第22話
許せないとタイプしたオーギュスティーヌは手にした剣を大地に突き刺すモーションを取り、大層立腹した様子で
*どういうつもり? 他人の獲物を横するなんてマナー違反じゃない? どう落とし前つけてくれるの?
オーギュスティーヌという人物の言う通り横狩りは褒められないプレイング。ダメージ量によっては経験値の分配で先に削っていたプレイヤーが大きく割りを食う可能性もある非道徳的なレベリングであり、ハイエナと同じように嫌悪を示される行為である。
が、それは故意に限っての事。同一マップで狩りをしていれば必然生じる。誤射。誤撃。流れ弾。故に見逃す。むしろ気にも留めない。通常ならば。
しかしこのオーギュスティーヌとその取り巻きは違った。咎める。勇者を! ダメージを入れられず取り逃がした獲物を「横取りした」と責め続ける! いわば粘着! 圧倒的嫌がらせ!
*絶対に許さないから。もうアンタのスクショも撮ったから逃げられないからね。もし私に謝らないなら、晒し者にして2度とないログインできなくしてやるから
だが、肝心のオーギュスティーヌのクソコテスキルは低かった。出てくる言葉は
つまりこの状態。勇者にとっては一抹の不安もないのである。落度皆無の脅迫など虚仮威しに過ぎぬのだ。
*やってみなよ。それ眺めながら大爆笑してやるから。馬鹿が馬鹿な事してるなって
その為か勇者、挑発! 煽る! オーギュスティーヌを!
*はぁ? 舐めてるの? 殺すよ? 社会的に?
*出たよこの手の馬鹿が。それではどう殺すのか具体的かつ論理的に述べてみてくれ。掲示板に晒して、それからどうするんだ。まさか、晒し者にしてやったわざまぁみさらせ。で、社会的に殺した事になるのか? だとしたらまともな思考回路じゃないな。まぁ、そうでなくともゲームで難癖つけてくる輩なんざカスだな。どうせろくな人生歩んでないんだろ。鬱屈をゲームで晴らすクズ。救いようがない
手心加わらぬ批判! 貼り付けるレッテル! 人格否定! 勇者は恥ずかしげもなくネット弁慶を演じ悦に浸った! 沈黙しているオーギュスティーヌが怒りに打ち震えているのは明らか! 勇者はそれを想像しせせら笑っているのだ! 悪趣味! 下衆! 勇者の品性は今地の底へと落ちていた!
*はー
*ほんと最悪
*あんたゆとりでしょ
*だからそんな自分勝手に生きていられんだね
*人間的に雑魚のくせに
*しかも一人でネトゲとかつまんないやつ
勇者のdisにオーギュスティーヌも負けじと連投にて返答! タイプするは根拠なき適当! 塗り重ねるファジーな発言はイージーな暴言! 勇者は更に反応をThink! 研ぎ澄ますFeeling! 互いに
*あ、オーギュスティーヌ様! こいつランカーです!
反応する前に取り巻きが勇者に気付いた! そう。勇者はこのゲームにおいてランキングに名を載せる猛者! 優れたプレイヤーとして十傑衆の称号を得ているのである(非公式)!
ちなみにランキングは二年に一度、pvp方式のトーナメントによって決められる。チャンネル大会。サーバ大会。ゲーム大会と順に用意されており、チャンネル大会の上位5名がサーバ大会へ。サーバ大会の上位5名がゲーム大会へと出場できるシステムである。日程は半年を掛けて行われ、総参加者はおよそ50万人を超える。
*はぁ? あからまんなの? ゲームkyういでいきがらないでほいsんだけど
オーギュスティーヌは関係ないと刺々しい態度を取るも、動揺か、もしくは怒りの表れか酷いタイプミスをしていた。
*顔真っ赤だな。涙拭けよハゲ
すかさずそこを突く勇者。これは酷い。完全に場末の掲示板のようである。勇者の怒りももっともであるが、この対応はよろしくない。火に油を注ぐだけである。もちろん、知っての事であるが。
*あー! 死ね! ランカーがなんなの!? そんなに偉いの?
*偉い偉くないの話ではないだろ。俺はお前の不徳を指摘している。そこに実力は関係ない。まぁ、男にちやほやされていい気になって、なんでもまかり通る奴には何をいっても分からんだろうけどな
*うっさいカス! 黙れ!
*おぉ口汚いwメッキが剥がれてきたんやなw育ちの悪さが出てしまうんやなw悲劇やなw
繰り返される不毛なやり取り。非を認めぬ相手とそれを煽り続ける泥沼の様相。パターンとしては最悪。歯止めの効かぬモンスター同士の噛み付き合いは悲惨の一言。見世物としても最低である。
*はぁ? 何いってんの? ちょっと黙ってて!
*あ、あーそう。なるほど。分かった。そうするわ。
*?
*オーギュスティーヌ様。チャットが……
*あ
どうやらオーギュスティーヌは取り巻きか投げられた個別チャットを全体チャットで返信してしまったようである。よくあるミスだがこの場においては間抜けが過ぎる。勇者もいくらか毒気を削がれてしまった。
……離れようかな
不動のオーギュスティーヌと取り巻きを前にして勇者は若干の飽きと後悔を覚え始めていた。そも、勇者は自身がいったように晒されたところで全くのノーダメージ。痛くも痒くもないわけである。関わり合いになった時点で既に負け。離脱こそがモアザンベターと思考が巡り始めたのであった。
……行こ。
勇者が逃走を決意したほぼ同時刻。オーギュスティーヌからチャットが打ち込まれた。
*小生意気なランカーさん。私と勝負いたしませんか?
予想外。というより異常。オーギュスティーヌの不可解な誘いに勇者は困惑。
*もし貴方が私に勝ったら、今回の事は水に流してもいいですよ
一転した口調が胡散臭い。企てがある事は明白である。
*意味が分からん。馬鹿かお前は
*はぁ? 人が下手に出ればその態度! マジ最悪!
悪態。そして再度不動。恐らく、また取り巻きとチャットをしているのだろう。ご苦労な事だ。
*えー、オルテガの息子ロトさん。
*なんだアバズレ
*殺すぞてめー!
*いいから話を進めろよ。らちがあかん。
間が空く。オーギュスティーヌは怒りを鎮めているのだろう。
*あなた、ランカーなんでしょう? 持ちかけられた勝負から逃げるだなんて、あり得ませんよね?
オーギュスティーヌがそうタイプしたのはきっちり15秒後であった。感情を抑え込み冷静さを取り戻すには十分な時間である。そして。
*はぁ!? 逃げる!? 俺が!?
勇者! 挑発に乗る!
*では、勝負してくれるんですか?
*あったり前じゃボケ! ランカー舐めんな!
先までの余裕はどこへやら。勇者は安易にオーギュスティーヌからの勝負を受けてしまった。ゲームの中で生き、ゲームしか
*それで勝負は!? pvpだな!? よし! 決闘申請送ったぞ! 早く承認しろ! 早く! は! や! く!
逸る勇者! 血気が過ぎる! 決闘申請を怒涛の16連打!
*あら、誰もpvpで戦うなんていってませんよ?
*? じゃあどうやって戦うんだ
ハシゴを外したオーギュスティーヌは、勇者の問いに、ゆっくりと時間をかけて返答をした。
*マラソンクエストで、クリアタイムを競いましょう
「……っ! マラソン……!」
オーギュスティーヌの提案に勇者は舌打ちをした。キーボードに起き指が震え、嫌な汗をかいている。
早まった……
勇者はそう後悔しながら、分かった。と、タイプせざるを得なかった。
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