花袋 澪は自己紹介し、深々とお辞儀を繰り返した。その隣から少年―落ち着いたクリーム色のセーターに緑のネクタイとは反対のように、明るめの茶髪に、目は夕焼けを浸したかのような淡い黄色とオレンジのハザマのような色をしていた――が覗き込む。


「ちっす、澪ちゃんはちょーぉっとあがり症なんっすよ!おれ、篝 想太カガリソウタっていいます!趣味は手品っすよ?かっこいいっしょ?ちなみに、澪ちゃんは、香りについてはプロ級なんっすよ~!!」

「あ、あの!!篝君、や、やめ・・」


あわあわと花袋が篝を制止しようと、慌てているのを傍らに篝はけらけらと笑っており、なんとも温度差のあるやつらだと思った。

くるりと見渡すと、自己紹介が終えた者はそれぞれ名を知ったことで少しだけ安心したのだろう、リラックスした表情を浮かべていた。見渡す中、ふとあの内田と呼ばれる男性の周りにいた、双子と目が合った。


「・・・・・圭、目が合った」

「・・・神戸秀と目が合った」

「・・・そろそろ自己紹介が回ってくるんだよ、静かにしてなさい」


そういわれて双子は静かに内田にすり寄る。それを見ていると今度は内田の被り物―鶏マスク―の目と合った。気がした。

そんなことをしていると今度は、フードを深くかぶった少年が手を挙げた。


「・・俺は山里 悟ヤマザトサトル。幾江高等学校二年。オカルト研究会の部長をしてる、それでこっちが・・」

「同じく幾江高等学校一年!柳 智恵ヤナギトモエだよ!!競技カルタ部所属です!!よろしくね!!山里先輩とは中学の委員会が一緒なの!!」


山里悟――深緑の髪色に、赤紫ともれる瞳を持っている。しかしその全てははっきりとは見えず灰色のフードとブレザーが怪しげに隠している――と柳智恵――明るめの栗色の髪は高い位置でまとめられ、色素の薄い黄色の目は元気よく光り輝いている。服装は指定の制服なのだろう紺色のジャッパースカートに水色の紐リボンがかわいらしいデザインだった――は、先ほどの花袋と篝とは違う雰囲気で温度差を感じていた。

ニコニコといまだに笑う柳の隣で山里は、暗い顔で一礼する。


「さて、最後は私たちですね。君たちからするかい?」


そういわれたのは双子――白髪に近いクリーム色の髪は一人は一本、もう一人は二つにまとめており、髪と同じ色のまつ毛に縁どられた瞳はエメラルドを思い出させた。二人は同じ服装をしており、紅茶色のセーターを身に着け、黒のスカート、ズボンをそれぞれはいている。見た目から想像するには、儚くウサギのような二人であった――は、コクリと頷くと手をつなぎ内田より一歩前に進んだ。


「ボクは堤 明菜ツツミアキナ

「ワタシは堤 明穂ツツミアキホ

「ボクは髪を一つに」

「ワタシは髪を二つに」

「間違わないでね?」

「そういうことだ。彼らはファッションデザイナーで今は私と、仕事をしてる」


そういって二人の間に立ったのは内田だった。外見はよくわからずにただ高いところから鶏の被り物の二つの無機質な目がこちらを捉えているように錯覚する。目を惹くその被り物とは違い、Тシャツにジーパンという簡易的な恰好だたった。

内田はぐるりと見渡した後、きっと東の方向であろう場所を見ながら首を傾ける。


「私は内田 圭ウチダケイ、人形師をしている。それ以上は言うことはない。あぁ、被り物については気にしないでほしい。私は人の目を見てしゃべるのが苦手なんだ」


そういって軽く肩を上げる。

どこからか「うそつけ」っと声が聞こえたが、きっと東当たりなのだろう。二人はきっと何かしらの知り合いであることは間違えではないはずだから。

そんなことを考えていると、再び劇場にブザーが鳴り響く。そのあと続けて、ひまりの声がこだました。


「皆様ぁ!お元気ですかぁ??さてさてぇ、準備は整いました!さぁさぁ!ご用意したお部屋に一人づつ移動してください!毒なんて一つもないあたたかな食事と夜のアクションが貴方を待ってるわぁ!!」


その声と同時に機械が作動するような鈍い音が響き渡る。

十五人がいる場所を中心にして、三百六十度舞台のセットが変わるように壁が移動していく。

次に顔を見せたのはそれぞれの名前が刻まれただった。


「さぁ、おやすみなさいませぇ!!明日は楽しい楽しいゲームの時間よぉ!」


その言葉を最後にひまりの声は途切れた。


「仕方ないね、今日は従うことにしようか。もしかしたらすべて夢だったかもしれないしね?」


そういった柊の言葉を合図に、それぞれが自身の部屋の扉に手をかける。

一人また一人と扉を開けては中に消えていき、とうとう最後に残ったのは東と神戸の二人だった。


「先輩、私たちは全員で十五人しかいません」

「・・・はぁ・・?」

「部屋の数、おかしいですよね。座席もですけど、全部十六個ずつあるんですよ」

「そういえば・・ひまりとかいうやつ数かぞえれねぇーのかもよ」

「・・・だといいですけど・・・」

「東・・?」

「いえ!何でもないです!!!!おやすみなさい、神戸先輩!!」


覗いた顔はパッと明るく弾けるよな笑顔だった。

スキップするような動きで東は自身の部屋へと消えていった。

残った神戸は少しだけ頭を掻くと、ため息をつき、己も自身の部屋へと変えるのであった。




現在生存者 ――― 十五人

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