第24話
スタート!
以前プレイした時と変わりはないようだった……集中すればいけるはずだ……!
かつての挑戦を思い出しルートをとる! 勇者がマラソンクエストに挑んだのは二ヶ月前! 当時の記録は16分36秒! お世話にも速いとはいえぬタイムであったがオーギュスティーヌに勝つ術はあるのだろうか!?
勝機は諦めない人間の元にやってくるのだ!
ポジティブシンキング! 意気揚々と港エリアを駆ける勇者! 破れかぶれともとれる前向きハート全開でクリアを目指す! 道中機雷に触れロスするもリカバリは早い! 敵シンボルの相手はお手の物! 触手の波状攻撃を事もなげに突破しファーストステージクリア! タイムは1分34秒! オーギュスティーヌよりやや遅めだがこれは好タイム! それもそのはず! 本気モードの勇者はオーギュスティーヌのプレイを見て脳内シュミレートを完了していた! その結果100%ではないがムーヴのトレースを可能としていたのである! 一流は一流の動きを見て学ぶ!! これぞゲーマーの必須スキル! 電影心! 千の実践と万の練磨! そして億の経験によって得られる修羅の秘技でもある!
出だしははまずまず。焦るなよ勇者。俺は
自己暗示による
スリの回避なんざゴエモンで経験済みだ。
だがあくまで冷静たる勇者! タイム差は肉薄しているがまだオーギュスティーヌには及ばない! 浮かれ調子で勝てる勝負はなし! 用心とは好調の時こそしなければならないものである! 最短ルートを最速で進みながらも
平原エリアはボーナスステージだな。前回プレイ時もここだけは楽しかったが……
過去プレイに想いを馳せながらエリアは荒野! ここの障害物は特異な
「……あぁ……ああぁぁぉあああぁあああぉぁぁぁあぁあああウオアワーオ!」
駄目! 遅延! 頻発するズレ! 先までの強者とは思えぬプレイング! 決して下手なわけではないがゲーマーとしては二流以下の操作! それもそのはず! 勇者は音ゲーを「お洒落被れ」と断じ敬遠していたのだ! もとより音楽的素養がない上に経験値まで低いとなるとその差を覆すのは不可能! 耳ではなく目と記憶に頼った動作ではオーギュスティーヌに一歩も二歩も劣るのである! おいっちにと懸命に進むも通過タイムは9分25秒! これはいけない! 次の火山エリアは長丁場な上に障害物の設置が悪意に満ちている魔のゾーン! 平均クリアタイムは6分24秒! あのオーギュスティーヌでさえ6分05秒である! つまり最終エリアにて逆転の目は限りなく皆無という事! 荒野でのロスはまさに致命傷! 通常ならばこの時点で勝負あり! だが!
戦いは……これからだ!
果敢! 勇敢! 勇者の闘争心は未だ衰えてはいない! 渇望する勝利への欲求! 信じ続ける勝負の行方! この覇気の根元は自信でも確信でもない決意! そう! 覚悟と誇りのみが勇者に戦いを強いているのだ!
さて。勇者が奮闘している間に港では野次馬が増えていた。オーギュスティーヌがラウンドスピーカー(
ではここで一旦観戦モードの場面を見てみよう。
*終わったwwwww
*ロト哀れすぎるだろwwwwww
*オルテガの息子ロト氏。イキって喧嘩売った結果敗北して無事死亡
*クソワロタw
*リズム感はないんです
*ざまぁwww
*お前ら草生やしすぎだろw
*除草剤撒いても草生えるわこんなんw
おわかりいただけるだろうか。ご覧の通り一様に勇者アンチである。これはオーギュスティーヌが『【チャンネルは】オルテガの息子ロトさんがマラソンで敗北必死で涙目遁走ブヒヒヒヒwwwww【7ch】』などと流した為である。(経緯は尾ひれを付けに付けオーギュスティーヌが説明をしていた)
はっきりと述べよう
勇者は嫌われている!
残念な事に勇者は意識高い系ランカーと見なされ多くの人間に煙たがられているのだ。それ故に此度の勝負は勇者の敗北を望むアンチユーザーがこぞって集まったわけである。
「楽しむだけでゲームを終えるつもりはないよ」
などと謎にストイックな日頃の言動を吐くものだからやむを得ない事であるが、完全アウェーなこの場合はさすがに哀れ。如何に本人の目に見えないといっても野次と暴言しかない観戦モードのコメント欄。クソザコメンタルな人間がログを追おうものなら引退も視野に入れるような無法地帯である。
そんな事態となっているとはつゆ知らず勇者は走り続けていた。
ここで負ければオーギュスティーヌのギルドに降り、しかもゲーム内で一生笑い者となる事必至である。そうなればさしもの勇者のハートもブレイクだろう。是が非でも勝たねばならぬ状況となったわけである。タイムが大幅にロスした後半。勇者は如何なる策を用いて勝ちにいくのか!
大丈夫だ。タイミングは完璧なはずだ。後は迷わなければ絶対成功する。オーギュスティーヌのタイムを越えるかは分からんが……なるようにしかならん!
疾走! 火山エリア! コースの三分の一を走破した現在のタイムは既に11分を回っている! 果敢に挑むがこれではとても間に合わない! 敗色濃厚! 絶望的なまでに遠いゴールまでの距離! だが勇者! 諦めない! あくまで貫く意地! 立ちはだかるは砂塵爆炎大将軍! 手強い大ボスを相手にする時間もなく! かつ逃げれば広範囲攻撃が勇者を襲う! さぁ! どう出るのか!
……いくぞ!
勇者! 地雷源へと砂塵爆炎大将軍を誘導! オーギュスティーヌと同じ手段! さすが一流! その動きに無駄はなくまったく同じ動作で砂塵爆炎大将軍を追い詰める! しかし同じムーヴでは逆転は不可能! オーギュスティーヌを超えるには更なるタイムの短縮が必須! まさか! ひょっとしたら運良くタイムが縮まるかもと!? と運頼みの戦法を取ったのだろうか!?
否!
違う! そうではない! 勇者の本領は! プロフェッショナルとしてのゲーマーの本質はここからである!
「頼むぞ……っ!」
勇者はモニタの前で雄叫びを上げ砂塵爆炎大将軍をノックバック! 誘爆作用スキル発動! ここまでもオーギュスティーヌ同じ! だが! ここからが違う!
「飛べぇっっ!」
勇者! 弾け飛んだ砂塵爆炎大将軍に接触! 爆風に乗り一挙に進むは山頂への道筋! 飛翔! 滑空! 大躍進! 尋常ならざるスピードを得て勇者はゴールへと向かう!
爆破ダメージは本来即死ダメージが入るのだが砂塵爆炎大将軍のHPはプレイヤーキャラクターの設定最大値を大きく超えている! 故に! 砂塵爆炎大将軍は消滅せず勇者と接触! 結果爆破ダメージは届かず敵ユニットととの接触ダメージのみの計算となる! 勇者はこれを見越して走り続けていたのだ! ゲーム開始前の瞑想は脳内にてこのタイミングを何度も繰り返す為のものであった! フレーム単位の操作技術と強靭な精神力があって初めて成し遂げられる達人の技量! これが一流! これがプロフェッショナル! 勇者は今! ゲーム生きる人間の底力を見せつけたのだ!
「これが我が勝走経路だッ!」
プッツンブチギレアドレナリン! 喉が擦り切れながらも咆哮を続ける勇者! 移動スキル並みのスピードアップを受け今ゴールイン! さぁ! 勝負の結果は如何に!
……
…………
………………
「…………っ!」
表示されるはNew Recordの文字! ゲーム記録更新! タイムは14分52秒! オーギュスティーヌの記録を1秒更新! それ即ち!
「俺が
勇者勝利! 勝利の叫びを高らかに上げ通常マップへ帰還!
オーギュスティーヌよ見たか! これが! これが! これが
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