上演合図は、そして響く。1
最初に見えたのは白い色。
とても綺麗な白い色。
何もない真っ白な世界。
――の世界はただの無色の世界。
だけれど。
黒い色に赤を引き連れたあなたが。
アなたガ、確カに世カいをかエタノに。
♢
「――い、先輩!!神戸先輩!!」
「ッ・・・・・・あ、ずま・・・?」
「もーーお寝坊さんですね!!汐ちゃんはもう起きてますよ」
何時間くらい経ったのだろうかそれすらわからなく程、頭が鈍く靄がかかる。
自分よりも先に倒れていたはずの東の声でようやく目が覚める。開けた視界の先には心配そうな須磨と、不機嫌そうな東の顔がのぞいた。
東は、顔を伺うとそのあとはぁっと深くため息を吐き、「お気づきですか?」と促す。そういわれて、さらに奥――東や須磨のその先――に目を凝らすとそこに見えたのは、まるでどこかの歌劇場のようなものだった。
二階から上にはオペラグラスを覗くように見える人形が座席へと座らされており、ほかにもスタンディングオベーションのように手をたたくそぶりをする人形、ワイングラスを片手に悠々と座る人形など様々だった。一階席の座席にも同じようにいくつもの様々な人形が座っていたが、舞台目前の席――目分ではあるが16席ほどであろう――が空いていた。
東は、その席の前まで行き、こちらを見てその赤い目を細めた。
「見てください、先輩。東たちの名前ですよ。座れということですかね?」
「いや、そんなことよりここは・・?」
「まぁ、どこか別の場所に運ばれた。というのが妥当ですよ、これだけの人数をナズマルからここまでとなると、相当の人数がかかわってそうですが・・」
「二人とも、とりあえず座ろうか。ほら、ほかの人も徐々に座り始めているよ」
そんな須磨の声を聞きながら見渡すと確かに何人かは、名前の書かれた席に座り始めていた。仕方がない、と自分の名前の書かれた金のプレートの前に立った。歌劇場のライトに鈍く光らされたそのプレートは黄金に見える。須磨と東とは席が離れており、東はちょうど自分の席から5つ、須磨は最後の席に座っている。ふと自分の右隣の席のプレートに目をやると、大神 梢と記されていた。変わった名前だなと、思いながら自分の席に座ると、ちょうどそのプレートの前に、一つか二つは下なのだろう幼さの残る顔立ちに、深い森の色に漬けたかのような緑の髪をおさげにしたブレザー服の少女がぼんやりと席を見つめていた。
「・・・・おおがみさん?座らないんですか」
「・・・あなたは?」
コテンと右に首を傾けその、黄色がかった眼が自身を捉える。そこに映り込む自分の目のオレンジが溶け夕解けを思い出させる。
「俺は、神戸秀」
「そう・・・・僕は、
「へ、へぇ」
「ん・・よろしくね?秀くん」
独特の雰囲気を持つ子だ感じた。ぽすりと隣の席に座る大神は、いまだにぽわぽわと自分の空気を持っていた。しばらくその様子を眺めていると聞き覚えのある声が耳に届いた。
「あーー!秀先輩!先ほどぶりっす!!」
「・・・・二兎か、」
「そうっすよ!そっちの子は?彼女っすか?」
「お前な・・・」
「大神梢。よろしくね、えっと」
「二兎俊っすよー、よろしくっす梢ちゃん!」
二人は緩くではあるが握手を交わし席に座った。すると、二兎は「秀先輩!」っとこそっと耳打ちするように話しかけてきた。
「会場にいたあの鶏の人覚えてるっすか?」
「鶏・・?」
「ほら、その右に6つ行った・・ちょうど東ちゃんのとなり」
「あぁ・・・」
東の隣、確かに鶏の被り物をした、体系的には男性なのだろう人物が座っている。あの会場内でもなかなかに印象的でよく覚えている。しかし、あの東が真剣な顔でその鶏の被り物の人物に話しているのが不思議に思えた。
「あいつが座る前にオレ名前見たんだけど、
「内田・・・あ!」
「前新聞に載ってたよな。確か」
「人形作りの天才、か」
「そそ!」
内田圭、新聞の一面を飾っていた男性の名前。大見出しに“まさに生きた人形!天才人形師現る!”で一時期東がやけに必死に追いかけていた記事であった。俺自身も気になり、新聞を読んだことがある。一体一体が繊細で、まるで本当に人間かのように思え、何億もの値が付いているとか。
ただ、一つ問題があった。
「確か極度のコミュニケーション障害だった気が」
「そうなんっすよ、なんでこんなとこにいるんっすかね」
「さぁ。一緒にいた双子の少女に連れてこられたんじゃ?」
「あぁ、あの子たち兄妹らしいですね」
「え」
「堤さんたちの話・・?」
ひょっこりと大神が顔を覗かす。黄色の瞳が眠たそうに一度瞬きをし、ゆるりと舞台に目を向けなおした。
「
「有名人・・?」
「でざいなーさんだよ、秀くんあんまりテレビみないのかな・・?」
「あぁ堤ブランドっすね」
「堤・・・あー!」
「デザイン関係はほとんど手を出してるよね。今度内田さんと一緒にお仕事するんでしょ」
「へぇー・・大神さん物知りだね」
「えへへ」
「そりゃそうでしょ、今思い出しましたけど大神梢って、ジャーナル世界じゃ有名ですよね」
きょとんとしたあと大神は照れ臭そうに笑っていた。人形師に、デザイナー、おまけにジャーナリストときた。いや、常に隣に東というIQの桁数がおかしいやつがいる。しかしこうなってくれば、二兎にも何かあるのではないだろうかと思う。疑うように見ていると、二兎は驚いたように「な、なんなんっすか!?」とあたふためいた。
「お前も何か・・」
「いやいや、オレそんな有名人じゃないですよ!しいて言うなら、ゲームぐらいしか・・」
「ゲーム?大会とかで優勝してんのか」
「それくらいっすよ?秀先輩こそ何か隠してるんじゃ?」
「・・・・・いや、俺は、平凡だよ。人より秀でたことなんて一度もない」
「さみしいっすね」
「お前なぁ・・・」
そういって二兎を軽く小突いた瞬間だった。急にブザーの音が鳴り響く。上演前に鳴り響くようなあの低く体の芯に響くような音。それに合わせて一気に会場が暗くなり、人形たちからだろう、拍手や口笛、歓声が響く。その音が鳴りやむと同時に、真っ暗だったはずの舞台が一気にライトで照らされる。するとその場には先ほどまではなかった、小さな紫とピンクの、実に毒々しい色のウサギが座っていた。
そのウサギから今度はノイズの混じった声が聞こえだした。
『夢は現、現は夢。ワタクシ達がのぞくのはそのハザマ』
『ハザマの中、何もない場所。無は有に。有を無に。黒は白。白は無色』
『ワタクシ達が立つのは、あべこべのハザマ。死も生も存在するハザマ』
『さぁ、夢か現か幻か。あべこべのこの場所で、命を懸けましょう』
ボムッと音を立て、そのウサギは煙を吐き出す。その煙が舞台をすべて覆いつくすと、今度は別の甲高い笑い声が聞こえる。その声に合わせるように再び、全席にいた人形が立ち上がりカタカタと笑いだした。
ポヒュっと何かがつぶれる音がした。よく目を凝らすと先ほどのウサギのぬいぐるみの上にローファーが見えた。次にスカート、ブレザー、そして紫の髪がのぞく。
「皆様!!たぁいへんお待たせしましたぁ!!ひまりの登場ですぅ!!!」
ひまりと名乗ったその少女は、まるで舞台あいさつでもするかのように大きく手を広げた。怪しく光るその桃色の目には、黄色ダイヤの瞳孔がのぞき人ではないと思わせる。その瞳はゆっくりと16人を捉えた。指先で1、2、3・・・と人数を数え、須磨を指さし「じゅぅろくぅ」っといい終えるとにんまりとその口角を上げる。
「あぁっ!ちゃぁんと皆様バッジをつけてくれたのねぇ!うれしいわぁ」
「もし、人数が足りなければどうしようかと思ったものぉ」
「あの、いいですか?」
「あ?」
そういい続けるひまりに、水を差すように声を上げたのはほかでもない東であった。東のその赤い目と、ひまりの独特の目が重なり合う。「いいわよぉ、ひまりはぁ優しいから」と東の前にトンっと立つと「何かしらぁ、東 由宇」と先ほどよりは少し低めの声を出す。東は臆するそぶりも見せずに、まっすぐ見つめ「貴方は誰?ここは?」っと質問をぶつける。あぁ、っとまるで忘れていたのかというようにひまりは手をたたいた。
「そうよねぇ、自己紹介する前にみぃんな眠ってしまったものね!いいわぁ、説明って大事だもの、ひまりが説明してあげる」
くるくると回りながら、先ほどまで踏んずけていたウサギの場所まで戻ると、両手を広げ深々とお辞儀をした。
「初めましてぇ、皆様!ひまりは、ひまりっていうの。気軽にひまりって呼んでねぇ?ひまりは神様です」
「そしてここは、ハザマの歌劇場!みんなには、ここで」
「命を懸けて生きていただくことにしましたぁ!素敵でしょ!!」
「ふ、ふざけてる」
そういったのは複数人だった。
確かに、狂っていると思った。神だと名乗る少女に、訳も分からない場所に連れてこられ挙句には命を懸けろと言われているのだ。理解が追い付くとは到底思えない。周りを見ると何人もがざわつく中ただ二人、東と内田だけは舞台を静かに見つめている。
「もーーっうるさいなぁ!説明はここらだよぉ?」
「説明?」
「そーぉ!説明はここからぁ!よぉく聞いてねぇ?皆様にはあるゲームをしてもらいまぁす!」
くるくると楽しそうにひまりは舞台で回る。
そしてちょうど16席に一番近い場所で、ぴたりと止まる。パチンっと指を鳴らすと、あの毒々しい色合いをしたウサギが16体それぞれの席の前に現れた。ウサギは、小さな封筒を差し出しており恐る恐る、手に取り開けてみる。中には一枚のカードと便箋が入っており、便箋には『神戸 秀 様 貴方様の役職は 占い師 です。どうぞ、この村に紛れ込んだ人狼の正体を暴きだしてくださいませ』と書かれており、カードにはタロットカードのように先ほどの自身の役職カードが入っていた。
「見たわねぇ?だぁれにも知られちゃだめよ?まぁ早く死にたいなら見せてもいいけれどぉおすすめはしないわぁ!」
「この16人の中に紛れ込んだ人狼は3人、その人狼を皆様の手で暴き出してちょうだぁい?人狼組の皆様は、村人組を全滅させれば勝ちよ?簡単でしょ?」
そういったひまりの顔は確かににんまりと、それは神でもなければ悪魔のように歪んだ笑いをしていた。
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