第38話
さて。
またもやエンジュとスバルのいない昼間のゲーム内でブラブラと練り歩いているところ(どうやら休日はエンジュが勉強を教えているらしい)、ラヴェナ本人から「ロトさん」と、チャットが飛んできたのであった。エリア内にそれらしき人物は見当たらないが、武器屋の影に何者かが潜んでいるのがミニマップのマーカーにて確認できる。試しに該当箇所をクリックしてみると、やはりラヴェナのステータスが表示されたのであった。レベルは相変わらず低い。
*なにをしているんだ
勇者はラヴェナのすぐ隣へと移動し個別チャットを送った。クールぶってはいるが案の定モニタの前では「ぐふふ」という気色悪い声が漏れそうなニヤケ面である。
*わ、どうして分かったんですか? 私の居場所
あざとい。
不可思議に尋ねるラヴェナはあざとさ全開の天然系アイドルのようである。間の抜けた女など
*ミニマップにマーカーが出ているだろ。それでだいたい分かる
*あ、そっか! なるほど〜参考になります!
「馬鹿だなぁこいつは」
そう吐いて捨てても隠す事ができぬ汚れたリビドー。上がる口角はきっかり11時5分を示している。溶けきった気色の悪い顔は中年オヤジがキャバ嬢に見せるそれと同じであり醜悪そのもの。今の勇者はゲーマーとしての矜持も男としての意地もないただの助平と化していた。ただでさえ魅力のない人間性からさらにCHAへデバフがかかってしまっているこの状態はどう控えめにいっても最悪であり、その内面が映し出されているクソキモ
しかしそこはゲーム。例え素っ裸でケツの穴に芋ケンピを入れていたとしてもリオンマグナス辺りの真似をしていればそれなりにカッコよく見えてしまう魔法の世界である。薄っぺらい戯言を吐き続ける勇者であったが、金で買ったアイテムとランカーという肩書きのおかげで何やら深い人物であると錯覚してしまう雰囲気だけは漂っていた。それのせいかは知らぬが、ラヴェナのテンションは、少なくとも文面においては高まっているように見受けられる。バンドマンと「私は良さを知っている」と言ってはばからない追っかけのように感じた。
*あ、ロトさん。フレンドになりましょうよ
そして流れてたきたこのチャットである。
これは勇者にとって願ってもいない申し出であった。例えゲーム内とはいえ女相手に自ら積極性を示すのは至難。相容れぬ存在である
*好きにしろ
だが勇者はあくまでクールに振る舞う。さすがランカー。格が違うと思わせたいが為の大根演技であるが、残念ながらゲーム上ではリオンマグナスなのであった。やったね坊ちゃん。フレが増えるよ!
*やった! ありがとう!
喜びを表現するラヴェナは、武器屋の陰から身体の一部が飛び出す程にはしゃいだ。
中々可愛いやつじゃないか。
奇面フラッシュ再び。ニヤける勇者はドロヌーバのような顔をしてラヴェナを見つめている。勇者を知らぬ誰かが見たら地縛霊か本当にあった怖い話のロケ現場に置かれたビックリギミックオブジェと勘違いしそうなくらいには危うい。新たな怪談が誕生する前に勇者の自制心が効く事を期待したいところである。
……いや待て
「怪しい」
勇者はようやく猜疑心を抱きラヴェナに疑惑の目を向けた。
そう。あるわけないのだ。都合よく女から声をかけられるなどというご都合展開など……っ!
そもそも装備をオシャレにコーディネートできるような奴がクエストの進め方やミニマップのマーカー確認を知らないなんてありえるか? それにフレンド機能を知っているのも怪しい。ゲームに慣れている人間ならともかく素人ムーヴをかましているプレイヤーだぞ。矛盾している。
そう。ラヴェナは素人然としていながらも、なぜだか要所は抑えているのだ。
そこが妙。
そこが不自然。
喉の奥に引っかかる不自然さ。看過できぬ怪々さ。
こいつひょっとして、何か企んでいるのでは……
勇者! ここにきてようやくラヴェナの異様さに気付く!
エンジュの件もある。もしかしたら、また戸籍の上で女ではない人間が接触してきているのかも知れない……
広がる空想! 妄想! 負のイマジネーション! 鳴りを潜めた能天気は狐疑の念につままれた!
*あの、どうかしました?
疑心暗鬼に囚われた勇者は操作もできず固まる。キーボードに何か打とうにも、なんとタイプするのが正解なのだろうかと頭を抱えているのだ。
目的はなんだ?
直球すぎるな……
お前は本当に女か?
いや、どっちにしろ失礼だろ……
ところで、俺の親父警察なんだけど。
警戒するかもしれんがすぐにバレそうだな……
八方塞がり! 文殊の知恵は3人寄らなければ湧かぬのである!
「駄目だ分からん! 誰か教えてくれ! 俺は後どれだけ騙されればいい!」
勇者! 錯乱!
やたらめったら押される方向キー! ソロステージにて開始された奇怪なダンス! メダパニめいた挙動でひっきりなしにエリアを右往左往する様子は控え目にいって大変うるさく騒がしい!
*あの、ロトさん
*なんあd
そしてタイプミス! 定まらぬ勇者の指先! 混乱のバッドステータスが解除される予兆はまったくなし! 1人で踊るサーカスのピエロである!
落ち着け考えろ何を乱される事があるいつも通り冷静になれ俺そういえばこの前まとめサイトで【わい将。マンさんのアプローチに気付かず無事死亡】などというスレを見たがひょっとしたら今がその状況なのではないだろうかだとしたら実にまずいぞ死亡っていったいどうしたんだ≫1に何があったというんだまさか物理的に死んだわけじゃなかろうないやもしかしたらあり得るかもしれんならばあのスレッドを立てたのは幽霊なのかいかんいきなりホラーになってしまったなんたる事かもうこの世界は幽霊がはびこる魔境と化してしまったというのかこのままでは地球が滅びる!
魅了が解けてもこれではまともなプレイングなど不可能であろう。本日はもうPCをシャットダウンし暖かくして寝るのが上策なのだが左様な手段を勇者は取らぬ。思考がキバヤシ化してしまった勇者に後退の文字はない。あるのはMMRじみた不信不安による迷走だけである。
そして、そんな勇者のパニクりに拍車をかけるような一言が、ラヴェナから発せられたのであった。
*一緒にディスコードしませんか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます