第23話
マラソンクエストとは、その名の通りゲーム内エリアを駆け抜けるクエストである。
移動スキルは使用不可。装備アイテムによる移動力アップも全て無効となった状態でマップの端から端までのタイムを競う鬼のようなクエストである(当然だが通常マップではなく別のマップデータへ移動する)!
道中には趣きを凝らした多種多様なる障害物! 各エリアのゴール直前にはボスとして敵シンボルが配置されているクソ仕様! 走破時間のゲーム記録は15分24秒! レイドボスでもないのにこの拘束時間! 圧倒的冗長さ! 企画の立案者と通した人間は悪い意味で馬鹿である!
さっさと消えればよかった……
勇者は項垂れため息! だが後悔先に立たず! 覆水はどうやったって盆には返らぬのだ!
*それと、私が勝った暁には、あなたには私のギルドに入ってもらいます
*は? 聞いてないぞそんな話
*聞かれませんでしたからね。それとも逃げる? ランカーさんが、私から?
呪縛! 勇者は逃亡の二文字に
*いいだろう。飲もう。その条件。その勝負を!
*God! ならば行きましょう! 決戦のバートルフィールドへ!
勇者とは対照的にオーギュスティーヌは俄然ヤル気である! 吹かせる! 勝負の風を! そして勝つ気である! ランカー相手に! その意気だけは
マラソンクエスト説明ィィッ!(スキップ可)
プレイヤーは港から火山山頂までを己の力のみで走破しなければならないッ! 道中に置かれた様々な障害物を乗り越え見事火山までたどり着く事ができたら賞金ゲット! タイムによっては更に増加! ランキング1位となれば特別アイテムを手に入れる事ができる!
通過するエリアはスタート地点である港から街! 平原! 荒野! そしてゴールである火山! 途中HPが0となってもエリアの最初からリスタートする事ができる! 諦めない不屈のハートがクリアのコツだ!
*それじゃあ、私から始めるから見学でもしてなさい(マラソンクエストにはプレイ中のキャラクターを追尾して見られる観戦モードがあり、このモードでは某動画サイトよろしくコメントを画面上で流す事ができる)。
NPCに話しかけクエスト開始! 震えるピストル音! 走るオーギュスティーヌ! 港を駆ける! 駆ける! 駆ける! 移動スキルなし! 移動バフ効果なし! 移動力初期パラメータでの地味なムーヴ! 忍耐力がものをいうこの勝負は! 果たしてどのような盛り上がりを見せるのか!?
……
…………
………………
……………………
遅ぉい! 遅すぎる!
地味な絵面! 白熱せぬ光景! 手に汗握らぬ退屈!
不毛すぎる……
勇者は
まずはスタート地点! 港エリアに設置された障害物は機雷! スリップオイル! 敵シンボル・
初期ステージ故難度は低いが精神力は確実に削り取っていく! ここまでのオーギュスティーヌのタイム! 1:30!
続いて街エリア! 障害物は商人とスリ! そして敵シンボルの
こいつ……まさか……
勇者の脳裏に浮かぶ疑惑! 信じたくはない一つの疑念! これは確かめねばならぬとだらけきって見ていたモニタを凝視! オーギュスティーヌは平野へ移行! さぁ気になるはお邪魔虫! 投石! 強風! 眠りの花粉! 敵シンボルは
間違いない……こいつ……こいつ……!
勇者の悪い予感は見事に的中! オーギュスティーヌのここまでの挙動! ルート取り! プレイング! それら全てに無駄がなく! それら全てが極められている! つまり! オーギュスティーヌは!
こいつ! このクエスト! やり込んでいるな!
上げ止まらぬボルテージ! 加速していくステージ! 一定スピード保ち進むオーギュスティーヌに浮かぶは
何かやる気だな……
勇者の直感と呼応するかのようにオーギュスティーヌは動く! 絶妙な距離感で砂塵爆炎大将軍を誘導! 場所は地雷源! 通常砂塵爆炎大将軍は地雷源には入ってこぬが……!
マジかよ!
炸裂音と共に吹っ飛ぶ砂塵爆炎大将軍を見て勇者は驚嘆した! オーギュスティーヌはノックバック効果のある攻撃スキルを使用し直後に誘爆作用のある魔法スキルを発動! データの穴をついた華麗なるメタコンボにより砂塵爆炎大将軍は地雷ダメージにより爆発四散! 鬼の居ぬ間にそのまま走り抜けオーギュスティーヌは無事ゴール! タイムは驚異の14分53秒! なんとゲーム新記録である! ファンファーレと共に祝福されるオーギュスティーヌは高笑いのモーションを行い露骨に観戦している勇者を煽った!「どうだ! 見たか! 貴様に超えられるかこの記録!」と言わんばかりの大威張り!
……っ!
それを見て奥歯を噛み締める勇者! オーギュスティーヌに勝てるのかという不安が自然と身体を力ませる!
*どう!? ランカー様相手には役者不足かもしれないけれど、一応ゲーム記録だから、少しは楽しめる戦いになるんじゃないかなぁ!?
煽り! 淀みのない純粋なる悪意! 先の仕返しといわんばかりに! オーギュスティーヌ! ドヤりイキる!
*まぁ、ウォームアップには丁度いいかな
負けじと強がる勇者! だが額には汗! 相手の土俵の上だと悟り嫌な感覚に精神を支配されている!
*あ、そう。じゃあとっとと始めてください
たまに入る敬語が嫌なんだよなこいつ……
なんとなくオーギュスティーヌに苦手意識を持ち始めた勇者は促されるまま渋々とマラソンクエストのマップへ移動した! 後はスタート地点にいるNPCに声をかければクエストスタートだが……
……
…………
………………
勇者! 不動! 一向に動かぬキャラクター! クエストマップにチャットは届かぬが、恐らくオーギュスティーヌから散々な文句が送られ続けているのは想像に難しくない!
だが勇者は動かない! ピタリと止まったキャラクター!
何故動かないのか!
それはキーボードに触れていないからだ!
何故キーボードに触れていないのか!
それはそれは勇者がリアル世界で座禅を組みモニタに前で瞑想に耽っているからだ!
……
…………
………………
……………………よし!
目を見開き一直線! 勇者はようやくNPCに話しかけクエストスタート! 合図を告げるピストルの音が集中力を爆発させる! 押されるキーボードの矢印キー! 規則正しく吐き出される呼吸音! 勝負は始まった! 勇者は己がプライドと正当性を勝取れるのか! 勝敗の行方は運命のみぞ知るといったところである!
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