第37話
ゲームに生きゲームで死ぬというストイック・ザ・ドクズな信念は本物なのだが雑念がないわけではなく、殊更女体への関心は歳相応に興味津々好奇心。一般的な男子学生と同じく超級弩級なエロスパワーを保有していた。そもそもエンジュとのリアルなこんにちわからして下心全開のあわよくばオフミーティングであった。チャンスがあれば掴むのは当然。知識だけが先行し実が追いついていない煩悩オブ18禁の権化である模範的な学生としては、実情不明で顔も知らない相手であってもチャレンジする以外に選択肢を持たない。覚悟もなしに虎穴に入ればどうぞよろしく人食いタイガーなんて事もザラであり、骨まで食い尽くされる哀れな末路もままある話なのであるが、悲しいかな無謀を良しとする馬鹿ばかり。 男を騙すには難しい策略はいらない。女1人いればいい。古来よりハニートラップがなくならないのはそういうわけである。例え罠の可能性が高いとしても、1%でも勝機があれば戦うのが、いや、
目が合った。
一飜
声をかけられた。
一飜
会話を交わした。
二飜
優しくされた。
二飜
肩が触れ合った。
三飜
これだけでも9飜倍満。2400。直撃恋の
*ロトさんって、やっぱり凄いですね。
*それほどでもない。
勇者の操作するキャラクターの隣には一体のプリーストが座っていた。表示される名はラヴェナ。初期アバターだが装備のセンスはよく、キャラクターの見た目は随分と可愛らしく映る(実用性は皆無である)。勇者との面識はなく、本日がこんにちははじめましてどうぞよろしくな関係であったが、2人の距離はいやに近く見えた。
このラヴェナがなぜ勇者の隣で社交辞令とも取れる賛辞を送っているかといえばそれはつい2時間前の事。休日の昼、エンジュとスバルがログインするまで適当に狩りでもしようかとゲーム内をうろついていたところ見ず知らずのプレイヤーに話しかけられたのだが、その見ず知らずの相手がラヴェナであった。
*あの……東方の賢者とは、どこに行けば会えるんでしょうか……
勇者の隣にピタリと張り付きそう尋ねるラヴェナは心なしか不安そうに見える。あるいは、そう見せているのかもしれない。
なんだこいつ。
勇者は突然のチャットにやや警戒した。【東方の賢者を求めて】は、序盤も序盤。チュートリアルの延長線上にある強制クエストである。東方の賢者の場所は受注時にくどいくらいNPCから説明されるしクエストログからも確認できるはずで人に聞く必要性がない。それをなぜわざわざ尋ねてくるのか、勇者にはそれが分からなかった。
だが、前述した通り男とは愚かで浅はかな生き物である。知性より恥性。真面目よりワレメを取る生き方を選びがちな生態であり性欲の抑制は困難。故に基本的には女に対してノーガード。悪女に狙われていたとしても油断と迂闊ばかりでダックハントの的としてスコアを献上するだけのような存在なのだ。
*ついてこい。案内しよう。
*本当ですか!? ありがとうございます!
警戒は秒で解かれた。リスク管理はザルである。勇者は、案内してやるだけだ。と、仮初めの冷静を装いつつ、あわよくばの妄想が脳内にて自動再生されデデデーンデーデーデーデーと暴れん坊小軍大活躍なのであった。
*ではお願いします。あ、名前長いので、ロトさんって呼んでいいですか?
*かまわないさ。
勇者は努めてクール感を出していたのだが(勇者は初対面の女に対していつも格好をつける)FF7のレッドXIIIを彷彿とさせるメッキの張りっぷりは噴飯もので、下手をしたら「あれ? 初期のクラウドかスコールのなりきりしてるの?」と、黒歴史認定されかねない薄ら寒さをかもし出していた。イタさでいえば中の下相当。実際のダメージに換算すれば左腕の欠損クラスである。運が悪ければ死ぬ。だが当の本人はそれにまったく気が付かず、道中変わらずスカしたクールガイを演じながらのエスコートを続けたのであった。何を話したのか詳細は省くが、将来この記憶が勇者を悶絶させる事間違いなしの内容であったのは間違いない。これで終わればまだよかったのだが、哀れな勘違いを引きずったままで目的地へのナビゲートを完了した勇者は、よせばいいのに下心見え見えのお節介をウェルダンで焼き上げたのである。
*あんた、このゲームは初めてみたいだな。よければ教えようか? 俺は詳しいんだ
出た! 上級者様のご教示ナンパ! 素人相手にゲームの知識を披露する定番クソうざコミュニケーション! 本来勇者はこうした手段に対し唾棄する程に嫌悪感を抱いているのだが女プレイヤーを前にして脳みそが腐り一次欲求についてしか考えられなくなってしまい正常な判断ができなくなっていたのだ!
*はい! 是非お願いします!
ラヴェナがエクスクラメーションマークを使った事により勇者は、なんと向上心のある奴だ。と錯覚した。何度も述べるが勇者は脳削りかブレインダムドを喰らったような状態となっており木の根元が女体に見えるレベルにまでintが低下している。よって、調子に乗ってカタカタといらない知識を披露するのにまったく抵抗がなくなり恥を晒しつづけていたのだが、それがようやく終わったのが今しがたの事だった。かれこれ2時間。勇者は現在ログインしているゲームの始まりから今に至るまでの歴史をひとしきりに語り尽くし、冒頭の会話へと繋がるのであった。
*ロトさんは、何でも知ってますね。憧れちゃいます。
*ゲームをやっていればこのくらいの知識はすぐつく。大切なのは知識じゃない。熱意と努力だ。
*わぁ……かっこいい……
*君もゲームに入れ込んだらいい。現実と違って、やればやるだけ上手くいく。
*はい! これから頑張ります!
ナチュラルに情けない発言をする勇者であったがラヴェナはまたもエクスクラメーションマークを使って応えた。彼女の内心は見えぬ。しかし勇者は明らかに浮き足立っており見ていて辛いものがある。もしこの様子をエンジュかスバルが目にしたら何を思うか……
……! やばい!
タイミングバッチリ! 接近するフレンドのマーカーを2つ感知! 誰と誰であるかはもうおわかりであろう! エンジュとスバルである! 百年の恋も冷める可能性も十二分に考えられる醜態を晒している勇者! 何を言っても見苦しい言い訳と取られるのは確実である中で果たしてどのような態度をとるのか!
*ロト! お待たせ! ごめんねぇ。お子様の移動が遅くて時間かかっちゃった!
*エンジュさんが速すぎるんですよ!
エンジュとスバルのご到着! 察するに2人は共に勇者を目指してきたようである! 勇者にしてみれば最低最悪シチュエーション! さぁ! この絶体絶命をどう返すのか!
どうするどうする俺ならどうする!? 考えろ考えろ考えなきゃ死ぬ……おや?
怪奇! 忽然と消えたラヴェナ! いったいどこへ!?
た、助かった……
*どうしたの? ロト
*いや、何でもない。
……ログアウトでもしたか?
胸をなでおろしながらもフレンドになっておけばよかったと後悔をする勇者であったが、「まぁいいや」と呟き2人とクエストを始めることにした。
先までの言動による思い出し恥ずかしによって発狂手前まで苦しむのは、彼がもう少し大人になってからの事である。
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