第6話 食堂にて
「───ふぅ」
チャイムが鳴り響いている。
入部体験週間を相良と回る約束をしてから三日後の金曜日の四時限目。
大体この高校での授業は馴れてきた。
授業も付いていけてるし、クラス内の雰囲気の良さは生涯最高かもしれない。
(まぁ、それでも友達は出来てないんだけどね......)
相変わらずのボッチで、まだ始まって四日の高校生活は、まだ何も進展はない。
しかしまだ四日だ。
これからひょんなことが起きて、その拍子に気付けば友達がスッと出来るかもしれない。
(それまでの我慢だな)
こんな俺に、待ってるんじゃなくて自分から行こうぜ? と思ったあなた。
俺がそんなガツガツ行ける肉食系男子だと思えますか?
そう、答えは否である。
俺はどっちかというと周りの空気に流されちゃう草食系男子だ。
まさに今の状況である。
周りの皆が仲間的な空気でバリアを張って話しているという空気に流されて、その輪の中に中々入れることができていない。
(......いや、まぁその......皆さん。バリアは張らないで頂きたいなぁ......)
はぁ、ボッチって辛い。
そんなことを思いながら、腹を空かせているので、学食へと向かうことにした。
時間も限られているし、学食の席の数も限られている。
誰かが食べ終わるまで待つなんてことをしたくない。
というか、もうそれを体験しているので、その時の辛さを味わっている身として、もう目の前で美味しそうな定食を食われるという歯痒い体験はしたくないのだ。
少々小走りで食堂へと足を運ぶ。
すれ違う生徒達は皆、もう売店でパンなどを買って上機嫌なようだ。
俺も早く定食を口に一杯掻き込みたい。
それらを見て、俺は一層足を早めたのだった。
= = = = = =
「わお......長蛇の列ってのはこういうことを言うのか」
学食へ向かえば、思わずそう呟いてしまう程の列が作り上げられていた。
素直にここは最後尾に並んで、さっさと進んでくれと願うことにした。
10分後
(やっと出番が回ってきた)
立ちっぱだったので、より一層腹を空かせてしまっている。
早々におばちゃんに、今日のイチオシと書かれてあったカツ丼を指差し、そこで十秒ほど待っていると、もう出来たみたいだ。
「はいよ。熱いから気を付けてね」
「ありがとうございます」
手渡されたカツ丼定食を力強く受け取り、俺はなりふり構わずに近くで丁度空いた席に座り、飯を......肉を......汁を......をと掻き込み始めた。
(うめぇ! うめぇ!)
待ち時間がより一層食欲を倍増させたためか、人の目も気にせずに我ながら凄い食べっぷりである。
実はこの時間が今一番高校生活での至福だったりする。
なぜなら、友達が居ないからである。
というか、さっきのおばちゃんとのやり取りが、実は今日で一番最初の会話だったりするのだ。
普段から誰とも話さない......いや、話せない俺には三大欲求の一つである食欲で、普段から溜まりに溜まっているストレスを発散しているのだ。
因みに、そのストレスの原因は『話せないストレス』である。
(これじゃあデブまっしぐらだわっ!)
そんな風にカツ丼を掻き込みながら、その至福な時間を堪能していると不意に
「───凄い食べっぷりだね」
と、隣から女子の声が聞こえてきた。
「......ぼぐっ?」
口の中に米を溜め込んでいるため、そんな含み声になりながらも疑問に思い振り向くと、そこには見知った顔があった。
「......あぐっ!?」
(せ、瀬川 真美っ!?)
いきなりの思わぬ来客に、米を吹き出しそうになる。
入学式の時、新入生代表として出てきた美少女ということぐらいしか、瀬川 真美という人物についてわかってない。
が、美少女というのが問題である。
(び、ビックリするだろうがぁ! おい!)
もう胸がバックバクだ。
「だ、大丈夫? ほら、お水」
「!?」
(お、おい! それ間接キスじゃ───っ!? やべっ!? 喉がぁ!)
少し躊躇ったが、直ぐに差し出されたコップを手にとって、勢い良く飲み干した。
喉につまっていたものが、腹の奥へ流れていく。
「は、はぁ......」
一時は脱したものの、「!? ......ご、ごめん!」と、直ぐにそのコップを瀬川の元に返した。
「いや! こっちのせいだよ! ごめんなさい! 急に話しかけたりしたから......」
「......あ、あぁ......その......いや......」
「......う、うん」
「......と、というか......ち、近いよ」
「あ、ごごめんなさい!」
「......お、おう」
(なんだこれ。いや、本当になんだこれ)
淡い青春をしてるのは分かるが、今ここですることなのだろうか。
とにかく、さっさとこのむず痒い状況から脱したい。
「あ、えーっと。瀬川さん、だよな......? なんか用か?」
(というか俺、名前覚えてたんだな......)
普段から全く周りに関心を示さないというか、コミュニケーションを取るのを苦手としている俺にしては、一回会っただけでその人の顔と名前を覚えることは大成長である。
頬を掻きながら、そう質問すると、瀬川さんは笑顔でこう返してきた。
「あっその。丁度今隣で座ってて、凄い食べっぷりで、上履き見たら同級生だったから話しかけただけ......」
「あぁ......朝飯食い忘れてたからかな? ちょっと待ちきれないぐらいお腹空いててな」
ちょっと気恥ずかしく、ぎこちなくそう笑うと、瀬川さんは「へぇ......ちゃんと朝食はとらないとダメだよ?」と心配してきてくれた。
「お、おう。善処する」
「ふふっ......あ、お米付いてるよ。ほら、ここ。右頬」
「え!?」
自身の頬に指を当てながら笑ってきた瀬川さんに、俺は少し見惚れながらも直ぐに米を指で取った。
「ど、どうも」
「いいえっ」
恥ずかしさで熱くなり始めた顔を隠すように顔をうつ向かせていると、「君、名前は?」と聞いてきたので、「あ、綾崎 司......」と答える。
「───......綾崎?」
「......え?」
少し瞠目した瀬川さんに、困惑させる。
しかし、直ぐに瀬川さんは
「あ、あぁ。いや、気にしないで。ちょっとこっちの話だから」
と、笑顔を作った。
「これからよろしくね。綾崎くん。じゃあ私、行くから」
「あ、あぁ......そ、そうか。よろしく」
「うん!」
去っていく瀬川さんの背中を見届けながら、俺は置いていた箸とカツ丼を持ち上げる。
(話しやすかったなぁ......あれをリア充というのだろうか。俺みたいなボッチには少し荷が重い相手だったな)
残しておいた美味しい部分を掬い上げながらふと思う友達ゼロの男であった。
= = = = = =
特にあの昼食以降何も起こらずに、帰学活の終了を知らせるチャイムが鳴り響いたと同時に、俺は帰宅し始める。
授業内容はもっぱら簡単で、少し寝てしまいそうになってしまった。
中二の復習みたいな感じなので、知ってる内容が多いのが印象だ。
(ついてけてるのは良いことだな。うむ。不安に思うことがない)
バックを持ち上げて、教室から出ていく。
(というか......人と話せないってこんなに辛いことなんだな)
時々、相良が話しかけてくるが、それは実に下らない会話なのだ。
どんな内容かというと、『この学校の女子顔面偏差値高くね?』とか『あの子おっぱいでけぇよな......』とか『あの子マジで良い匂いがした......』とかとにかく話してるだけで女子の敵になりそうな会話なのだ。
その為、もう大抵は無視している。
(普通に話させて......本当に)
そうやって本音を呟きたいのだが、恥ずかしいためそんなことにも行かずといった歯痒い状況が続いている。
これを見て楽しそうな高校生活だと思ったやつはとりあえず心にないことを言うのはこれで終わりにしよう。
司さん怒っちゃうから。
とにかく、早く帰ってゲームがしたい。
自然と早歩きになっていく体に、もう立派なゲーマーだなと苦笑いしながら、俺はバス停に向かうのだった。
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